『HOUSE 〜7人の地縛霊〜』
情報が解禁された時から、役者様に惹かれて気になっていた作品。
ですが、観劇が可能なまさにその日の昼、すでに別舞台の観劇が決まっていまして…。色々と悩んでいたら台風10号襲来。
とはいえどうしても諦めきれなくて、当日券で飛び込みました。
いやー…良かったですね…。
小劇場の、ストレート演劇の面白さが詰まっていました。
本作はどうやら、2021年に朗読劇として上映されているようですね。元々朗読劇だっただけあり、かなり質の良い会話劇を観たなぁという印象です。
さぁ、以下は実際に無縁仏に入りそうな人間が観た感想です。(ネタバレ注意)
まず、ストーリーが面白い。幽霊とシェアハウスって、そして霊の皆さんが生きていた時の能力等を駆使しながら、心霊現象を起こすプロフェッショナル集団って…!!あらすじだけですでにワクワクします。
そしてそこに絡んでくる、男女の恋愛模様。はっきり言ってしまうと自分も地縛霊たち側の考えです。つまり、ワケあって、「恋愛はファンタジー!」的な考えが子供の頃から染み付いています。(厄介)
誰かに恋したことがない。友人…と呼べるほどの人もいない。そもそも、他者と関係を構築するのは苦手で疲れてしまう。
そんな私を「愛して」なんて口が裂けても言えないし、愛してもらっても、同じだけを返せる気がしない…。
結論、独り誰とも繋がらない生活を過不足なく送る日々。だから、自分がいつか死んだとしても、行先は無縁仏なんだろうなぁ、と。
脱線しましたが、そんなわけで今作、地縛霊の方々に少しばかり肩入れしつつ観ていました。人としての普遍的な「忘れられたくない、誰かに想ってほしい」という気持ちを抱えて生きる(?)彼ら。そんな彼らが、健太への協力プレーを通して少しずつ歩み寄って、結束していく過程が愛おしくて、温かい気持ちになりました。
今作、確かに男女のラブロマンスが主軸にありますが、それ以上に、人が人を想う気持ちを丁寧に描いている作品だと思います。作中の台詞「男女の問題ではなく、一人の人間の一生がかかった話」にもありましたが、別れの苦しみも、先に進む後ろめたさも、乗り越える勇気も、恋愛に限った話ではありませんからね。
次に、キャラクターが良い…!
タイトルに「7人の地縛霊」とついているだけあって、この作品においてキャラクターの魅力は必要不可欠。勿論、人間サイドを含めて。
ストレート作品はマンガやアニメを原作とした、いわゆる2.5次元作品とは違い、キャラに元々ファンがついているわけではありません。ですからまずはキャラクターを魅せる必要があると思いますが、その点で、役者の皆様が素晴らしかったです。皆さん本当に、良い意味で癖が強い!笑
開演してすぐに地縛霊の皆様に愛着が湧き始めました。
特に好きだったキャラクターは石川さん、小松さん…ですね。(皆さん素敵だったから選ぶのも難しいですが。)彼らのような苦労性キャラに惹かれてしまう。死因を掘り下げたら闇が深そうなので、せめて幽霊生活では幸せに過ごして欲しいと願うばかりです。(石川さんに関しては、杉江さんのああいったお芝居が大好きなので、堪能できて幸せでした!)
そして以下、少し役者様に偏った感想になりますが…。
私自身は「好きな役者様がいるかどうか」が観劇における重要ファクターです。今回観劇を決めたのも、最終的にはやっぱり、好きな役者様たちの芝居が観たかったから。今回は日向野さん、塚本さん、そして瀬戸さんに惹かれての観劇でした。
日向野さんが演じてくださった志賀さん、最高に可愛かったですね!誠に勝手ではありますが、元々役者様ご本人に、武人然とした雰囲気があるなぁ…と思っており、その中に滲む茶目っ気が大好きでした。だから今回の役どころはすごく観ていて楽しかったです。大好きな役者様の、大好きな演技が堪能できました!
塚本さん演じてくださる浅岡さんに関しては…好きすぎてぞわぞわします笑。
ご本人も仰ってますけど、あまりにも眼鏡がお似合いだ…。彼のインテリな色気が最高に好きで、一挙手一投足に頭を抱えるばかりです。
で、問題なのは彼も彼で癖が強いってこと笑。
どこで何をおっ始めるかわからないこのドキドキ、これが恋…まさか吊り橋効果…!?(違う)女性に対しての恨みは人一倍強いとの一方で、誰かの守護霊だった過去もある浅岡さん。もっと彼のことを知りたいな…と思わせられる、推しキャラクターの1人です。
そして人間サイドの、瀬戸さん演じる武村さん!彼もとっても素敵でした…!瀬戸さんも応援しているキャスト様のお一人なのですが、彼のまっすぐな演技って、なぜこうも人の心を打つのでしょうね…。
武村さん、実直で真面目な好青年です。自分の気持ちを自分で届ける勇気のある人。この彼の雰囲気が、瀬戸さんの持っている、まっすぐで硬派な魅力とよく調和しておりました。キャスティングの大勝利…!瀬戸さんのお芝居を堪能できて幸せです!
と、ここまでつらつら書いてきてしまいましたが…。
実は、この舞台を観る前日に、仕事で劇団四季(キャパ1,500)の舞台を観劇しております。さらに『HOUSE』観劇日の昼には、自分にとって原点にして頂点の2.5次元作品(キャパ1,300)を観劇。つまり、この作品はジャンルの違う3作品の、最後に見た作品でした。
キャパ300程の、役者の息遣いまで聞こえそうな小さな劇場。そこで紡がれるストレートの芝居。派手なダンスやライトの演出もなく、言葉を選ばずに言えば誤魔化しが効かない。
アドリブへの対応など臨機応変さも含めて、正真正銘、役者さんの演技力で挑んでいく作品。それがこの規模の作品の良さだと思うけれど、それを存分に堪能できました。
私にとって観劇は、自分と対話する手段の一つです。
音楽がフェードアウトし、客電が消えて、間。暗闇の中、立ち位置に向かう役者の微かな足音。最初の台詞を響かせるべく、そっと息を吸う。
その瞬間、日常が遠ざかって、全てのものーー他の観客すらも消えて、この世界に存在するのは自分と舞台のみになる。
あとはただ、舞台から投げかけられるメッセージを通して、自分に尋ね続けるのです。生きることや死ぬこと、愛することや失うこと…多忙な日々の中では聴こえない、自分の声を聞く時間。自分と向き合って、自分を正しく愛する時間。
だから、観劇が好きなのです。
台風の夜、大都会東京にある小さな劇場での上質な観劇体験。
劇場を出た後も余韻に浸っていたくなるような作品で、肩に力を入れることなく、リラックスしながら穏やかに観ることができました。
思い返すたびに、「良い舞台だったな」と思うのでしょう。そんな素敵な、とても優しくてアコースティックな作品でした。
『HOUSE 〜7人の地縛霊〜』
2024.8.31(土)夜
シアターサンモール