実家の猫
「#やさしさにふれて」という投稿コンテストを知り、何かエピソードがないかと考えていました。そしてふと20代の頃に書いた「猫のエッセイ」を思い出し、それがお題に合うかもしれないと思ったのです。
そこで当時書いたものに、少し手を加えて記事にしてみました。よかったら読んでみてください。(以下が本文です)
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両親の実家は岡山にあり、夏休み(小学生の頃)には家族で遊びに帰っていた。親の兄弟は多かったので、みんなが集まるとにぎやかだったのを思い出す。
泊まる家は、大体が父方の実家だった。実家は駄菓子屋さんをやっており、そこでの買い物は帰省時の楽しみのひとつである。10円、20円のお菓子やくじ引きものがたくさんあり、100円あれば十分楽しめたものだ。
また店の古い冷蔵庫には、「マミー」なる飲み物や、コーヒー牛乳、ペプシコーラなど、瓶入りのジュースがいろいろと入っていた。その中で、帰ってきていの一番に飲むのは「ラムネ」である。
店に備え付けの、栓抜きならぬ「ビーダマおとし機」を使い、いきおいよく「ポン」とビーダマをおとして、あふれてくるラムネを急いで口をもっていって飲むのだ。
ラムネの瓶などは再利用するらしく、その場でグイッと飲んで瓶を返すのがお決まりだった。
実家には「ふっちゃん」という名前の猫がいた。手足の3分の2と耳、顔、しっぽが濃い茶色で、体は白に近い灰色をしていた。当時小学生だった私はふっちゃんを怖がっていたので、むこうも警戒してか、仲よく遊ぶなんてことはなかった。
しかし、食事の時には急接近することがあったのだ。
久しぶりに親兄弟がそろい、台所に集まってみんなでワイワイとご飯を食べる。実家の裏はすぐ海で、瀬戸内海でとれる海の幸が食卓に並ぶこともしばしばあった。
そう、こういうときが一番あぶなくて、ご飯を食べている間じゅう、なぜだか机の下をふっちゃんがうろうろしている。ときどき下を覗くと、目が合ったりもする。ふだんはむこうから近づいてくるなんてことはないのに、今宵はやたらと足に擦り寄って来るではないか。
なんだか気になりながらもご飯を食べていると、突然、太ももに重力を感じる。机の下から、ふっちゃんが太ももの上に飛び乗ってきたのだ。
そして私の太ももの上で体勢を整えて、「何か文句がある?」とでも言うように、つんとした顔でしばしのあいだ私を見つめる。そしてやおら前を向き、「いい匂いねえ」と目を細めてうっとりしながら、食卓に並ぶお刺身たちをねらうのだった。
私はなんとかふっちゃんに降りてもらおうと、恐る恐る「こっ、こらっ」と言いながらぺしっと頭を叩いてみるのだが、いっこうに降りてくれなくて困っていた。
なんとか下に降りたとしても、ずっと机の下でうろうろしているので、いつふっちゃんが飛びついてくるかと思うと、机の下ばかり気になってご飯どころではなかった。
こんなこともあって、どうもふっちゃんは苦手だった。
夕食も終わって寝る時間になり、いつもと違うふとんの匂いを感じながら、畳の部屋で眠りにつこうとしていると、なんだかガタガタ音がする。なにものかが、ふすま戸を開けているようなのだ。
そして私が寝ているふとんの上を、そのなにものかがずんずんと歩いていくではないか。そう、ふっちゃんである。私にソッポを向いているふっちゃんは、食事の時と寝ている時にだけ近づいてきた。
ただ当時は近づき難い存在で、少し怖いなと思っていた猫が近づいてきてくれたことに、喜んでいたところもあった。
またある時、眠っていたら、枕元で「にゃぁー」と声がした。目を開けると、ちょこんとふっちゃんが座っている。自然と手が伸びて頭をなでたら、うすく目を閉じて気持ちよさそうにしていた。普段は頭をなでることなどなかったので、ぎこちなく頭をさすっていたと思う。こういうときは何だかうれしかった。
そしてしばらくすると、立ち上がってどこかへ行ってしまった。
ふっちゃんにはほとんど相手にされないままだったが、数少ない接点はおぼえている。
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