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夜の秋風と下校

外に出る。
肌に当たる風が、少し前とは完全に違う温度をしていた。
その季節特有の匂いが体を満たし、たくさんの虫の声を穏やかに聴く。
冷たい風が心地良い。来る冬の気配に一抹の寂しさを感じる。

坂を下りながら、夜の帰途につく。
トン、トンという衝撃が踵から膝に、膝から上体に響いて、カバンを揺らす。
ズルズルと、いつの間にか膝丈だった靴下がくるぶしまでずり落ちてきている。
足全体を秋風が包む。
心地いい。

揺れるカバンから、さっき自販機で買ったクリームパンのことを思った。
カバンの中で、参考書に潰されていないか、急に心配になってきた。
遠くに見える夜景と、近くに見えるテニスコートのライト、私を追い越していく同じ学校の知らない人たち。
ゆっくりゆらゆら歩きながら、こんなことだったらクリームパンなんて買うんじゃなかった、なんて。

お腹が空いてたから、食堂に行って、温かいご飯とお味噌汁を食べれば良かったのかもしれない。
私、食堂で食べる鳥丼が好き。お味噌汁もついてて、300円。
でも食堂には行けなかった。
部活終わり、友達とワイワイガヤガヤしている集団が集う食堂の中、1人、鳥丼を食べる。
今日はその勇気がなくって、逃げるように食べたくもないクリームパンを自販機で買った。
だから今日のクリームパンは、敗北の象徴。

それでもお腹は空いてるから、電車でクリームパンを開けるのを楽しみしていたりする。
またゆらゆらとカバンを揺らす。
トン、トン、と駅に近づいていく。
夜景も私に近づいてくる。

心地良い秋風に機嫌を良くしながらも、やっぱりどこか悲しい。

部活の女の子達と、うまく会話ができない。いつになったら上手に関われるんだろう。
ああ、今日、あの子に挨拶したけど返してもらえなかったな。私の声が小さかったのかな。
宿題いっぱい出た。今日提出の分の宿題ですら、終わってないのに。
明日も明日も、学校があるんだよな。
進路、決めないとな。
なんのために、生きてんだろうなぁ。

もんもんと考えながら、近くを流れる川の音を聴いた。
前を歩く人のカバンについたジャラジャラのキーホルダーの音も聞こえた。
後ろを歩く人の会話も聞こえた。
漫画の話をしてる。うん、私もその漫画好き。

風が冷えている。
匂いもそれに伴って変化している。
心がざわつく。ざわざわ。
でも、心地良い。

トン、トン、ローファーが音を鳴らす。
トンという衝撃に、部活で悪くした足首が、たまにツキンと痛む。
通院もリハビリもしたけど、完全に治すことはできないから、毎日トレーニングして足首周辺の筋肉を鍛えるしかないねって、理学療法士の先生に言われた。
治らないならいいやって、筋トレサボってるから、やっぱ痛いなぁ。

下がる気温と連動するように、足首も冷えて痛む気がする。

ずり落ちた膝丈の靴下。
揺れるカバン。
トン、トンと音を鳴らすローファーと、ちょっと痛い足首。
敗北の象徴のクリームパン。

真っ黒の夜に明るい歩道で、ふと香る秋の香り。
秋風。虚しさ。寂しさ。

電車でクリームパンを食べよう。

学校帰りなんて、こんなもんだ。


最近涼しくなってきたなーって思って。
涼しい季節は、なんでかいつも夜の下校を思い出す。
ふっと思い出して、ちょっと文章にしてみようかなって思った。
気まぐれ。

この季節涼しくってすごく好きだけど、同時に寂しい心地がしてしまうんだよね。

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