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マリア様はご機嫌ナナメ 23 マリア様立ち上がる

 その日、僕はバイト明けの重たい体を引きづってアパートに戻った。重い足でアパートの階段をあがり、僕はドアを開けて、
「君のダ~リンは、いささかお疲れ、風呂屋が開く頃に起こして」
僕はそう言って倒れこんだ。

 最近マリアは僕を「オイ」とか「お前」とか「カイ」とか呼ばなくなった。でも、「ダーリン」はキツイな。そう思いながらマリアの膝の上に頭を乗せ眠りに落ちた。
 初夏の朝の風は優しくマリアの髪をとおり抜け、時々、僕の頬に落ちた。徹夜の仕事はきついけど僕の疲れた体をつつみ込んでくれるマリアがいる。
 浅い眠りから覚めると、卵焼きを焼くマリアの後姿が僕の視界に入ってきた。

「私、決めてきたから」

 「え!」
僕は驚いた。何を決めたのか?

 彼女は、編入出来そうな大学の事を話してから、銀座、銀座よとことさら「銀座」を強調して、銀座でピアノ講師のバイトが決まった事を僕に伝えた。
 そこは銀座の大手楽器メーカーの店舗だった。やっぱり、才能が有るんだなと思った。

「内助の功か」

 それにしても大丈夫かな?。アイツ、働いたこと有るのかな? 僕の少ないバイトの経験だけど、マリアって山の手のお嬢さんだから、「働く」っていう意味を分てるのかな?

 でも。そんな心配は杞憂だった。女は強い、それが僕の感想だ。

 「銀座ってカイのバイト先の有楽町に近いでしょう」
マリアは屈託なく笑う。

 マリははピアノのバイトが終わると、よく僕のバイト先へ訪ねてきた。僕はアルバイトだけど通行証を会社から貰ってた。訪ねてきたマリアは受付で毎回僕を呼び出す。

通用門の初老の守衛さんも気さくな人で、
「進堂さん、そろそろ通行証を発行してもらったら? だって奥さんでしょう」
マリアはニヤリと笑った。
「進堂マリアか、悪くないね!」

 マリアが訪ねてくるのは、ズバリ、社員食堂を利用する為だ。料理は美味いし、料金は安い。定食は二百五十円、ラーメン、うどんそしてそばの麺類は七十円、少食だと思てた彼女が定食をもりもり食べるし、。挙句はご飯をお代わりする始末だ。それに「進堂マリア」と書かれた通行証も彼女のお気に入りだった。

 アパートにいるときは結構かわいい女の子ぽい服を着てるのに大学とバイトに行く時は相変わらず黒装束だ。それはそれで迫力があった。

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