【書評】貯金40万円が株式投資で4億円(かぶ1000さん著)
Twitterで有名人なかぶ1000さんの本を買ってみました。私の力不足により書評っていうほどのものは書けませんので感想です。
まずは面白いと感じた点をいくつか。
1.ルックスルー利益とルックスルー純資産
バフェット式らしいですね。何をしているかというと、投資先の企業の利益や純資産を保有割合に応じて合算するのです。それでポートフォリオとして、いくら投資して、毎期の利益はいくらで、純資産はいくらというのをモニタリングされているそうです。
たしかに株式投資は会社を保有する行為ですから、保有割合に応じて利益の配分や純資産の一部をもらっているというのはメイクセンスです。
ルックスルー利益が1112万円、純資産が6億782万円、時価総額2億1828万円(図表より引用)、元手が1億9414万円だそうです。配当は423万円うけとれると、、、うらやましい。
ちなみにROEは1112/60782=1.8%、配当性向は423/1112=38%、PER=21828/1112=19.6x
ROE低いな笑 PBRはROE×PERなのですが、ROE約2%で約PER20倍。PBRは0.4倍ですからかなりディスカウントされた銘柄をお持ちのようです。
株価だけじゃなくてファンダメンタルズ指標も合算してモニタリングしているというのは新鮮でした。
2.設備投資を比較する
著者は割安度を他社と比較する際に、PBR、PER、自己資本比率に加えて、設備投資を見るそうです。とくに、頻繁な更新が必要かどうか有報で確認されるとのことです。これは、私の使うバリュエーション手法であるDCFや、同じく私が考案したDCFを応用したファンダメンタルマルチプル法においても重要です。
DCFでは価値の源であるFCFを計算するときに設備投資を差し引きます。ファンダマルチプル法でもFCF/EBITDAやFCF/当期利益がマルチプルの基礎になります。キャッシュフローはやっぱ大事です。
設備投資はPERを見る時にはあまり気にしませんが、それは危険ですし、なによりもったいないです。私のサイクルチャートを見てくださった方はすでにご存じのとおり、企業は投資から収益を生み出します。投資をした年は、キャッシュだけが出ていき、まだ利益はでません。大きな設備投資はそれ単体で会社全体の損益をリスクに晒すこともあります。設備投資の情報は業績の先行指標なのです。
本には定量的な反映方法までは記載がありませんが、DCFであれば明示的に織り込むことができます。
3.収益バリューと資産バリュー
割安の基準を、毎年の収益力対比(収益バリュー)、いま企業が持っているもの対比(資産バリュー)の2面で捉える。収益力を担保に買い付けるのであればグロース株にバリュー投資をすることも可能なわけです。
かぶ1000流ネットネット株という概念も紹介されています。これは、現金同等物から負債を引いたものと時価総額を比べるやり方です。
要はネットキャッシュと時価総額を比べるやり方です。現金同等の中に質の低い流動資産(製品在庫など)が入らないように気をつけられているということです。
日本企業はバランスシートにお宝を残すクセがあります。そんなことは許されるわけもなく、今後どこかで修正されていきます。資産バリューはその大相場でに効果を発揮しそうです。アクティビストがキーになりますね(株主分析も本の中で触れられていました)。
投資するときは常にリスクを考えます。リスクとは想定外のことが起きるか?ということです。すでに保有している現金が時価総額より大きいというのはもうリスク0です。将来の収益と違ってこの事実は変わりようがないからです。それが資産バリューの強みで、株価が何十倍になることはなくても下落するリスクも低いわけです。
注意が必要な点
割安指標の絶対基準化は危険です。ここだけ気になりました。
著者はもちろん銘柄間の比較が難しく、指標だけ見てはいけないということを理解されているわけですが、経験の浅い方は注意が必要です。
例えばP.195にある表がそれです。
例えば、予想PERが6倍以下で激安、PBRが0.3倍で激安との表記があります。
PBR=PER×ROEであることを考えると
対象の株式のROEが0.3/6=5%であることを示唆しています。
ROEが5%の株を長期保有するとどうなるか。この会社の資本コストは5%より低いことはないでしょうから、基本的には価値を食いつぶしていきます。
どんなにキャッシュがあっても、いつか食い潰されるわけです。または株価が下がってしまうわけです。この場合、長期投資の対象としてベストではないかもしれません。
また、 同じPER5倍でも、リスクの違いで意味が変わってきます。よりリスクの低い方を選ぶべきです。マルチプルを絶対視する方法は私はおすすめしません。
ファンダメンタルズからマルチプルを計算する方法をnoteで紹介しています。それを使えば真の割安株を発見することが可能になります。
まとめ
やはり人生をバリュー投資に捧げていらっしゃる著者のエピソードなどは非常におもしろいです。バリューのリスクリターンの良さ、会社を保有している意識で株価をあまり気にしない方法など、長期投資家にとって有意義なコンテンツが多いです。
一方で、理論的な部分や計算式、表記については予備知識がないと誤解しかねない部分もあります。
たとえばEBITDAは3倍以下が安いとありますが、EBITDAはただの利益の数字です。○○円、という類のものです。おそらくEV/EBITDA倍率のことかと思いますが、初心者の方がそれに気付くことは困難だし、上級者であれば知っている内容が多いとは思います。
4億円の資産を作った著者の人生を覗く面白さ、投資の夢、リテラシー向上といった面で楽しめるのではないかと思いました。
完