remember me?-2
「わたしを覚えていますか?」
生放送番組の天気予報中継中、突如カメラの前に陣取った男がそう言った。
カメラが向きを変えようとするも、男もそれに沿って移動する。見かねたスタッフが画面端から駆け寄って男に話しかけた。
「すみません、現在撮影中でして…」
「それを知っているからこうしているのです。日東テレビの『あさげん!』でしょう。スタジオにいるある人に伝えたいことがあるのです。」
スタッフは目を丸くし、一瞬カメラの方を見たが、すぐに男に向き直ると、今度は男の前に立ちはだかった。
「しかし、今は迷惑です。僕から伝えておきますので、その方のお名前を教えていただけませんか。」
スタッフは両腕を広げながらじりじりと男に詰め寄った。その隙に、カメラはお天気キャスターを映す。キャスターは呆気にとられていたが、自分にカメラが向けられていることに気づくと、すぐに仕事を再開した。
完璧な連携。スタッフは内心ほくそ笑んでいた。なめるなよ。この程度のアクシデント、いくつ乗り越えてきたと思ってるんだ。
「そうですか…」
男は一歩戻った。怖気づいたな、とスタッフは思い、さらに詰め寄る。このまま追い払おう。
しかし、男は突然彼の腕を振り払い、カメラの方へ走り出した。虚を突かれたスタッフはバランスを崩してしまう。
男はカメラに飛びつくと、その先端を無理やり自分に向けた。キャスターが小さい悲鳴をあげる。
「ねえ?忘れていませんよね?あの時のわたしですよ。忘れていませんよねえ。あの時わたしにしたこと。許してませんよ。まあ、今白状したなら、その限りではありませんけどね…」
そこまで言うと、にやあっと笑った。見た人をぞっとさせるような、どこかに燃えたぎる憎悪を孕ませた笑い方だった。
中継が途切れたスタジオは、シンと静まり返っている。誰も動かずに、さっきまでその男が映っていた画面に釘付けていた。
「えーっ…と、不適切な映像が流れてしまいまし…た。申し訳ありませんでした。」
司会がたどたどしくお詫びを述べる。しかし、その後は誰も続かなかった。再び訪れる静寂。
それを破ったのは一人の芸人だった。一発芸で一風を風靡した、子供にも人気の人だ。
「あの、心当たりがあって」
そこで一旦息を呑む。
「あの、借金取りのおっちゃんだよな?許してくれ、すぐに返せるようになるからさ!」
両手を握りしめ、突っ伏す。その場にいる全員がその光景に見とれていた。
「そ、それで言ったら私も、昔ないこと風潮してやめさせちゃった担任かも…」
震えて手を小さくあげたのは有名アイドルグループのメンバーだ。
「じゃあ、俺も、昔…」
「そういえば私も…」
「いや、わたしもあるとき…」
コメンテーターからベテラン芸能人、あげくの果てには裏方まで、口々に暴露をし始めた。もう、番組は体裁をなしていない。
2024/3/15 あさげん!放送事故
208,741回再生
投稿者:ぽんだろう @pomtalo.you231
156件のコメント
デビルむん @akumaa.0
怖すぎ…
まさにヒトコワ。
高評価253
ラマ @andeath.yama
このおじさんの顔怖すぎて夢に出ました。
高評価165
Kotaro Shimoyanagi @Shimoyanagi0505.w-mail
愚かな奴らだ。まんまと罠にはまりやがった。
ずいぶん笑わせてもらいました。投稿ありがとうございます。
高評価11