布団の日々

注記:この文章は鬱体験談です。実体験に忠実に書かれています。


Xのフォロワーで、自分と似た感じの方がいた。鬱で、前に進めずに困っているらしい。境遇は個々で違えど、僕はそんな姿に自分自身を重ねざるを得なかった。だから、僕はあの頃の話をしよう。僕が同じように苦しんでいた、あの頃の話を。

大学4年、21歳の頃に中程度の鬱を発症してから、僕の毎日は変わってしまった。朝は起きられない。夕方ごろまで布団の上で過ごして、やることといえば、YouTubeを眺めるばかり。画面を見ていることすらつらくなり、空を見る。街を見ると人々の明るさにつらくなるから、空を見ていた。やがてそれもつらくなり、水を飲む。自販機にすら行く元気がでないときが多いから、水道水ばかり飲んでいた。グラスすら洗えなかったので、手で飲んでいた。入れ物がない両手で受ける、の最悪の状態だ。また寝る。ずっと枕に頭をつけているから後頭部がすり減るようだ。頭がいたい。気づいたら眠りに落ちている。起きると夕暮れ時、部屋着のボサボサの頭のまま、近くのコンビニにご飯を買いにいく。1日1食だけ。食事も楽しくない。音のない部屋でカップ焼きそばを食べる。ウォッカなど強い酒をそのまま飲んで気を紛らす。具合が悪くなる。部屋にいると、もはやなにも考えられない。ただ、まともに生きている人々との差を感じ、劣等感に押し潰されそうになる。何時間も天井ばかり見ている。暗くなる。暗くなると余計に怖くなる。あれこれ不安で押し潰されそうになる。もう自分はまともに生きられないんじゃないか。仕事もできないんじゃないか。当時、バイトすらしていなかった。無。無の状態だった。頭がおかしくなり、指を切り血で絵など描いた。ゴッホの絵を見た。共感した。だが絵心が自分にはない。今度は詩を書く、案外うまくできたが捨てた。

何時間も、何十時間も、何百時間も寝床にいた。電気は一日中つけなかった。風呂は週に数回。そのうち季節がめぐる。部屋のなかだけで生活が完結したので、季節のめぐりは気温でしかわからなかった。やがて大学をなんとか卒業して無理くり働きに出たが、鬱を再発、3ヶ月でやめる。そこからまた、布団の日々。半年以上続いた。友達も減り、恋人にもフラれた。どん底だった。今だと詳しく思い出せないが、地獄の日々だった。金もない。ただ一日中酒をのむ日々。どうしようもなくなって、いつもYouTubeで引きこもり支援や、精神病から復活した人々のドキュメンタリーなど見ていた。再生回数が数百回しかないような地方の支援団体のラジオ動画など見た。世の中には色々な方法で抜け出した人がいることがわかった。だが、自分の這い上がりかたはわからなかった。もうこのまま死のうと思った。生きていても情けない。親にも見せる顔がない。ベルトで何回か首をつった。ベランダの物干し竿。ラックの端。ドアノブ。うまくいかなかった。薬をたくさん飲んで実行した。うまく、いかなかった。医者は話を聞いてくれない。薬を出すだけ。効いてるかもわからん薬をコロコロ変えられた。つらかった。もはやつらいという言葉でもとらえられないほど。もう、今ではあの頃の感情を思い出すことはできないほどに。

ヨガや筋トレなどやってみた。部屋に目標を張り出した。日を浴びると良いというので、外に出る習慣を作ろうとした。毎朝散歩。筋トレのメニュー。バランスの良い食事。そんな感じだ。当然続かなかった。なにもできなくなった。音楽すら聴けなかった。自分にできる人間の活動が、一つ一つ潰されていく感覚がした。部屋にはカンやペットボトルが散乱していた。ごみも捨てられない。ないない尽くしの日々だ。食卓には埃が積もっていた。毎日使うはずの食卓に。布団でU-NEXTの映画を見まくった。内容は頭にはいらない。ただ、意識を不安から逃し、寝るためだ。寝ているときだけが、救われた。起きたらまた現実に戻り、強烈な不安感や焦燥感や死にたいという気持ちが襲ってきた。昔の夢ばかり見た。怖い夢ばかり見た。誰もいなかった。一人の部屋に、病人が一人。YouTubeの支援団体ラジオも内容はわからない。ただ気がついたら眠くなり、寝ていた。また起きたら水を飲んで、映像を見る。途中で寝てしまうから、何度も同じ動画を巻き戻して見た。気づいたら寝ている。そうしていくつもの季節がめぐっていた。外の世界では僕を置き去りにして、みんなが前に進んでいた。世界にたった一人ぼっちだと思った。死にたいと思った。死ねたら良いと思った。その勇気も力もなかった。部屋が臭かった。湿った病室の匂いがした。栄養失調で皮膚からココナッツのような匂いがした。わけがわからなかった。毎日早く過ぎることを願った。生きることが痛みだった。痛みはいつか消えると思いたかった。だがその痛みは永遠に感じた。このまま実家に帰って引きこもって、何十年も過ごすのか、死ぬのか、支援団体が助けてくれないか、そんな選択肢しかなかった。普通に仕事して、恋愛して、結婚などしたかったなあ。こんなつまらないところで人生終わるのか、と悲しくなった。自分も誰かが助けてくれないかと思った。だが、誰も助けてはくれなかった。いつも頭が不安で重かった。もう、限界だった。

この話はまだまだ細かくある。だけど、ここら辺で終わりにしたい。こんなことを長々と書き綴っても意味がないからだ。

一応、今の僕はそこから脱してはいる。脱した経緯は、書かないでおく。現在その真っ只中にいる人は、どんな他者の言葉でも希望を持つことは難しいからだ。だから、僕のケースを希望と思わないでほしい。運が良かっただけと、思っておいた方が良い。でも、どんな人にもその運が巡ってこないとも限らない。生きてる限り、チャンスはあるものと、僕は思う。そこから脱したあとに気づいたが、案外世の中には同じような経験をしてる人が大勢いる。繋がりはなくとも、同じように地獄の底にある人々がいる。それもまた、希望というわけではないが、心に留めておくに値する事実だろう。


この文章は、今、苦しんでいる人々に捧げる。


どうかその苦しみに、やがて終わりが来ますように。

厩橋(2024.8.30)

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