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【DCM Atlas 体験記 vol.3】 WE UP 代表取締役 伊藤 宏志 氏 (第1期 '23 採択)

DCMベンチャーズ(以下、DCM)は、2023年1月からスタートしたシード投資プログラム DCM Atlas の第1期を、2023年6月に無事修了しました。
本連載では、DCM Atlas第1期('23)に採択され、5ヶ月間のプログラム期間を終えた3社のDCM投資先へのインタビューを掲載していきます。
最後の第3弾は、情報システム部門など業務上デジタルツールを利用する部門のDXに取り組む株式会社WE UPの代表取締役CEO 伊藤宏志氏です。(過去記事:vol.1 M2X CEO 岡部さんvol.2 Public CEO 松本さん

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9/6 (水) 18時には、DCMの猿丸とWE UP伊藤さんで、より詳細にプログラム中の様子を振り返る対談ウェビナーを実施します!DCM Atlasのプログラムに応募検討中の方、実際の様子を知りたい方は、ぜひ下記画像リンクより登録お願いいたします!ウェビナー中、質問も受け付けます!


応募したのは、プロダクトローンチ後

💬 DCM: WE UPは、どういう経緯で創業されましたか?
💬 伊藤さん:祖父が事業をやっていたり、兄弟の起業を見ていたりで、ずっと自分の人生のどこかで起業にはチャレンジしたいと思っていました。最初のキャリアは上場前のメルカリで働くことを選択しましたが、約4年働いて一通りやり切った感や、最後に担当したあと払い決済事業を自分ごと化できないタイミングがきて、起業を決断しました。メルカリ自体もそういうサービスだったように「誰かのためになる」ものを、テクノロジーを通して作りたいと考えました。起業後最初に作ったのが、パソコンの操作を吹き出しやポップアップが画面の上からサポートしてくれる「ガイドプロダクト」でした。地方に住む両親がパソコンをうまく使いこなせずコロナの補助金を申請できなかったという話を聞く中で、世の中の便利なソフトやツールが生まれるのに対し、使いこなせない人たちは多く存在するのではないか、という仮説から生まれたプロダクトでした。

💬 DCM: 
伊藤さんは、応募時点ですでにその「ガイドプロダクト」をローンチしていましたが、なぜAtlasに応募されたんですか?
💬 伊藤さん:当時、ガイドプロダクトを売っていく中で、お客さまになかなか刺さり切った感覚を得れていませんでした。営業の感覚的に、お客さまの芯を食っていない感覚があったんです。とはいえ、応募のタイミングでサービスをピボット(転換)することを考えていた訳ではありませんでした。まずはこのプロダクトの売り方や売り先の方向性を修正したり、これをどうスケールしてくかの観点を磨き込む時間に使いたくAtlasに応募しました。PMFが見えない停滞感を、打破したいという思いが強かったですね。

プログラム初日、初めてDCMに集合した日

ユーザー価値に向き合った結果、ピボットを決意

💬 DCM: 振り返って、Atlasに参加して1番良かったことって何ですか?
💬 伊藤さん:プログラム中、Value prop(ユーザー価値)に徹底的に向き合って、お客様が求めるプロダクトにピボットできたことです。振り返ると、ガイドプロダクトはプロダクトアウトなものを作りすぎていたと反省しています。作る前から、誰の何の課題を解決するのか、それをどういう順序で仮説検証していくのか、という思考プロセスが足りておらず、深く探索できていなかったことに気づかされました。Atlas中チーム全体で、Value Propを磨き込んでいく仮説探求のプロセスを実行できたことが1番の財産だと思っています。プロダクトのみならずや拡張機能を考える時に、デイリーでどういう検証サイクルを回せば良いのか、チームとしての共通理解ができました。

💬 DCM:応募してきたときに、ピボットを考えていたわけではなかったですよね?
💬 伊藤さん:はい、停滞感を打破したいという気持ちはありましたが、正直ピボットは想定していませんでした。だからこそピボットを決定して、次のプロダクトに走り出した数週間は、これまで時間をかけてきたものが評価されなかったという気持ちで、正直落ちこみましたね。とはいえ、そんな事言ってる場合でもないですし、プログラム終了の6月までに何かアウトプットを出さなくてはいけない。周りへの期待に応えるという点でも、あの期間は精神的にすごくきつかったです。

💬 DCM:
何が、意思決定の後押しになりましたか?
💬 伊藤さん:Atlasのプログラム最初に、PMFをどう捉えるか、という話で、ユーザーエンゲージメントなど具体的な指標の話がありました。その指標を軸として考えたときに、当時の時点でイニシャルユーザーのエンゲージが弱かった。ただ、すぐにピボットを考えられなかったのは、すでにサービスを提供開始しチームも作っており「目の前のMRRをこのまま伸ばさねば」という焦りがあったからだと思います一方Atlasでは「腰を据えて大きな事業を作るなら、今は売上より最初のValue propを正しく設定することが肝心だ」と言われました。実際プロダクトのプレスリリースを打ってみて、反応が弱かったのが決定打になり、プレスを打った数日後にはサービスを閉じる判断を行いました。また、DCMのベンチャーパートナーであるプロダクトエキスパートの方が、日本に進出した海外類似企業の社長と実際に会わせてくれて、先人の苦労話を聞けたのも大きかったです。

「イシューツリー」で、毎日仮説を更新

💬 DCM:仮説検証のプロセスを身につけられたのが良かった」とおっしゃっていましたが、ピボットのアイディアはどのように検証されましたか?
💬 伊藤さん:一度自信をなくしかけましたが、不安なのは次のアイディアとお客様が抱えている課題に対する解像度が低いからだと自覚しました。またプロダクトに対する評価ではなく、チームを評価して投資してくれているという話があったので、結果で証明したいと考えました。不安を薄めるにはとにかく行動量を増やして、仮説検証に集中し、課題の解像度を上げること。DCMが共有してくれた「イシューツリー」のフレームワーク(下記画像)を使って、スプレッドシートを毎日更新する形でValue propの仮説をアップデートしていきました。ピボット決意後は、スピード感をもって一気にやりたかったので、1ヶ月で50名以上の方からヒアリングを行い、毎晩DCMの皆さんとチェックインをして、Value propを固めていきました

「イシューツリー」のスプレッドシート(内容はグレーアウト)

💬 DCM:具体的には、イシューツリーで何をどのように検証していましたか?
💬 伊藤さん: 顧客セグメントはどういう規模感で、どういう業種で、どういうシステムを使っていて、どういう課題をもっているのか、何がプロダクトの機能として鍵になるのかなど、イシューツリーで洗い出している問いをベースに、毎日、対象セグメントにヒアリングをかけていきました。そして毎晩、ヒアリングで分かったことを元に問いに対する仮説をアップデートして、何が明らかになり何がまだ明らかになっていないかをクリアにして、次の日それをクリアにするというのを、1ヶ月繰り返しました。前日の仮説を更新できないなら、その日は何も学びを得れなかったということなので、チーム全員がまだ見えていない事実を取得することにがむしゃらに集中する日々でしたね。

DCMから、先輩起業家や顧客の紹介も

💬 DCM: Value propを固めつつ、まだプロダクトがない段階で、PoC先を見つけるのに最初苦戦されていましたよね。
💬 伊藤さん: PoC先の獲得は、最初とても苦戦しました。Velue propのヒアリング先の企業群は先々の営業先にもなるはずだったのですが、営業というよりも「リサーチに協力してください」というようなスタンスになってしまっていて。そこで、DCMに紹介をもらった投資先の起業家先輩(Magic Moment CEOの村尾さん)に直接セールスピッチを見ていただいて、営業に関するアドバイスをいただく機会がありました。それまでの「リサーチ協力お願いスタンス」から「価値提案スタンス」に変えて、最初は断られてばかりだったPoCが、取れるようになりました。

Magic Moment CEO 村尾さんのゲスト講義の様子

💬 DCM: 最初断られてばかりだった時は「Value propがやっぱり間違っているんじゃないか」とおっしゃってましたが、価値提案スタンスに変えたらちゃんと取れましたよね。
💬 伊藤さん: 最初のプロダクトは、プロダクトアウトで作ってインバウンドでぶつけていたので、プロダクトがない状態でセールスピッチをした経験が少なかったんですよね。大学の研究で協力願いをするわけではないので、PoC先にどのような価値をもたらせるのか、ユーザー価値をしっかり提案しに行かなくてはいけない。当たり前ですが、とても大事なアドバイスをいただけたと思っています。
また、実際に1社目の顧客はDCMから直接紹介をいただいた企業でもありました。顧客セグメントの議論を一緒にしている中で、ヒアリング候補先や潜在顧客の紹介を得られたのも、プログラムに参加して良かったと思います。

他採択企業2社とのピア・プレッシャー

💬 DCM: WE UPさんは採択後にピボットすることになりましたが、他の採択企業もいる中で、焦りなどはありましたか?
💬 伊藤さん: 正直ありましたね。プログラムの初期、私達はプロダクトがありましたが、プログラムが終わったタイミングではそのプロダクトはもう存在せず、次のアイディアもまだ形になっていない状態。それに対し、大きく前進している企業も存在していたので、最終プレゼンテーションが終わったときは正直悔しさが残りましたね。隣のチームの進捗と比べて、もっと早くできたはずだなとか。毎日学びを得るスピードを上げるために、次はこうしていきたいなとか。同じシェアオフィスの空間で3社が箱詰めになってやっていたからこそ、そうした刺激を得られるのが良かったです。

💬 DCM: みなさん、お互いに切磋琢磨されている印象がありました。
💬 伊藤さん: スタートアップの創業期、みんな常にうまくいっているわけではなく、そういうことも生々しく知れたのが、刺激にもなったし勇気にもなっていました。また、お互い支え合えたのも良かったです。イシューツリーの仮説をアップデートするため、毎日大量のヒアリングをかけるのに、自分たちのツテやDCMさんからの紹介以外で、どうやって企業リストを増やすか悩んでいました。M2Xの岡部さんにヒアリングのコールドコールどうやっているかTipsを聞いて、僕たちの獲得のスピードが跳ね上がったのを覚えています。

最後のUS tripでNotionを訪問した際、採択企業3社みんなで

足腰据えて、Value propを固められた5ヶ月間

💬 DCM: Atlas参加前の想定と比べて、実際のプログラム体験のギャップなどは何かありましたか?
💬 伊藤さん:最初、DCMの皆さんの関わり方について具体的にはイメージがついてなかったですが、正直ここまで伴走してくれるとは思ってませんでした。毎日、結構夜遅い時間まで、その日の仮説アップデートを聞いて壁打ちしてくれましたよね。そのリズムがあると、こちらも毎晩そこまでにラーニング貯めようと必死で動けるので。その検証サイクルを毎日一緒にやってもらえたことで、強くなったなという感覚がありました。

💬 DCM: ピボットされたのも、応募前の想定とは違いましたよね。
💬 伊藤さん:はい、ピボットすることを考えてなかったので、Atlasでの調達資金は最初のプロダクトのまま、GTMの資金と思っていました。ただ、結局本当のユーザー価値がきちんと固まっていないことがわかって、そこをしっかり固めにいけたのが、Atlasで期待値以上に得られたものでした。サンクコストもあり、その事業を前提に採用も進めた結果、もう立ち戻れなくなってしまうスタートアップの話を数多く聞く中で、私たちはこのタイミングで迅速にピボットする決断をできたのはとても良い意思決定だったと思っています。

💬 DCM: 次の採択企業に向けて、アドバイスをするとしたら伝えたいことはありますか?
💬 伊藤さん:僕たちはプロダクトをローンチ済みの段階で応募しましたがValue propをしっかり詰められていなかったので、Atlasの期間中に一度ステップバックしてここを固め直しにいけたのは本当に良かったです。今すでにローンチ済みでも、PMFが見えずに悩んでいる起業家の方は、気づきを得られるプログラムと思います。半年の中で、毎日のラーニングをどれだけ貯められるのか、そうした基準値を上げることを、DCMの皆さんや周りの力を借りながらやっていくと、学びの多い時間になっていくと思います。


伊藤さん、インタビューありがとうございました!
こちらにて第1期の採択企業3社へのインタビューが完了しました!(vol.1 M2X CEO 岡部さんvol.2 Public CEO 松本さん
次回は、事務局目線での体験記をお届けしたいと思います。プログラムがどのような様子で進むのか、より具体的にわかると思いますのでお楽しみに!

🗺️ 第2期('24)への応募はこちら[受付期間2023/8/1~10/31]🗺️


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