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運営会社はライバーをどこまで管理できるか

 金魚坂めいろの引退(契約解除)をきっかけとして、大きな炎上騒ぎが起きている。
 個人VTuberからの告発と称する動画投稿やにじさんじ公式からの詳細な経緯説明、利害関係者である夢月ロアからの情報提示など、様々な立場にあるものから多くの情報が提示され、混乱をきたしている。十分に事態を理解しないまま自身の感情を剥き出しにしたり、関係者に対して心ない言葉を浴びせるような動きも見られ、まさに一触即発の様相を呈していると言えるだろう。

 ただ、事態を俯瞰した上で言わせてもらうなら、今現在己の感情を前に出して意見表明を行っている人々は実に浅慮であり、実に危うい。情報に目を通すことなく伝聞で自身の立場を定める人が少なからずいることは、今回の炎上騒ぎが拡大する要因となっている。また、バーチャルYouTuberに対して興味の薄い人々がこれまた表層だけを掬って邪推を繰り広げている点も、危険であると言わざるを得ない。
 ネット文化の悪癖と言うべきかもしれないが、一つ騒ぎが起きた途端に事態を穿った見方で捉え、手頃な相手を魔女裁判に掛けるという傾向が年々強まっている。テレビ番組に出演していた俳優が誹謗中傷を理由に命を絶つ事件も記憶に新しい。そのような中で全く同じことを繰り返しているのだから、これはもう愚かとしか言いようがないだろう。

 今回は事案に冷静さを取り戻すきっかけとして、公衆に提示された情報から事態の詳細を探っていく。その上で、にじさんじを運営する株式会社いちからがどのような手段を講じたのか、利害関係者に問われる責任は何かを明らかにしていこう。

事件の詳細

1.金魚坂めいろの『訛り』と運営からの訂正要求

 今回の引退騒動の始まりは、金魚坂めいろがデビュー後初のYouTube配信を行った時期にまで遡る。

 画面が配信に切り替わった直後、金魚坂めいろは訛りの『ない』言葉で開始前の確認を行っていた。その後マイク音声が入ったままになっていると気づきミュートに切り替え、数分間をおいて自作のオープニングアニメーションを流し始めた。
 オープニング明け以降の金魚坂めいろは、訛りの『ある』言葉で配信を開始した。そのイントネーションの特徴から、リスナーからはにじさんじ所属の『夢月ロア』を想起する声が多く上がっていた。なお、所々で標準語のイントネーションになっている箇所もあり、この時点ではっきりとした訛りが出ていたわけではない。

 初配信直後から、SNS上で夢月ロアとの口調の共通性を指摘する声が上がり始めた。また公式の説明によれば、運営側も配信内での金魚坂の言葉遣いが事前に確認していたものと異なることを把握していたとされる。
 にじさんじ所属のライバーは、オーディションの選考過程においてインターネット通話での面談と対面での面談を受けている。また、オーディション応募の際にはポートフォリオとして動画の提出が必要である。したがって、運営側が配信上で使うと思われる言語を把握していた可能性は高い。仮に標準語に若干の訛りが生じていたとしても、『異なる』と主張する以上は明確な差異があったのではないだろうか。
 これについては、今後法廷で争うなどの事態に発展すれば科学的な分析が行われるものと期待する。

 個人VTuber・鳴神裁氏による告発の拡散と称する動画によれば、初配信直後、運営側から金魚坂めいろに対して「訛りのない話し方で配信を行ってほしい」という旨の連絡が入ったという。これを受けての配信かどうか定かではないが、彼女は『なまり禁止雑談』と称する配信を後日行った。

 鳴神氏の動画においては、初配信の直後からライバー同士の連絡・交流手段となっているDiscordを介して相談を行い、当該スレッドにて数人から反応を得ていたことや、DM経由で助言を受け取ろうとしていたことが示されている。この時点では夢月ロアからの接触は確認されておらず、また運営に対する個人的な申し出も行われる前だった。

2.夢月ロアから運営への要求

 7月の下旬、夢月ロアは運営に対して金魚坂の『訛り』に対する修正要望を提出する。その根拠として挙げたのが以下の2点である。

・夢月ロアの言葉遣いは現実の方言や地域特有の訛りに由来しない、人工的な地域言語(魔界語)である
・他のライバーが酷似した『訛り』を常用することで、夢月ロアの世界観を崩してしまう

 この主張については判断の分かれるところだ。人為的に用意した方言とはいえ、参考にしているものは存在するわけであり、まったくのオリジナルというわけではない。金魚坂めいろでなくとも、その地域の話者がライバーになればいずれ起きていた被りを予見していなかったのかと思う方も少なくないだろう。
 一方で、長期間のライバー活動が彼女の言葉遣いを実質唯一のものとしていることは否めない。既に彼女の『魔界語』としてブランド化されている手前、それを保護しようとして動くことは何らおかしい話ではないだろう。

 なお、夢月ロアの魔界語の特徴としては語尾の『でよ』以外にジグザグのイントネーションが挙げられる。たとえばコラボ相手のアルス・アルマルを「まんまる」と呼ぶ際、「ま↑ん↓ま→る↑」のように細かく高低を付けるのである。不自然なところで音程を上げ下げしたり、彼女しか使わない呼び名を付けることで、一般的な方言との差異を強調していることは確かだ。
 勿論、これをオリジナル言語というには無理があるかもしれない。が、やはり真似をすればわかる程度に特徴的であると言えるだろう。

 一方の金魚坂めいろは、運営からの要請で訛り縛りの配信を行ったものの、「育った環境に由来した言葉遣いであるから真似てはいない。緊張している中で自然と出てしまう」と自ら訴え出ていた。そして、運営に対し『金魚坂めいろの言葉遣いは模倣でない』ことの公表を求めるとともに、これが実現できない場合は卒業する旨を連絡した。
 これに対し、運営側は検討を行った上で、ライバー同士の関係性に対して公平な姿勢を取る(すなわち、金魚坂の申し出も夢月の要求も直では受け入れない)ことを決めるとともに、両者に対して折衷案を提示している。また、公表を行わなかった理由としては『公式声明によって状況が改善することを見込めなかったため』としている。
 ここで重要なのは、金魚坂めいろの要求だけでなく夢月ロアの要求に対しても運営側から「ノー」が突き付けられている点だ。夢月ロアは、自身の言葉遣いと被ることがブランディングにおける危険要素となっていることから、使用の自粛を求めていた。これを呑まずに代替案を示しているということは、夢月ロアの要求も『行き過ぎた要求である』と認識していたことになる。つまり、利害関係者のどちらにも肩入れしていない『冷徹』な状態にあったと言える。
 折衷案の内容については文書化されておらず、また鳴神氏も触れていないことから推測の範囲を超えることはできない。夢月ロアを印象付ける口調となっている『でよ』に使用制限を設けるあたりが、おそらく交渉のラインとして定められたのではないかと思われる。

2.金魚坂めいろの一度目の引退発言

 運営側から折衷案が提示されたものの、金魚坂めいろは公表が聞き入れられないことを不服として交渉を続けていた。事態が進展しないことから、夢月ロアは自身の判断にもとづいて金魚坂めいろに直接の交渉を持ちかけようとする。

 夢月ロアの事情説明ツィートによれば、彼女は8月2日に金魚坂めいろへ事案に関するDMを送信したとされている。「自分にとっては大事なことだから話を聞いてほしい」と連絡を送った彼女に対して、金魚坂めいろは「間に誰かを挟んで話した方が良い」と前置きした上で、自身の立場を事細かに記載した返答を送った。
 これに対し、夢月ロアは運営を経由していることで自身の考えが伝わっていないとして、直接話したいと返答。金魚坂めいろも話し合うことに賛同したものの、このDM以降は返答を行っていない。夢月ロアからの数回の問い合わせに対しても一切の返信に応じていないことから、直接の交渉をする気はなかったと考えられる。

 この時点では夢月ロア側の焦りが強く現れていると言えるが、同時に金魚坂めいろの要求が折衷案以降も変わっていないことが明確に読み取れる。
 金魚坂めいろとしては、自身の言葉遣いが模倣でないことを運営が保証すべきであるという考えを一貫して持っている。また文面においては、『でよ』についても意識して使っているわけではないという主張に終始している。このことから、「まずは模倣の事実がないことを示してもらわなければ交渉のテーブルにもつけない」という考えにあったと言えるだろう。
 それを証明するかのごとく、9月上旬には契約の解約を彼女側から申し出ている。これは、当初から求め続けていた公表を運営が行わなかったことに対するものであり、運営に予告していた通りの行動である。運営はいずれ金魚坂めいろが折れるという判断をしていたのだろうが、予想以上に強かだったということになる。
 活動の継続を要望したものの、金魚坂めいろがこの段階で意思を変えることはなく、卒業の申し出を聞き入れることとなった。

3.突然の引退撤回と不穏な行動

 こうして本来であればこの時点から卒業に向けた準備が進んでいた筈だった。しかし、わずか一週間ほどで金魚坂めいろから撤回の申し出が行われることとなる。この時点では、運営側も活動継続に要望の意思を示していたこともあり、撤回が受け入れられる形となった。
 しかし、時を同じくして彼女は不穏な行動を取り始めるようになる。

 Twitterにおいてこのような発言が書き込まれている。

 この時点で既に何かと戦う意思を示しており、また同時に何かを『悪』として敵対視していることが明確である。それがにじさんじの運営体制や夢月ロアであったかどうかは断定できないが、「交渉によって解決に導くことは難しい」と判断していた可能性はあるだろう。

 復帰配信として久しぶりにリスナーの前へ姿を現した金魚坂めいろは、自身が引退を申し出ていたことや内部での対立があったことを公表する。この時点で利害関係者の存在はぼかしていたものの、配信内で描いたイラストや鳴神氏が配信した動画の内容から、夢月ロアに関する問題であるという推測がなされ始めていた。
 また、この配信で公表された内容を金魚坂めいろは「運営から許可を取っている」と明言したが、公式の文書によれば未承諾であったとされている。この点については、内容的にも口外を許すとは思えないものであり、実際に許可は得られていない可能性が高い。

 この配信での一連の発言を受けて、にじさんじ運営から秘密保持義務違反についての警告が行われるとともに活動休止が提案された。同時に、Twitterアカウントから活動休止に伴う告知を行うことも通知された。この時点で運営が事案についての説明を行うつもりだったかどうかは不明である。
 実質的に活動が制限されることを受けて、金魚坂めいろは改めてにじさんじの引退を運営側に打診した。運営としても活動方針においての不和(おそらくは『訛り』に関する公表の是非)が解消できないことから、再び契約の終了に向けた手続きが行われることとなった。

4.二度目の復帰申請、情報漏洩、そして契約解除

 2度目の卒業準備が進む中、金魚坂めいろは不可解にもまた卒業撤回と活動の再開を申請する。しかし、運営がこれを許可することはなかった。前述の復帰配信における内部情報の公表によって不信感を募らせていたことや、一連の交渉においても行き違いが繰り返され、破談状態にあったことからの拒否である。運営は金魚坂めいろとの信頼関係の構築が難しいとして、彼女の申し出を却下。同時に、YouTubeアカウントとTwitterアカウントに対してはアクセス制限を追加した。
 配信やTwitterの発言を封じた理由としては、再度の秘密情報漏洩やにじさんじ・いちからの品位を損なうような発言が彼女によって行われうると判断したからだろう。これにより、彼女の金魚坂めいろとしての発信は以降一切行われなくなった。

 明けて10月、個人VTuberである鳴神裁氏からある動画が提示された。彼は以前からバーチャルYouTuber界隈のゴシップや騒動を積極的に取り上げたコンテンツを発信しており、にじさんじに対しては明確な敵対姿勢を示すひとりであった。そんな彼が公開した動画は、『金魚坂めいろが夢月ロアにいじめられていた』という内容の告発だった。

 この動画の中で、彼は金魚坂めいろ経由で流出したと思われるDiscord画像を公開。さらに金魚坂めいろの側に肩入れする形で夢月ロアとにじさんじの運営にあたる株式会社いちからを非難した。
 運営側はこの動画が出回ったことを受け、内容から金魚坂めいろが内部情報の漏洩に関わったと判断し、彼女を秘密情報保持の義務に違反したことによる契約解除とした。そして、公式に金魚坂めいろが引退したことを公表した。

 この行動は、拡散していた鳴神氏の動画を見た人々から事実の肯定と受け取られることとなり、利害関係者である夢月ロアと株式会社いちからに対する誹謗中傷や脅迫行為が急増する結果となった。
 ライバーの引退に際して告知すること自体は運営会社にとっての義務であるから、これ自体を責めることはできないだろう。しかし、一旦卒業とした扱いを契約違反に伴う解除措置に切り替えた旨を示したことで、『いじめて追い出した』というゴシップに対する根拠を与えてしまったことは事実である。そうした意味で、誠実ではあっても反響を予測していなかった点を省みる必要はあると思われる。

それぞれの責任はどこにあるか

 今回の事件は、主だった関係者すべてに問題があり、しかるべき責任を負わざるを得ないと僕自身は考える。

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