各地域の女性のデジタル人材育成の取り組み
ダイバーシティの観点で男性や女性という属性で論ずることに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、多種・多様な人財が活躍をしていくという観点では、ライフステージの観点で仕事のキャリアを中断せざるを得なかった方々に着目し、必要な施策を講じることは個人的に必要であると考えております。
その観点でデジタル人材育成の脈絡で「女性のデジタル人材育成」について論じ、事例を紹介していくことも重要であると考えます。デジタル人材育成学会でも発足当時から「女性のIT技術者が活躍するためには」「デジタル・ITの観点でどのようにキャリアを積んでいけるのか」という観点で学会内の有識者で複数回討議をしてきました。
今回は東京都および山口県、愛媛県の自治体主導の女性のデジタル人材育成の取り組みについて紹介をすることで、「女性デジタル人材育成」の最新の動向を紹介したいと思います。
尚、今回のデジタル人材育成のアクターは行政を中心とする産官学連携全般であり、その育成主な対象は社会人となります。
東京都の女性エンジニアの育成事例
東京都では2023年度から高度なデジタル・ITスキルを無料で学べる「女性ITエンジニア育成事業」を開始しています。「都内での雇用・就業を支援するために、東京都が設置したしごとに関するワンストップサービスセンター」である東京しごとセンターが主体となっている取り組みです。
対象は、求職中や非正規雇用の方々を対象(定員40-50名)としており、基礎的なプログラミング言語や人工知能に関する学習、システム開発などの知識習得を目標にオンラインによる職業訓練を150時間程度実施し、メンターが学習をサポートする制度になっています。
実際カリキュラムを見るとPythonなどを扱うシステムエンジニアやAIエンジニアを目指しており、リスキリングを目指した内容となっています。
いわゆる職業学習支援だけでなく、就職支援も提供し就業までを支援する制度になっていることも特徴と考えます。
山口県の女性デジタル人材育成事例
山口県は産官学連携の「やまぐち女性デジタル人材育成コンソーシアム」を設立し、地域一体となって女性のデジタル人材育成に取り組んでいます。
2023年時点でコンソーシアムはデジタル人材性を求める約40社の企業が登録し、養成講座などを受けて就職をする仕組みになっています。その特徴がコンソーシアムの中枢機能となる「山口県女性デジタルキャリアセンター」です。このセンターでプログラマー養成講座を実施し、講座終了後はコンソーシアム参加企業へのインターンシップや就活対策を実施。女性デジタル人材への門戸を開く支援をしています。
主に、ECサイトなどのでWebエンジニアを目指すデジタル人材育成施策であり、WINgsと称される「ITリテラシープログラミング基礎講座」の中で、セキュリティ基礎に始まり、Webサイトの仕組みやHTML/CSSの知識を学び、実践編としてWebアプリケーションの開発を行うといった構成になっています。
愛媛県の女性デジタル人材育成
このコンソーシアム形式で興味深い取り組みが株式会社MAIAが手掛ける「でじたる女子コンソーシアム」です。株式会社MAIA、一般社団法人グラミン日本、SAPジャパン株式会社の3社が主体となり、「女性の精神的・経済的自立を促進し、地域と日本の経済の活性化につなげる取り組み」として2022年5月に発足したのが本取り組みです。
自治体などが窓口となり、女性デジタル人材の候補人材を集め、IT基礎やRPA開発や、グラミン銀行などから金融教育を含むマインドセット・コアスキルのカリキュラムを提供し、雇用を創出するという仕組みです。
自治体×コンソーシアムと自治体×MAIAというスキームを持っているようですが、基本のスキームは類似しているようです。自治体×コンソーシアムではすでに愛媛県、鳥取県、奈良県などと手掛けており、本稿では愛媛県の事例を紹介したいと思います。
愛媛県の本コンソーシアム方式を活用した「愛媛でじたる女子プロジェクト」は令和4年に開始し、オンライン研修を通じたデジタル技術(RPA、SAP、デジタルマーケティング)のリスキリング研修を3.5ヶ月間、実施するプログラムとなっています。この取り組みは複数のメディアでも大きく取り上げらています。
[日本経済新聞]
愛媛県がSAPなどと連携、女性デジタル人材500人育成
[SAP]
愛媛県と「でじたる女子活躍推進コンソーシアム」が連携協定を締結
特筆すべきは、やはり2027年問題と言われるSAPソフトウェアの保守期限までに多くの日本企業が基幹システムの移行を手掛ける中で、SAPスキルを保持したコンサルタント・エンジニアが不足しており、その補う仕組みをこの女性デジタル人材育成という脈絡で実施していることでしょう。
「SAPエンジニアの正社員の平均年収は約600万円とITエンジニアの中でも高め」と言われており、筆者もIT企業で働いておりますが、このSAPスキル保持者のマーケットニーズの高さを肌で感じています。この仕組みでSAPエンジニアが育てられるのであれば、日本経済・企業にとっても、リスキルをする女性デジタル人材候補者にとっても価値の高い取り組みと言えると思います。
本取り組みが500名の人材育成を謳っており、令和5年7月時点で第3期生の募集をしていることからも継続的な取り組みとなっています。また令和5年度からは「受講生のeラーニングサポート(学習進捗ミーティングや補習会の実施、学習上有用な情報交換やモチベーションアップのための交流会の開催等)や修了生同士のコミュニティの形成やキャリアアップをサポートする「愛媛でじたる女子プロジェクト促進事業」に取り組む」(「愛媛でじたる女子プロジェクト」第3期生募集の開始について」より引用)としており、カリキュラム自体も継続的な改善を試みていることが伺えます(参考資料)。
まとめ
今回は東京都および山口県、愛媛県の事例を通して、「女性のデジタル人材育成」の潮流を紹介させていただきました。
デジタル人材育成教育の要素に関しては、本Noteの中でも複数回述べていますが、やはり概論+IT・デジタル教育の実践とともに、相談やメンタリング、インターンシップなどのキャリア教育的な要素を取り入れていくことの重要性を、今回各自治体の取り組みを見て感じます。
また自治体が中心のアクターとなることで、学習者への費用の補填(補助金)を出したり、また複数の企業と連携しインターンシップ機会など設けられるなど産官学連携での取り組みは、女性デジタル人材育成のキーとなるのだと考えます。一方で「何を」学習してもらうのかは、各自治体の特色が出るところであり、マーケットニーズや地域の雇用創出という観点で多角的に検討をし、意思決定をする必要があると感じます。
デジタル人材育成学会副会長 中村
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