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返してなかったお元気ですか

沖縄の大学を離れて東京へ
目の前の何かを掴むことに必死だった22歳の夏
東京の不動産屋でアルバイトをしてたところに
保険の営業にきていたHさん

たまたま私が応対することになって
事務所前のエレベーターホールで
個人年金加入の営業を受けて
自分自身が不安定な生活をしていたこともあって
ちょっと入ってみるかという感じで
加入して今に至る約13年

私が東京を離れてからも
営業はがきやLINEであっても
YUKIが好きという共通点から
挨拶に雑談も加えて連絡をくれた
必ず、毎年

営業トークだとわかっていても
YUKIのライブ遠征先で会おうと話した
ご飯行ければいいねとか話した
ひとつのツアーで何公演も地方を回っていた
いつも元気に笑顔で
今回のライブはどうだろう
あのグッズいいですよね
って話してくれた
深くはないけど細くつながった糸だった

今日も仕事が終わって
めずらしくバイトがなかった夜
家に帰るとマンションの管理人さん
推定70代のおじいさんが
ちょうど帰るところで
管理業務終わりにお酒をひっかけたらしく
今度一緒に飲みに行こうなー!と
元気に背中をたたいて帰っていった

エレベーターがエントランスホールに着く前に
集合ポストを覗いた
広告に紛れてある白いはがき
保険会社の担当者から定期的に届くはがきだった

「突然ですが弊社担当の」
そうか13年経ってHさん退職したんだ
「Hは闘病の末」

「7月4日に永眠しました」

「なお後任の担当者は」

震えた手が止まらない
理解が追い付かない
誰に聞けばいい?
開いたHさんのLINEを見て気づく
誰に何を聞くつもりだよ
もう返ってこないのに

見返したLINEは今年の1月だった
挨拶LINEを送ってくれていた
元気ですか、おかわりないですか
そんなLINEに返信していなかった
いつもは返している
Hさんもお元気ですか

なんで どうして いつの間に

ただそれだけが1時間も2時間も
頭の中をぐるぐるして
それでも手の震えは止まっていなかった

考えても出る答えはないし
返事はもう届かない

離れたその町でどんなことを思っていただろう
どんな季節を過ごしていたんだろう
きれいな終わりも まとまりもない
ただ多くの写真の中から
あなたに見てほしい空の写真を
選びました

13年間ありがとうございました
私のがむしゃらな東京生活に残るあなたの姿
出会うことができてよかったです
心より 心より ご冥福をお祈り申し上げます


ドラマチックでもロマンチックでもない多くの出会い
それでも自分の人生には不可欠で
それはいずれどんな形であれ終わりは来るんだと
数ある中のひとつだとしても
唯一無二のあなたであるんだと
教えてくれました

今度飲みに行こう
管理人さんが行ったという
立ち飲み屋さんに連れて行ってもらおう

本当に ありがとうございました

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