ラズベリー

 正常であるということを考えたときに、流行り病のように浸食しているものを感じずにはいられない、例えばコース料理のデザートみたいに、そこで提供されるラズベリーみたいに。そうしてそれは口の中でいやな酸味を撒き散らして、私は心の底から中指を立てる。窓の外では強い風が吹いて、窓枠にすべての夜景を閉じ込めたくて、それが叶わなくて私は世界の狭さを知る、世の中とは基本的に分かり合えないもので、遠くの灯りにしみじみと絶望をする。そんな違和感はいつだって次第に大きさを増して、私を取り返しのつかないところまで連れて行く。きっともう振り返ることもない。過ぎた過去は、所詮ただの記憶だ。
 アパートの部屋で行われた陳腐な約束も、海辺の写真、深夜のテールランプだって、私にとっては全部ラズベリー、悔いるものでも反芻するものでもない。すべては風邪のように治癒していくから、ほら、今日のところはゆっくり眠りなさい。

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