天国の塔の下に来い
お前が生まれる遥か昔から俺は世界にいた
お前が育ちきったときそこに俺はいなかった
お前が生まれたとき泣いていた声を俺は知っている
お前がまだなにも知らなかった頃から俺は知っている
お前の親がお前が生まれなければ別れていたことも知っている
お前のその曲がった足のまま笑う姿を知っている
俺はお前がようやく立てるようになった日も
話すようになった日も
反発するようになった日も知っている
あの雨のなか親の喧嘩を止めようと知らせに来てくれたことも知っている
お前がはじめてキャッチボールしたときのことも知っている
俺は幼き日のお前の全てを見てきた
俺の生きた時代は大変な時代だった
だがお前の時代も大変そうだ
今のお前を見ていると誇らしいとともにその時代に不安を感じる
だがお前が一人前になるところまで知ることができて良かった
お前が優しいことを
お前が強いことも
お前が弱いことも
お前が愛するということを学んでいることも
知っている
はじめて飼っていた犬が死んだときお前がどれだけ悲しんだかも
お前がその悲しみを強さに変えて
その強さで小さきものを守ろうとしていることも
知っている
お前を誇りに思う
お前はすでに一人でその大地に立てるようになり
その目で世界の広さを見て
正しい言葉を言えるようになった
だからお前に託したいと思う
全てを託そうとは思わない
少しでいいその優しさの心を
強い心を
弱さを知るその聡明な目を
失わずに生きて行け
そしてやがてそのときが来たならば
俺は待っている
天国の塔の下に来い
天国の塔の下に来い
厩橋(2024.9.28)
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