雪の降るよる③ 女の愚痴とメッセージ
谷野恭平は、高校の頃はひょろひょろのさえない、頼りない奴で、ろくに喋ったこともなかった。しかし、高校卒業後に突然SNSをフォローされて、気持ちが悪い、と思ったのを覚えている。
そのおよそ五年後、高校の頃の友達たちと集まって酒を飲んでいるときに、ふとそのことを話すと、その場がえらく盛り上がった。
「谷野って、あの谷野?うわぁ、懐かしっ。SNSとかやるんだね。意外」
「谷野がフォローしてるの、他には担任の梅センと、二個上の放送部の彩音さんと、サッカー部の松山と、あとクラスの男子何人かかぁ。梅センはまぁわかるけど、彩音さんと松山なんて、谷野と真逆の人たちだよね?接点なんかなかったよね?」
「そうだよね。人選謎すぎ。で、アキでしょ。アキって谷野と何か接点あった?」
そう尋ねられて、脳みその隅から隅まで探し回ってみても、文化祭のときに模擬店の当番の交代のときに一度ちらっと喋ったこと以外何も思い浮かばなかった。
「ねえアキ、メッセージ送ってみなよ。今どこで働いてるの?って」
「えぇ、やだよ」
「いいからいいから。別にあとでブロックすればいいし」
そう言って友人の香澄は私のスマートフォンを奪い取って、谷野に「久しぶり、元気?」とメッセージを送った。
「返事来ちゃったらどうすんのよ」
私たちは飲みながらしばらくメッセージ受信の通知が来ないかそわそわしていたが、一向に返事が来る気配がなかったので、酔いも回っていたのもあり、すっかり忘れて各々の愚痴に夢中になっていった。
帰宅したのは0時をまわってからで、鍵のかかっていないアパートの扉を開けると、裕也がビールを飲みながらテレビを見ていた。ファミレスのメニューのランキングを、明るいナレーションで伝えている。
「おかえり」
裕也は手元の煙草を灰皿に押し付けながら、ちらりとこちらを見た。テレビの中で芸人が的確な突っ込みを入れていて、ふはは、と大きな声で笑った。私は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、裕也の隣に座った。
「どうだった?高校の友達は」
「みんな、色々あるみたい」
私はそう言って苦笑した。彼氏と別れたいと零す子に、仕事で大変なポジションを任されてしまった子。親が離婚してしまった子、自分より先に妹が結婚してしまった子。皆、いいことよりも、悪いことを探すほうがずっと得意のようだった。私は、いいことも悪いこともそれなりにあるつもりだが、皆のように饒舌に話せることはなかった。
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