朗読劇『カラフル』
情報解禁された際に、「これは行かなくては…!」と思った作品。ですが仕事の調整がきかず、泣く泣く(本当に泣く泣く)諦め欠けていたそのとき、「配信」という希望の光が差し込みました。
ということで、配信に救われた魂が11/9(昼)公演へホームステイした感想です。ネタバレあります。
「カラフル」は自分が小学生(5年生くらいだったかな?)の時、背伸びして手に取った挿絵のない本でした。読了後、自分の世界が広がったような気がしました。数年後に自分の小遣いで単行本も買って…。この本をきっかけに「物語」の楽しさを知ったし、それがこうやって「観劇」という趣味にも繋がっているような気がします。それだけ思い入れのある作品なのですが…。
今回約20年ぶりにこの物語に触れました。しかも一番大好きな人の声によって。
結論、べしゃべしゃになりました…。配信で良かった、劇場だったら干からびて帰れなくなっていたよ…。
あえて読み返さず、この公演で本当に久しぶりにこの物語に戻ることにしました。ストーリーは忘れようも無くしっかり覚えていましたが、細かな描写は流石に抜けているかな…という状態。
ですが20年経っても、この物語はキラキラと強烈で、それでいて優しい魅力を放ち続けていました。子供の頃と同じ感想を抱く一方で、(今から考えれば、あれが「推し」という感覚…!プラプラにやっぱり惹かれちゃうので、ヘキが変わってないことも知りましたw)大人になって初めて気が付いたり、共感したりする部分もあって…。不朽の名作とは言いますが、文字通り、色あせないカラフルな色彩に彩られた作品です。
子供の頃の私は、小林真という人物の鬱屈とした苦しみを、想像で共感していました。受験の経験もないし、学級内でいじめに怯えていたわけでもないし…。
ですが20年の間に色々な経験を経て、小林真の抱える閉塞感が実際の経験として想起されるようになりました。彼の抱える問題が、大人として今を生きる自分にも重なる非常に普遍的な問題であることにも気が付きました。恐らく「ぼく」と「小林真」の関係は、「大人の自分」と「インナーチャイルド」の関係なのだろうと思います。だからこそ、大人にも響いてしまう…。公演を観ながら、自分の中の真(インナーチャイルド)が騒いでしまって、だめでした。特に真と母親の関係は他人事ではいられなくて…。自分と母親の関係を見直した時の少しの怒りと寂しさ、そして疲れを外から見ているようでした。真くんのように、母の弱さを受け入れられたなら、自分も解放されると思うのですが…。色々一筋縄ではいきませんよね。母と息子の間に明確な決着がついていないところも、この作品の好きなところの一つです。
真の学校での描写もとても素敵でした。
初めてこの本を読んでから20年経った今、私は教員をしています。当時は気にしなかったけれど、今、真の担任沢田先生の気持ちを想像して胸が締め付けられました。
「いじめを見かけたら半殺しにして、話はそれから」というモットーから、彼がいかに生徒を大切に守ろうとしているかわかります。(手段の是非や彼の不器用さは別として)公正で熱い担任です。
間違いなく言えることですが、教員にとって一番、何を差し置いても一番苦しいこと…それは管理職からの圧力でも親からのクレームでもなく、学級崩壊でもなく…生徒の自殺です。そして残念ながらそれは起こりうることなんです。…自分の周りでも起きてしまったし、心の病気の関係で、いつ身を投げるかわからない子の担任をしていた時は、本当に苦しかった。若い子の自死ほどやるせ無いことはなくて、だから真くんが「遅すぎたんじゃなくて、早まりすぎた」という言葉が胸に刺さりました。…絶対に早まっちゃいけないし、早まらせてはいけない。それが大人の責任だと思います。
そして、現役で担任しているからわかることですが…真のクラス、もっと言えばクラスメイトの様子は非常にリアル。ギャルがいて、取り入るのが上手い子がいて、お調子者もいる。誰とでも仲良くできるけど「親友がいない」寂しさと戦う子もいれば、部活では饒舌なのにクラスでは話せない子もいる…。様々な子が無作為に集められた空間、それが「クラス」。その中で自分と合う人を探す方が至難の技なのですが、それは「自分は溶け込めるか」「浮いたりしないか」と必死の生徒たちにはわからないことなんですよね…。自分にも覚えがある感情です。そんな繊細な10代の心の機微がよく見える作品でした。
と、ここまで『カラフル』の感想を連ねてきましたが…。最後に、これが「朗読劇」になった感想を少し。
小説はシンプルに、筆者によって書かれたものを読者が受け取る、いわば一対一のコミュニケーション。限りなく機会的に設定された行間やフォントサイズに意味はなく(ごく一般的な文庫を想定しています)そこにある語彙が構築する文章から、自分の経験を通して自由にメッセージを受け取りますが…。これが朗読劇となることで、そこに様々な情報が加わりますよね。行間は「間」として明示され、役者や演出の経験を通して解釈されたコンテクストが届けられるわけです。衣装、音響、照明などそこにある全てが意味を持ち、役者の演技とこれら全てのものが合わさったものを、観客は自分の感性を通して味わうのです。
様々な思いを載せて、「色」を載せて届けられるこの作品、すごく「カラフル」だなぁと思います。
そんなカラフルな世界で、自分の色を見失わずに重ねられること。「自分はこの色だ」と決めつけず、何色にも変われることを恐れないこと。
他人の色を、自分の色を認めること。
そんな大切なことを、正面から丁寧に届けていただきました。
ベテランの皆様のおかげで、頭のてっぺんからつま先までどっぷり浸ることができた『カラフル』の世界。本当に幸せな再会でした。
朗読劇『カラフル』
2024.11.9(土)昼
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