雨中の
コンビニの中で、雨止みを待っていた。
いつ頃止むのだろう。
雑誌コーナーで暇を潰しつつ、外の様子をチラチラ見る。
真っ暗な闇の中、白い線で埋まっていた。
弱まるどころか、だんだんと勢いを増している。
先程から、もう帰ろうか、もう帰ろうかと何度も思っているのだが、損切ができない性格で、いつまで経っても帰れない。
ため息をつく。やれやれ、なんでこんなところで自分と見つめ合わなければならないのか。ガラスに反射した顔は、妙にくまが目立っていた。
ぴろりろ、ぴろりろ。
誰かが入ってくる。そいつも雨宿りかもしれない。自動ドアの方を見る。奴は、サングラスとマスクをつけていた。
こんな夜中にサングラス?
大雨の中、サングラス?
なにか不審だ。
奴はキョロキョロとあたりを見回すと、店員の方へ歩き出した。
俺のいる場所からはレジが見えないので、俺も移動する。
棚の隙間からレジを覗き見る。
奴は店員の前に立つと、右手の何かを突き出した。店員ははっとした表情。
「声を出したら…わかるな?」
小声で呟いている。店員はちょこっと頷く。その目は、恐怖に溜まっていた。
これは、コンビニ強盗というやつか。まさか遭遇してしまうとは。手が震えてくる。やはりあの時、もしくはあの時、出ていくべきだったのだ。俺はFXとやらはしてはいけないタイプだろう。
そんなことはどうでも良い。この局面をどう乗り切るか。立ち向かうか?逃げることに賭けるか?それとも、奴が出ていくまで隠れているか…
そうこうしている間に奴は店員にお金を出させている。店員は焦って何枚貨幣を落としてしまう。
「何してるんだ!まったく…」
奴は怒鳴り、拾うように促した。
店員は身をすくませながらしゃがんでカウンターの向こうに見えなくなる。
そしてまた立ち上がった時…こちらと目が合った。
俺は反射で視線を逸らしたが、確実に、一瞬、目が合った。
まずい。気づかれたということは、助けなかったときに恨まれるかもしれない。あなたのせいで奴は逃げ切れたんですとか言われたら。コンビニ強盗に日和った男性とかいう見出しでネットニュースにでも取り上げられたら…
変な妄想が膨らむ。いや、やっぱり気づかれていないかもしれない。そう願って、チラリとレジを見る。
店員が明らかにこちらをじっと見つめていた。助けを乞うように、潤んだ目で。
…俺は、財布から1000円札を取り出して、床にひらひらと落としてみせた。そして、人差し指を立てる。
店員は一瞬怪訝そうに眉を歪ませたあと、目を見開いて、小さく頷いた。
まだレジに残っていた札束を、わざと震えた手で掴み、大げさに撒ける。
「お前っ、学習しろよ」
そういって奴は落ちた紙幣に釘付ける。今だ。
俺は飛び出して、奴の背中にしがみつく。右手を払い、奴が持っている武器を飛ばす。カラカラと音を立てて転がったのは、キラリと光る鋭利なナイフ。下手したらあれで刺されていたかと思うと背筋に汗が這う。
此奴は振り返り、俺を殴った。のけぞる。痛い。右フックが完璧に入った。此奴は急いでナイフを取ろうとするも、カウンターから出た店員に回収される。店員はナイフを構える。
「おい…大人しくしろ!」
此奴は怯む。俺も応戦態勢に入り、もう一度しがみつこうとする。
「くそ、くそっ!」
此奴は俺を力ずくで解くと、突き飛ばして自動ドアをくぐって逃げていった。
「本当にありがとうございます、なんと御礼を言ったらよいか…」
「いえいえ、いいんですよ。」
俺は満足して外に出た。まだ雨は止むことを知らない。