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権利許諾問題は利用する側だけの問題か

止まれなかったホロライブ

 6月に入って以降、『ホロライブ』とその運営を行っているカバー株式会社の周辺で大きな騒動が起こっている。

 きっかけは、任天堂のゲーム実況配信に関するガイドラインが改定されたことだ。バーチャルYouTuberを多く擁する事務所である『にじさんじ』の運営元である株式会社いちからが、このガイドラインの中で包括契約の法人として明記され話題を呼んだ。一方、同様の形態でバーチャルYouTuber事務所を運営し、なおかつゲーム実況配信による集客力の高かったカバー株式会社の名は記されていなかった。
 このことが、かねてより疑念を抱いてきた層を動かした。無許諾の収益化配信が横行していたのではないかという疑惑は、真偽不明のまま急速に広まっていき、所属のライバーやSNSアカウントを持つ運営スタッフに対して方々から厳しい目が向けられることとなった。しかし、当事者達の反応はあまりにも危機意識の薄いものだった。

水を得た魚のように
最近知った知識をばらまいて
すぐそれ違反とかいう人いるけど
浅はかな知識で言葉は放っちゃいけないと思うのよね。
ダメなことを本当にすると思う?
その何気ない発言が
風評被害を産むことを学んで欲しい。

 疑惑が取り沙汰されていることを知ったライバーの1人は、Twitterでこのように発言している。この時点では害意を持った者による風評被害、あるいは誹謗中傷として捉えていたことが伺える文章である。なお、当該ツィートについては既に削除されているため、後の運営側の対応に基づき発言を取り下げたと見るべきだろう。
 彼女以外のライバー達も反応はまばらであり、あったとしても事案については楽観的な見方であった。自らに向けられた疑惑や嫌悪感への応対ではなく、外の出来事をきっかけにして同業者との対立を煽るような厄介事が持ち込まれた、という厄介者相手の意識。この段階では確証がなく白黒をつけることができなかったとはいえ、危機対応の第一声が軽く流すか無視するかという形で済まされたことは、後の炎上の範囲を大きくする一因となった。

 6月5日、カバー株式会社は騒動に対して声明を出した。その内容は半信半疑に追及を続けていた者達にとっても衝撃的だった。

 任天堂が発売したゲームについて、法人としての許諾を取ることなく個人利用という解釈の下で配信を行っていた。この『無許諾配信状態』を運営者自らが認めたことで、外部から提示された数々の疑惑は覆しようのない事実となってしまったのである。

 更に、これらの配信が収益化可能な状態で行われていたことで、ライバーの活動に対する姿勢や倫理観が疑われる事態となった。
 たとえば包括契約が明記される前のにじさんじでは、何か月にもわたって収益化機能を切っての任天堂ゲームの配信が行われていた。厳しい自制状況に苦言を呈すライバーがいたほどの長期間である。その同時期のホロライブでは収益化配信が行われ、有料コンテンツであるスーパーチャットが多数発信されていた。配信稼業として見ればこの状況はまさに天国と地獄。雲泥の差がついた様子を見て、
「いちからは許諾もまともに取れないのか」
などとせせら笑っていた層がいたほどである。これが実際には無許諾であり、むしろ許諾を得るために苦渋の選択をしていたのがにじさんじの側だったと発覚したのだから、騒ぎにならない筈がない。
 カバー株式会社の役員から発信された『黙認ベース』というキーワードも炎上を余計に勢いづけ、ゲーム実況全般の追及が始まった。このゲームは許諾を取ったものか、許可を得たとライバーは言ったが果たしてどうだ、などと無差別に掘り返される様は、あまりにむごたらしいものであった。責めの手は他の事務所にも及んでおり、公式発表が行われた後も事態収拾の兆しは未だ見えていない。
 所属ライバーの中には、一連の状況を嘆き「変わっていくべきだ」と発言する者もいた。しかし、見解が事務所内で合致しているとは言い難く、未だ事案について触れない者、ほとぼりが冷めるのを待つかのごとく活動休止をファンに告げる者もいる状況である。現段階で、事務所としてのトラブル分析と再発防止策が提示されるとは考えにくく、しばらくは疑念の燻る中で配信活動が行われることになると見られる。

『黙認ベース』は果たして利用側だけの責任か

 ここまでは、事案に関する一連の情報である。進行中の事案であるため、あくまで僕の記事内では『誰が悪かったのか』といった話はしない。その上で考えていきたいのは、『黙認ベース』という概念である。

 著作権における黙認という概念は、コンテンツの権利者からのお目こぼしを頼りにグレーゾーンの活動を行うという意味合いで用いられることが多い。この代表的な例としてよく挙げられるのが同人活動である。
 非商用で許諾されている作品から二次創作を行い、作った冊子やグッズをイベントなどで有償頒布することは、著作権法を厳密に適用するならリスクの高い行為である。こうした活動においては、費用を賄うための対価という位置づけで、頒布にともなう金銭の授受を黙認している。勿論、作品のイメージを損なったり公式グッズの悪質な模倣であれば権利者から訴えられることもあるが、そうした過激なものでない限り積極的に口を出してくることはない。
 また、最近ではイベント当日だけでなく同人ショップを経由しての通信販売を行っている場合も多い。これらについても、黙認の姿勢をとって関与しない権利者が多い。傍から見れば立派な商売として成立しているが、権利者が明確に認めない限りファンの非商用的な頒布活動である。

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