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群馬県のデジタル人材育成 Part2

群馬県のDX戦略とデジタル人材の具体的な施策



県として、令和3年(2021年)3月に「群馬県庁DXアクションプラン〜~日本最先端デジタル県へ~」を策定し、日本最先端クラスのデジタル県を目指すことを明確にしています。全庁が一丸となってDXを推進しており、知事自身がトップとなって県庁から地域社会のDXを推進することを目指しています。この取り組みは日本DX大賞2023として表彰されています。
 
具体的には、群馬県では知事戦略部の配下に「デジタルトランスフォメーション戦略課」を設置し、デジタル人材育成を含む群馬県のDXの推進の司令塔を担っています。デジタルトランスフォメーション戦略課の主な業務は下記のように整理されています。このあと紹介する群馬県のデジタル人材の取り組みごとに係が設置されており、行政主導でデジタル人材育成を行っていく意図が垣間見れる組織体制となっています。

デジタルトランスフォーメーション戦略課の部署と業務内容

また上述したデジタルクリエイティブ人材の育成の主管部署は、eスポーツ・クリエイティブ推進課が担っており、後述するtsukuruやTUMOセンターと連携含めて、未来のデジタルクリエイティブ人材(県域デジタル人材)の育成を担っています。

デジタル人材育成の場の創出と提供

それでは、群馬県で実施しているいくつかのデジタル人材育成施策について紹介したいと思います。まずは「デジタル人材育成の場の創出」をキーワードに紹介をしていきたいと思います。

群馬県の未来のデジタルクリエティブ人材 コンセプト図

1. 社会人を対象にしたデジタル人材育成と交流の場“NETSUGEN”

NETSUGENは正に群馬県のデジタル人材育成のキーワードとして掲げた「育成の場の創出」の具体例となります。2020年官民共創スペースとして設置されたNETSUGENは、県庁32階に前橋市を見渡すことができる展望が素晴らしい場所に位置し、業界や業種が異なるユーザー同士でも、気軽に交流できるような空間としてデザインされています。このNETSUGENで、最新のデジタルテクノロジーや知見を取り入れた企業やNPO、大学や研究機関に加え、地域課題解決に取りくむ市町村・県と直接交流できるようになっています。 

NETSUGENの入り口やセミナーの風景(筆者撮影)

NETSUGENの基本コンセプトは、「デジタルとアイデアが融合し、新たな価値を生み出すループ」。異業種・異能のコラボレーションにより、新たなイノベーションが次々と生み出され、社会の変革につながる好循環が形成されることをめざしています。
 
筆者が訪れたときにも生成AIを含めたテクノロジーをテーマにした「地域課題×デジタル」の経営者向けセミナーがこのNETSUGENを擁する県庁32階のセミナーエリアで開催され、多くの社会人の方が集まっていました。

2. 未来のデジタル人材を育成する
「tsukurun-GUNMA CREATIVE FACTORY-」

本稿でフォーカスをしたいのが、「tsukurun」です。群馬県では、小中高生を対象とする若年層向けのデジタルクリエイティブの人材育成に特化した場が提供されています。JR前橋駅前に2022年3月中旬に開設をしたのが、「tsukurun-GUNMA CREATIVE FACTORY-」(ツクルン・グンマ・クリエーティブ・ファクトリー)です。前橋駅前という好立地にある複合施設「アクエル前橋」内の2階に位置しており、デジタル技術を使った創作活動に携わる若い人材の育成拠点と位置づけられています。3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)や拡張現実(AR)、仮想現実(VR)といった最先端のデジタル技術・ツールが体験可能となっており、原則無料で使えるということで、未来のデジタルクリエイターにとっても、学び始めしやすい”場”という意味では非常に意義があると思います。tsukurunに関しては、県庁職員およびtsukurunのスタッフの方々に直接インタビュー取材をしており、後ほど群馬県のデジタル人材の育成をリードする事例を紹介したいと思います。

最先端クラスのデジタル県を目指すための人材育成

群馬県では行政や民間レベルで様々なデジタル人材の育成プログラムを実施しています。社会人・学生対象双方のデジタル人材育成に関するいくつか興味深い事例をご紹介したいと思います。
 

1. トップレベルの IT エンジニア育成プログラム


日本を代表するシステム・インテグレータやソフトウェア開発企業を中心として、主要な情報サービス企業で構成する業界団体「一般社団法人 情報サービス産業協会」(JISA)が2022年開講したプログラムが「トップITアスリート育成プログラム」です。
 
この第一弾が、群馬県を舞台として開催されており、先ほど紹介したNETSUGENでの最終発表も含めて、すでに第2期目まで実施されています。このトップITアスリートプログラムは、「デジタル人材としての相応の技術力ならびに実務経験を既に有し、将来トップITアスリートとして社会に貢献する高い志を有する少数精鋭の人材に参加」し、「大学院修士課程レベルに水準を設定した、高度な論理思考力と、技術スキルの習得プログラムを受講した上で、参加者が他の参加者と互いに切磋琢磨しながら社会のDX課題の探索および解決策の探求を実体験できるようなプログラム」を提供しています。
 
 
こちらのJISA×群馬のプログラムはトップノッチを引き上げていく上で、非常に興味深いデジタル人材育成プログラムです。第1回の最終報告会「JISA版NTCプロジェクト 課題探索解決プログラム 最終発表」をオンライン視聴しましたが、プロジェクトベースドラーニングで、県庁職員との議論を通しながら教育、農業、こどもや文化などをテーマにディスカッションし、最終発表まで持っていくのはTop ITアスリートとしての創造性やリーダーシップ、アントレプレナーシップを磨く上では良いプログラムだと感じます。一方でまだ荒削りな部分もあるので、何かシステム実装するところまでアウトプットされると良いプログラムになるのではないかと思いました。

JISAの考えるITエンジニアにかかる育成の方向性について
https://www.jisa.or.jp/public_info/press/tabid/3418/Default.aspx
群馬県のトップレベルの IT エンジニア育成プログラムの概要
https://www.jisa.or.jp/public_info/press/tabid/3418/Default.aspx

2. 群馬デジタルイノベーションチャレンジ


群馬県のデジタル人材育成の特徴として、後ほど詳細に説明する「tsukurun-GUNMA CREATIVE FACTORY-」もそうですが、未来の世代に向けた育成プログラムを実施しています。その枠組の一つが「群馬デジタルイノベーションチャレンジ」です。「未来を創る子供たちに良質なデジタル教育を届ける」というコンセプトのもとで、

  1. DXの発想やデジタルスキルを活用して、地域課題の解決や新たな価値を生む(デジタル人材)の育成。

  2. それぞれの子どもを取り巻く環境に関わらず、デジタルスキルを学ぶ機会の平等を図る。


具体的には群馬県内のデジタル関連部活動の支援として、産業界のエンジニアなどを講師として派遣し、リアリティのあるデジタル教育を高校生に提供していたり、また高校生の県内IT関連企業へのインターンシップを実施しています。また直近(2023年10月時点)では、県内数カ所で「地域ICTクラブ」という連続講座を開催しており、ノーコードでプログラミングが学べる「Scratch」や教育版マインクラフト、Raspberry Piなどの小型コンピュータなどを活用するような講座を開講しています。


令和5年度群馬デジタルイノベーションチャレンジより転載

さらなる特徴として、この群馬デジタルイノベーションチャレンジは、ファンドレイジングの形で企業版ふるさと納税、通常の個人のふるさと納税で寄付を募り、運営資金としてあてていることです。
 
 
この未来の子供に対するデジタル教育、人材育成は群馬県の教育イノベーション(教育DX)の枠組みの中で実施されており、デジタル「始動人」というキーワードがスローガンとして掲げられています。始動人とは、「頭で考え、他人が動かない領域で動き出し、生き抜く力を持った人材」と定義し、「価値創造」「デジタル」「グローバル」の3つを軸に教育DXを遂行していくことが下図の県の資料からも読み取れます。


【引用】群馬県「教育イノベーションPJの方向性」より転載
【引用】群馬県「教育イノベーションPJの方向性」より転載


その他にも民間レベルでもDX学校(https://www.gunma-dxschool.com/)や群馬県内の人材育成を手掛けるDXデザイン研究所がワールドワイドでベンダーニュートラルなIT関連資格・認定などを行っているIT業界団体であるCompTIAと組んで、群馬県内の中小企業を対象としたDX人材の育成に取り組むことを発表するなど民間レベルでもデジタル人材育成の機運が高まっていると言えます。

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