IdentityⅤ Stage Episode5 『Break the Golden Night 』
ちょうど1年前の10/14、第五脱出で舞台の再始動を聞いてから、早くも2作品目の第五舞台。
今回のお当番は、探鉱者ノートン・キャンベル!!そして「夜の番人」イタカ!!
ノートンは推しキャラの1人だし、(そして演じてくださる須賀さんが大好きですし)イタカは夏のイベントでお披露目されてから会えるのが楽しみでしかたなかったし、観劇できるのを心待ちにしていました。
以下、存分にネタバレを含みます。(書き連ねたら7,000字)
◯side:Gold(サバイバー公演)
ノートンは基本形がポーカーフェイスだし、EP1から観ていても真意の読めないキャラクターだな…という印象。気怠げで、いつも労力と対価を天秤にかけている彼が泥臭く生き抜く様に、最高に滾りました。
舞台は「親父は鉱夫だった。」のセリフで始まります。そう、フールズ・ゴールドのストーリーPV…!聞いた瞬間、鳥肌が立ちました。ポーカーフェイスの下に隠した過去…虐められても地面に這いつくばってコインを拾う姿に心臓が掴まれたような感覚でした。
父親は体を壊しながら「この仕事が終わったら良い暮らしだ」なんて言いますが、実際はパンが買える程度。そんなものにしがみつくしかない彼の胸中は、考えれば考えるほど虚しい。貧乏は最もタチの悪い呪い…蝕まれる肺と一緒で治ることはないし、そして厄介にも遺伝する。
持たざる者の彼にとって、持つ者の象徴である「賞金」を獲得するのは、暗闇と過去に閉じ込められた自己との訣別を意味するのでしょうね…。この荘園において賞金が役に立つとは思えないし、ノートンに賞金を使う目的があるとも思えない。シンプルに、絶対王者のイタカを倒して賞金を手にすることが目的のノートン。怒涛の追い上げ(強すぎる)からのサバイバーの善意に付け込んで利用する戦法(私の時はプラン肘当てでした笑)まで、目的のために手段を選ばない泥臭さが大好きです。そして、彼はやはり頭が良い。「賞金の有無」から「サバイバー陣営の勝利」へと話をすり替えるのがあまりにも巧みでした。
ですが…彼、手段を選ばずに這い上がっていくには少し、善人すぎたような気がします。イタカの過去を知った時、賞金獲得の目標にほんの少しのブレが生じましたよね。でも、彼にはもう、ベニー爺さんとの過去があるわけで…今までの自分を正当化するしかなかった。だから目を逸らして最終ゲームに臨むわけですが、結局、「仲間と賞金、どちらを取るか」という難題に対して最後の最後で彼が出した答えは、「仲間」でした。
このシーン、意図されていたかどうかはさておき、EP1のラストシーンを思い出しました。
あの時はイライが仲間(イソップ)を追いかけようとして、ノートンがそれを許してくれたんですよね…。今回はその逆、仲間(今回はエドガーですね)を追いかけようとしたのはノートンで、それをさせてくれたのはイライでした。
もうね、エモい!!!
第五舞台の各エピソードにおける「例の荘園」はそれぞれ別で、キャラも同一ではないけれど、どこか記憶や過去を共有しているような…そんな印象を受けますが、今回がまさにそれ。2人の間に、同じ過去が見えた気がしました。(余談ですが、役者様同士が大親友なお二人。お二人の関係もここから始まったんだなぁと勝手に感慨深くなりました笑)
ですが、迎える結末はEP1とは全く違う…。母の死を突きつけられ、自我喪失状態にあるイタカと対峙するノートン。暗転し、舞台中央でスポットを当てられた2人が向き合うこのシーンは震えましたね…。ストーリーはもちろんですが、絵として完成されすぎている。美しすぎる…!
恐怖かあるいは武者震いか、ガタガタ震えるノートンと正真正銘、異形のものになってしまったイタカ…。緊張に呼吸を忘れそうでした。
全てを賭けた一騎打ちの結果はノートンの敗北。
これをきっかけにノートンは「フールズ・ゴールド」へと変わっていきます…。
この物語に触れるまで、ノートンは強すぎる執念が原因でハンターになってしまったのだと解釈していました。どんな人間の中にも眠っている外道が、他の人より少し強いばかりに、それが原因で姿が歪んでしまったのだと。
ですが、舞台版の解釈は…そうか、彼を変えたのは外道の部分ではなく、彼が捨てきれずに抱えてしまった優しさの部分なんですね…。仲間か賞金かの二択を突きつけられた時に、迷わずに「賞金」を選べていたら、彼はサバイバー:ノートン・キャンベルのままでいられたわけで、善人というには自己中心的だけど闇に染まるには凡人すぎた彼の、必死のもがきを見るようでした。
そもそも、彼があのシーンで「仲間」を選択した背景に自分が虐げられた過去や、荘園で得た「仲間」(鉱夫のノートンはこういう「仲間」が欲しかったのだろうと思います)の存在があること考えると、兎にも角にも苦しい…。ノートンのシルエットが少しずつ大きくなって、フールズ・ゴールドになり、[F]Goldのタイトルが現れた時、鳥肌が止まりませんでした。彼が自分を認めて、幸せになれるように願うばかりです。
覚書:推しについて。
こちら、イライさん推しです。そして、彼を演じる千葉瑞己さんが最推し俳優さんです。なのでどうしてもイライさん定点をしてしまいがちなのですが…。
今作のイライさん、めためたに良かったな…?!
EP1の頃から「穏やかで面倒見の良いお兄さん」というのはあるのですが、今作はそこにベテラン感が加わった気がします。(イベントを含めて、第五舞台関連は皆勤賞の千葉さんだから為せる技なのかもしれません。)
決してサバイバーの輪から外れる訳ではないし、後述する『嫌いだ!』の時など、楽しいシーンは誰よりもノリノリなのですが、一方で少し俯瞰してみんなを見守っている…。前に出てくることはあまりなくて、全体の調和を見つつ、必要な時にだけ優しくヒントを与えてくれる人。引率の先生だとしたら、前ではなく最後尾を歩くタイプ。彼はきっと色々と見通していて、それこそ「もうわかっています!」の言葉が似合う方だな…と思いました。(ハンターが訪ねてくる居館シーン、ピエロさんに肩叩かれて、礼儀正しく驚いたふりしてるイライさん大好きです笑)千葉さん、今作も最高のイライさんを届けてくださりありがとうございます…!はぁ…イライさんも千葉さんも、最高に推せます。
◯ side:Night
サバイバー公演観劇後、ソワレはハンター編を観劇。こちらはイタカ目線で話が進むので、サバイバー編ではわからなかったことが見えてきます。
本編の感想の前に…イタカ…もっと言えば演じる工藤さん、すごすぎん??!なんであの脚で歩けるの?歩けるどころかチェイスできるの?!脚だけじゃなくて、仮面で視界がめちゃくちゃ制限されていて、足元なんか全然見えないはずなのに、なんで板乗り越えできるの…!?!?
正直震えました。並大抵の努力じゃできない技だと思います。ありがとうなんて言葉じゃ足りないけれど、イタカを丁寧に演じてくださり、そして無事に公演を終えてくださり、本当にありがとうございます…!
さて、話を戻して舞台の感想。兎にも角にも、めちゃくちゃしんどい…!!
白状すると、私はイタカの背景推理終わっていません…!なので、彼に関しては「どうやらお母さんが大変な状況にあるらしい」程度のことしか知りませんでした。
サバイバー公演がテンポよく話を進めて行ったのに対し、こちらは一つひとつの過去を丁寧にじっくり掘り下げているように感じました。イタカの苦しすぎる過去に何度ハンカチを握りしたことか…お母さんの悲鳴が耳に痛かった…。これをイタカは毎日聞いていたわけで、彼が大号泣するシーンは色々と考えてしまってダメでした。イタカはハンターの中ではまだ若い子だと思うのですが(10代後半ぐらい?)そんな子供が背負うにはあまりにも苦しすぎる業です…。
イタカにとってあまりにもお母さんが現実だから、ノートンに母親の死を突きつけられた時、私もイタカと同じく「この人は何を言っているんだ?」状態。だってお母さん、目の前にいるじゃん。と一瞬本気で思いました。(最初に鯖公演を観ているにも関わらず!!)子供はいつか親を超えていく存在だというけれど、彼に関してはもう少し子供でいさせてあげたかったな…。あんなに苦しい思いをして、「母さんのことは守るから大丈夫だよ」って全部捧げたのに、結局守れずじまい。確かに「母を守る」という呪いからは解放されたけど、もう彼を突き動かす衝動はどこにもありません。なんで、2度も3度も失わなきゃならないの…。もしかしていっそ狂っていた方が良かったのか…?答えは出ません。
そして、そんなイタカを心配し続ける美智子さん。イタカ母と同じく女性だからこそ、感じることもあるのかもしれません。美智子さんの苦悩はEP2でも描かれていましたが、そんな彼女だから推察できるイタカの苦悩に寄り添おうとする姿、とても美しかったです。(今まで、この役回りはなんとなくジョゼフさんが多かったイメージ…。ジョゼフさんとイタカの組み合わせも、いつか見てみたいです…!)
そんなイタカにちょっかいをかける人たちがいました。それが今回の例の荘園におけるハンター問題児トリオ、リッパーさんにガラテア嬢そしてピエロ氏。見た目も派手なこのトリオ、とっても賑やかで楽しかったです!
「ハンターの癖に賞金にこだわるなんて」と、イタカはこのトリオに売られます。つまり、平たく言えば、今回のストーリーは「リッパーさんたちによるハンター育成計画」なわけですね。
一瞬、なかなかに酷い話に聞こえますが…。
美智子さんも「ゲームをしなければならない理由が見えない」と苦悩していましたが、(EP2の美智子さんを思い出しました)このゲーム、報酬もなければ希望もない。ただただ繰り返すだけ…となれば、モチベーションも、下手したら存在意義もなくなります。そんな中で楽しく過ごすためには、「狩りそのものを楽しむ」ことが必要…このマインドに辿り着ければ、確かに荘園生活も楽しいかもしれない。
今回の物語、結局誰が勝者だったのだろうと考えた時、もしかしたらリッパーさん、ガラテア嬢、ピエロ氏だったのかもな…と思いました。
side: [K]night編の最後、嗤うイタカはあまりにも悲しかったから、どうか、イタカに関しては後日談を見せてほしい…。彼が荘園で楽しく狩りをする姿を目にすることができますように。
さて、ここまで本編の大まかな感想を連ねてきましたが…。第五舞台は主題歌挿入歌が解禁されるときから始まっている!といっても過言ではない。ということで、ここからは楽曲の感想を少し。
・『Gold enD』
探鉱者役の須賀さんは「Am Amp」のヴォーカルですしバッチバチのバンドマンです。歌唱力は頭ひとつ、ふたつも飛び抜けているであろう須賀さんのノートンが歌う主題歌、指折り数えて楽しみにしておりました!
聴いて、動悸。
的確な語彙が見つからないのですが、今回の楽曲はどこかバーレスクを想起させる曲調。きらびやかで華やかで、その中に隠しきれない欲望が滲んでいる…非常に刺さりました。
そして、特筆すべきは一人称「俺」問題…!舞台のノートンは「僕」ですから、考察が捗る。
さらに、曲を締めくくるラスサビの咆哮…!ノートンはあまり表情が動くキャラクターではないし、内心何を考えてるのか読めないところがありました。そのノートンからでてくる、いっそヒステリックな叫び。ノートンの心のうちをのぞいたようで、心臓が痛くなりました。
実際に舞台で拝見しても、振りも含めてとんでもなく格好良かったです。ショーのような派手な色気のある、素敵な主題歌でした。ノートン役の須賀さん、流石に歌いながらの魅せ方をわかっていらっしゃる…最高のパフォーマーです。
・『嫌いだ!』
大好きな先代泥棒さんと先代弁護士先生。今回キャス変になってしまって、随分寂しい思いをしていました。で、この曲を聴いてびっくりしました…。
あれ、キャス変したよね…!?!?
キャス変のストレスがゼロ!!限りなくゼロ!
泥棒さんもそうなんですけど、個人的には弁護士先生にとりわけ驚かされました…。なんというか、口調…もっと言えば話すときのリズムやイントネーションが田中さんが演じてくれた初代弁護士先生そのまんま!かなり丁寧に研究されたのだろうな…と思います。彼に関しては、日常生活で積極的に使いたい(使えない)語録の数々が楽しい。推しポイントは「ふざけるなこの野郎」ですね。「このヤロー」ではなく、「このやろう」とちゃんと最後の「う」を発音するところに育ちの良さを感じる。笑
と、聴くだけで楽しい楽曲だったのですが、舞台で拝見したらもっと大好きになりました…!泥棒さんの煽りエモート完璧すぎ!
そして、巻き込まれた他のサバイバーの皆様が可愛すぎる…!!首の動きがいちいち可愛いし、2番になる頃には全員で乗ってくるの、可愛いを通り越して辛い。しんどい…!男性サバイバーVS女性サバイバーの構図になるのも面白すぎました。
この楽曲、ピッカピカの笑顔で誰よりも楽しそうに参戦してくる人がいて…占い師って言うんですけどね?彼が最高に良い味出すんだよなぁ…。今作のイライの解釈として大正解すぎます。本当に愛おしいな…。
・『NIXETNOX』
イタカの歌うこの曲、全てが大好きです。凍てつく冬の吹雪と、その向こうに潜む「歩く『死』のもの」が見えるようでした。重厚感のあるクラシカルな恐怖。
そしてイタカの声がまた良いんです…!凛として上品で、だけど所々幼くて無邪気なの、本当に解釈の一致です。
舞台上ではダンスも披露してくれるわけですが、ダンスも格好良くて、もふもふが可愛くて、目が離せませんでした。そして…これはイタカ的には複雑かもしれませんが、彼はどうしても、生まれの高貴さが滲んでしまうんですよね…。イタカお願いだから幸せになってくれ…と強い気持ちで願うしかありませんでした。
・『ガ・ラ・テ・ア』
はい、問題作です。少し前にボカロ界隈で見かけたような、音圧バッキバキでヒステリックな、癖が強すぎる曲調。後ろでずっと悲鳴が聞こえているし、あまりにも変わり種すぎて、これを舞台本編の中にどう組み込むのか謎でしたが…すごく自然に演出されていてびっくりしました。ガラテアさんの狂気、存分に浴びました…。で、こんな音圧強くてキレッキレな音楽に対して、ガラテアさんのダンスは少女のようにどこかふわふわとしていて、それもすごく良かった…。
総じて言えば、これを歌いこなすガラテアさん…もとい八木さんがすごい。『Gold enD』を歌う須賀さんにも通ずることですが、「こういう作品にしたい」と思ってもそれを正しく表現し、完成させて世に出せるかどうかは歌い手(表現者)に掛かっているんですよね…彼らの技量がなければ、理想が現実になることはなかった。役者様の力を強く感じる作品でした。
さてさて、ここまで長いこと書いてきましたが…。
EP1から皆勤賞のノートンくん。そして彼を丁寧に作り上げてくださった須賀さん。彼らがお当番ということで、発表された時は涙が出るほど嬉しかったです。実際は、舞台版には舞台版のノートンの歴史が、原作には(後から実装された)原作のノートンの歴史があるわけで、性格的なバランスを取るのもすごく難しいキャラクターだったと思います。
観劇して、ノートンの人間臭さを目の当たりにして、須賀さん以上にノートンになれる役者さんっていないだろうな…と脱帽しました。他のどんな素晴らしい役者様がノートン役だったとしても、きっとノートンの泥臭さや人間臭さを「演じて」しまう。一歩間違えば好感度をさげてしまいそうな彼の人間らしさを、あれだけの説得力を持って描けるのがすごい。
さらに、あんなに欲望にギラついた男を描いているのに、須賀さんのノートンは下品じゃないんですよね。むしろどこか知的で色気があって、もうタジタジです。
そしてそういう品の良さも知性も色気も野心も、全て「須賀京介」という1人の男性に由来するものだと思うのです。(須賀さんも須賀さんの作る音楽も大好きです)
これからも「例の荘園」でノートンさんに会いたいし、そのノートンさんは須賀さんにやって欲しい。そんなことを強く思いました。
第五舞台、今回も最高の作品でした。また「例の荘園」を訪れることができますように。そして今作で出会えた皆さんが、また荘園主にピックされますように。素晴らしい時間をありがとうございました!
IdentityⅤ Stage Episode5 『Break the Golden Night 』
2024.10.13(日)昼夜
シアターH
2024.10.20(日)昼夜
オンライン