【ショートショート】幽霊の 正体見たり
ある夏休みの日、友人と一緒に心霊スポットに肝だめしに行くことになった。
俺は怖いものが大嫌いである。子供の頃からずっとだ。夕食に出た嫌いな食べ物を残した時なんか、「もったいないおばけ」が出てこないかビクビクして、トイレに行けずにお漏らしした過去もある。
それならなぜ肝だめしなんかにいくのか。理由は一つ。峰に誘われたからである。峰は俺の幼馴染で、幼小中高とずっと一緒だ。つまり、おわかりだと思うが、俺は彼女が好きだ。想い人からの誘いは断れない。それに断ったら「あいつもしかしてビビってんのかな」とか思われるかもしれない。そんなのはやだ。現地でビビるほうがやばいけど、まあおばけなんてないさのマインドでいけばなんとかなるだろう。それに、彼女のビビっている姿を見たいという下心も少しある。少しだが。
ということで、クラスの友人5名と俺彼女の7人で心霊スポット近くの駐車場に着いた。スポットはここから林道を少し歩いたところにあるコテージで、昔泊まっていた人が不審死したらしい。
「それじゃあ行こうか。足元悪いから気をつけな。」
リーダー気質の男が懐中電灯で林を照らしながら言う。コテージまでの道は舗装されていないので相当危険らしい。
リーダーを先頭に、2人ずつ並んで林道に入る。俺はもちろん幼馴染と隣同士だ。根回しの賜物である。
「いやー、恐ろしい雰囲気だね。足元も見えないし。」
「そっ、そうだね…」
緊張でまともに口が回らない。それに、思ったよりも道のりがきつい。暗い上に草が足に絡みついてきて転びそうでこそばゆい。もっと長いズボンを履いてくればよかったかな。
と、そんな事を考えていたとき、前でちょっとした悲鳴が上がった。
「え、どうした?」
幼馴染が前の女子に話しかけた。彼女は振り返って説明する。
「なんか、揺れてるものが見えたって…」
風は吹いていない。もしかして…
俺は立ちかけた鳥肌を気合で抑え込み、二人に話しかける。
「大丈夫だよ。たぶんすすきが揺れたのを見間違えただけでしょ。」
「そっか。ま、そうだよね。」
二人はうんうんと頷いた。その後は特に何もなく、少し歩くと例のコテージが見えた。丸太で作られていて、よく見るとところどころ腐りかけている。随分年季が入っているようだ。
「おおー!」
「すげえ、写真で見たのと同じだ!」
みんなテンションが上がってきた。
そのとき、視界の端になにか揺れるものが写った気がした。そちらを見ると、薄く白く背の高いものがゆらゆら左右に動いていた。
「ひっ…!」
喉から鳴った声に気づいた幼馴染がこちらを見る。
「どうしたの?…え」
彼女もそれに気づく。目を見開いてリーダーの肩を叩いた。リーダーが彼女の方を向いたとき、懐中電灯がちょうどそれを照らした。それは…
「…なんだ、すすきか。」
立派に育ったすすきだった。花穂がゆりかごのようだ。俺は安心して息をつく。
あれ?ちょっと待てよ。さっき風は吹いてなかったよな。じゃあなんで揺れてるんだ?
すすきは揺れながらこちらに近づいてくる。なぜだか半透明で、少し向こう側が見える。えっ、これってまさか…
幽霊の 正体見たり 枯れ尾花