任天堂の著作物利用の包括許諾がもたらす効果
新しい権利利用の形
6月1日、任天堂から新しい著作物利用ガイドラインが公開された。最大の注目点は、公に企業でのコンテンツ利用が許諾された点である。
これまで任天堂のゲームを使った投稿は個人利用の範囲でのみガイドラインで許諾されており、タレント事務所やマスメディア、イベント運営会社などが動画を投稿する際は、利用許諾を得るため手続きを行う必要があった。しかし、今回の改定で、列挙された4つの企業との包括契約が明記され、今後個別の手続きなしに活動の正当性がガイドライン上で保証されることとなったのである。
今回のガイドラインで明記された企業は以下のとおりである。
いちから株式会社
バーチャルVTuberの事務所である『にじさんじ』を中心に、海外で活動するVTuberのサポート事業やユメノグラフィアなどの事業を展開。ライバー各員によるゲーム実況配信のほか、公式番組企画として『ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン』をYoutubeチャンネルの動画として配信するなどしている。
UUUM(吉本興業所属を含む)
YouTuber事務所としては大手の企業であり、吉本興業の芸能人がネットでの活動において契約を結んでいる。所属者のチャンネルではゲーム実況配信も盛んに行われている。
ソニー・ミュージックマーケティング
ソニーミュージック系列の、音楽や映像コンテンツをデジタルコンテンツとして取り扱う企業。コンテンツの販路拡大の業務以外に、イベントの企画や制作などを行っている。
東京産業新聞社
電子ニュースサイトの『ガジェット通信』を運営している企業。レビュー記事等を扱う上で、ゲームプレイ動画を掲載するなどの活用が考えられる。
前の2社についてはゲームとの関わりがわかりやすいが、他についてはやや利用許諾との関わりが見えにくいかもしれない。
簡単に言うと、今回許諾された4つの会社はいずれも著作物の利用頻度が高く、事業の性質上スピード感が要求される企業である。それぞれの案件に対して手続きを行うより、包括的な契約を結ぶことで裁量を拡大した方が活動しやすくなる。こうした性質を持つ企業に対して、任天堂が正式に許諾を出したことは画期的な決定だと言えるだろう。
包括契約許諾でない≠許可を取っていない
今回包括契約を結んだことにより、UUUMやいちからが運営する事務所のゲーム実況配信においては利用許諾上の憂いが晴れた状況である。これまで新たなタイトルを配信する度に問い合わせを行っていたことを考えれば、任天堂が管理するコンテンツのみとはいえ自由に利用できる状況は心強い。とりわけ配信コンテンツの収益化において、タレントやライバー側の配慮や敬遠をする必要がなくなったのは素晴らしいことである。
一方、まだ包括許諾を得ていない企業や事務所に対してはあまり好ましくない状況が生まれている。配信を視聴する動画サイト等のユーザーから、
「彼らの活動は無許諾で行われているのではないか」
という疑いをかける声が上がり始めているからだ。一度公の文書として提示されたことで列記された企業が保証された反面、そうでない企業にはどうしてもグレーゾーンやブラックゾーンの印象が付きまといがちである。視聴する側がそうした風潮を受け、不安に駆られるのは無理もないことだろう。
しかしながら、これらの多くは単なる杞憂や嫌がらせに過ぎない。
任天堂との包括契約というのは、あくまで今まで個別に申請され、行われてきた手続きをいちいち要求しないというものである。包括契約を結んでいない企業や事務所については、これまで通り個別の案件について手続きを行うことで、同様の収益化を実施することができる。
したがって、包括契約を結んでいないからといって許諾を得ていないわけではないのである。配信を行っている側から無許諾である旨が提示されない限りは、視聴者側があれこれと噂や憶測を立て、むやみに問い合わせる必要はない。
また、個人での活動については、既にガイドラインにおいて許諾の範囲や収益化可能なシステムについて明記されている。特定の事務所に所属せず配信を行っている実況配信者やVTuberについては、任天堂のガイドラインを遵守する範囲であれば目くじらを立てられる筋合いはない。ルールを守る良識的な人間でありたいなら、こうした方々に対して浅慮なふるまいをとり迷惑をかけることは避けるべきだろう。
包括契約がもたらす効果
手続き以外の面では、任天堂との間に包括契約を結ぶことでどういったメリットがあるのだろうか。
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