特に面白くはないラーメンを食べた日記
この界隈では有名なのだというラーメン屋に行った。長らく住んだ街だが、あまり外食をして来ず、数年経って初めて足を踏み入れた。平日の昼間、タイミングよく待ちはなし。食券を買い席に着くと、カウンターのみの狭い店内は男性で満席で、麺を啜る音だけが響いている。食券を渡し待つ間に、隣の男性のラーメンが到着する。「おぉ」とその見た目に感嘆の声をあげ、いそいそと写真を撮るのを、横目で眺める。それは券売機のメニューにはないまぜそばで、所謂裏メニューというやつなのだろう。写真を撮り終えたら一口、「ほぉ」と溜息をついて食べ進める。こういう人が、ブログを書いたり口コミを書いたりしているのだろうな。以前見た、ラーメンの味についてはほとんど触れず、自分の話だけで終始する口コミを思い出す。そうこうしているうちに私のラーメンがやって来た。澄んだスープに、大ぶりのチャーシュー。私もそんな口コミを書いている人たちのように、まず一口目はスープと決めている。んん、最近はこういうのが流行りなのか。見た目とは裏腹な強めのインパクトに、少々驚く。私のラーメンの原体験は、小さい頃に家族で行った淡い醤油スープだ。油がちょっと浮いて、固ゆでの卵にちょっとパサついたチャーシュー、その下には中太の縮れ麺。ひとりでは一人前は食べられないからと、私の丼の麺を父親がいくらか持って行った。麺を食べ終わり、残ったスープと水を交互に飲んでいたら、塩分をとりすぎだと母親に叱られた。今この目の前のスープは、水と交互に飲むには塩分がかなりきつく、たぶん叱られるどころではない。気を取り直し麺を啜ると、細いパツパツの固めの食感で、強いスープとの相性は悪くない、と思う。チャーシューは、厚くジューシーでとてもうまい、男性に受けそうなラーメンだ。そうこうしていると、店の前には行列が出来始めた。固めの麺は食感が失われないようにと、早めにスープと麺を口に流しこんでいくが、隣の裏メニューの男性は写真を撮って満足したのか、スマートフォンで漫画を読みながらゆっくり食べている。料理は提供されてから秒単位で味が落ちていく、と熱弁していたグルメな友人の台詞が浮かんだ。その時は苦笑いを浮かべたものだが、今では同じことをこの男性に説きたいと思う。ついに私が食べ終わる頃には、男性の丼にはまだ半分も麺が残っていた。ごちそうさまでした、そう厨房に向かって声をかけつつ席を立ち、私はあの日の醤油ラーメンのことを思い返していた。慣れ親しんだラーメンからは、きっと一生離れられないのだろう。
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