マジック:ザ・ギャザリングのゲームデザイン上の発展の歴史(2)

アンリミテッド・エディション(1993年12月)

白枠

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アンリミテッド・エディションのアルファとベータが瞬く間に売り切れたあと、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは非限定版としてアンリミテッド・エディションを発売した。

アンリミテッド・エディションは、基本的にはリミテッド・エディションとすべて同内容の再販だった。しかし唯一、カードの枠の色が黒から白に変更された。これによって、リミテッド・エディションのコレクションとしての価値を維持しようと考えたのだ。つまり、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストはこの時点で、マジックを単なるゲームではなく現実世界の市場を形成するものだと認識し、それを望ましい方向にコントロールしようとしていたのである。

その後も、基本セットは原則的に白枠で印刷されるようになった。この仕様は第9版まで続いたが、第10版は記念として黒枠で印刷され、その次の基本セット2010からは白枠が廃止されてすべて黒枠で印刷されるようになった。

DCIの誕生

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アンリミテッド・エディションが発売されたあと、1994年1月にDCIが誕生した。DCIというのは、マジックを始めとするウィザーズ・オブ・ザ・コーストのゲームの競技的プレイを統括する組織である。当初は Duelists' Convocation International を略してDCIと呼ばれていたが、後にDCI自体が正式名称となった。

DCIは、トーナメントの規定を制定し、プレイヤーを番号で管理し、ジャッジ認定プログラムを作り出していった。これによってマジックの競技的なプレイが組織化され、プロプレイヤー誕生にもつながった。

当初のマジックのルールでは、デッキの最低枚数は60枚ではなく40枚であり、同名のカードは4枚までしか入れられないというルールも存在しなかった。DCIによるトーナメントが始まったことで、マジックをより競技的にするためにこれらのルールが導入された。ただトーナメント外では、第6版までこれらのルールがルールブックに記載されることはなかった。

アラビアン・ナイト(1993年12月)

エキスパンション・セット

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リミテッド・エディションの再版だったアンリミテッド・エディションとは異なり、アラビアン・ナイトは新たなカードセットとして作られた。つまり、セットを構成するすべてのカードが新たにデザインされた。

アラビアン・ナイトの制作時点では、エキスパンション・セットの立ち位置は明確ではなかった。リチャードは、カードの裏面の色を変えることで、最初のマジックと分けてプレイしやすくしようと考えていた。基本セットにエキスパンション・セットのカードを追加すると、そのすべての組み合わせを短期間でテストしなければならなくなり、そんなことは到底できないと思われたからである。アラビアン・ナイトのバランスがうまく取れなかったときのために、セットごと取り除いてプレイしやすくしようとしたのだ。

しかし、プレイヤーからの反発を受けて、裏面のデザインは統一されることになった。このときの決断がなければ、マジックの各セットの裏面はすべて異なっていて、分けてプレイするのが普通になっていたかもしれない。

裏面が統一されたことにより、アラビアン・ナイトを他のセットと区別することができなくなってしまったため、代わりに表面にシミターの形のエキスパンション・シンボルが配置されることになった。このエキスパンション・シンボルという概念はその後も受け継がれ、各セットの区別を容易にしている。なお、後のエクソダスから、エキスパンション・シンボルの色でカードのレアリティを区別できるようになった。

二次創作とトップダウン・デザイン

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初期のマジックのセットの多くがドミナリアという独自の世界を舞台にしているのに対して、アラビアン・ナイトは既存の作品である『千夜一夜物語』を舞台にしている。

マジックのデザインの方式には、メカニズム側から考えるボトムアップ・デザインと、テーマ側から考えるトップダウン・デザインの二種類がある。アラビアン・ナイトは、原典が存在することから、その要素をどのように再現するかを考えてトップダウンでデザインされたセットだった。

現時点で、既存の作品を舞台にしたセットは、このアラビアン・ナイトとポータル三国志の2つのみ存在する。

能力を持つ土地

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当初のマジックでは、土地はすべてマナを生み出すためだけのものだった。アラビアン・ナイトでその役割が拡張され、能力を持つ土地が誕生した。

リチャードは、『千夜一夜物語』をテーマにすることを決めたとき、図書館で何冊もの本を借り、その中に登場する人物や品物や場所を書き出していった。さらにそれらを各色とアーティファクトと土地に分けたとき、《Diamond Valley》や《Elephant Graveyard》などは明らかに土地であるべきだが、単にマナを生むだけではなく、特別な能力をもたせるべきだと考えたのだ。これは、トップダウンのデザインによって、テーマが新たなメカニズムを導いた好例である。

その後のセットでも、能力を持つ土地は作られ続けた。ただし、土地はマナを生み出すものだという基本の認識がある以上、マナを生み出さない土地はプレイヤーの混乱を招くことがわかったため、すべての土地は少なくともひとつのマナ能力を持つように統一された。

カードの所有権

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アラビアン・ナイトでは、カードの所有権を乗り越える能力がいくつも導入された。リミテッド・エディションの時点でも《支配魔法/Control Magic》などの相手のカードを奪う効果は存在していたが、このセットではそれがさらに推し進められた。

《Old Man of the Sea》は、自身がタップ状態である限り相手のクリーチャーを奪うカードで、その後も亜種が多く作られた。《アラジン/Aladdin》は、1枚で複数のカードを奪うことを可能にした。《ガズバンのオーガ/Ghazban Ogre》は、自分自身が2人のプレイヤーの間を渡り歩くカードだった。

そして《Ifh-Biff Efreet》は、所有権という概念自体を曖昧にした。その能力をどちらのプレイヤーでも起動することができたのだ。このコンセプトは、後のメルカディアン・マスクスで、「モンガー」というクリーチャーのサイクルで再利用された。

コイン投げ

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マジックには当初からランダム性が存在していた。パックにはカードがランダムに封入されていたし、デッキからどのカードを引くかもランダムだった。そしてプレイヤーはそのことを楽しんだ。

リチャードは、マジックにさらなるランダム性を加えた。カードの能力でコインを投げ、その結果によって異なることが起こるようにしたのだ。

しかし、コイン投げはそれほどプレイヤーに好まれず、年を経るごとにその数を減らしていった。今では、コイン投げを好む一部のプレイヤーに向けて、数年に1枚収録される程度になっている。

ランダム性には、ランダムな入力とランダムな出力がある。ブースターパックやカードドローはランダムな入力であり、プレイヤーはそれを受けて「ランダムに与えられたこれをどう使おう?」と考え、それから選択することができる。アラビアン・ナイトのコイン投げはランダムな出力であり、プレイヤーが選択した結果が、確率によって台無しにされてしまうようなものだった。現在では、ランダムな入力は受け入れられやすいが、ランダムな出力は拒否反応を引き起こしやすいことが知られている。

「ゲームから取り除く」の活用

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リミテッド・エディションの時点で、《剣を鍬に/Swords to Plowshares》など、「クリーチャーをゲームから取り除く」効果を持つカードは存在していた。アラビアン・ナイトはこの概念を拡張し、より柔軟かつ便利に使えるものにした。

《Oubliette》は、クリーチャーをゲームから取り除くが、自身が破壊されたときにそのクリーチャーをまた場に戻す。このカードは地下牢であり、クリーチャーをそこに一時的に閉じ込めることができるが、破壊されたらそのクリーチャーは脱出してしまうのだ。

その後も、オブジェクトを一時的にゲームから取り除いたり、ゲームから取り除いたオブジェクトに対して様々な操作をするカードがいくつも作られた。ただ、この「ゲームから取り除く」という用語は、長いうえにフレーバー上の意味を持たない言葉だったため、後に基本セット2010のルール改定で「追放する」という言葉に改められた。

アラビアン・ナイトには、「カードをゲームから取り除く」のではなく、逆に「ゲームの外部からカードを手札に加える」能力を持つ《Ring of Ma'ruf》も存在していた。初期のマジックらしい型破りな効果を持つカードであり、そのコンセプトは、後にジャッジメントの「願い」サイクルで再利用された。

サブゲーム

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『千夜一夜物語』は、シェヘラザードという娘が、王の寝屋で毎夜語る物語を連ねた作中作になっている。それを元にしてデザインされた《Shahrazad》は、マジックのゲームの中でさらにサブゲームを始めるというもので、原作の物語上の入れ子構造をゲーム上の入れ子構造として再現している。

《Shahrazad》は、マジックのカードが、ゲーム内の要素だけではなくゲーム構造自体を取り扱えることを証明した。その特異さから、リチャード自身もこのカードをアラビアン・ナイトでの一番のお気に入りとして挙げている。しかし、サブゲームを行うというコンセプト上、トーナメントで時間を消費しすぎてしまうという問題があり、このカードは禁止されることとなってしまった。

サブゲームは、その後のマジックの本流で登場することはなかったが、銀枠と呼ばれるジョークエキスパンションで何度か取り上げられてきている。

安全装置

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すべてのカードセットの裏面のデザインが統一されることが決まり、リチャードは、アラビアン・ナイトのバランスが壊れていたり、そのセットを好まないプレイヤーが出たりしたときのために安全装置を用意したいと考えた。

《City in a Bottle》は、アラビアン・ナイトで登場したすべてのカードを一枚で封殺することができる。それはむしろ大きすぎる安全装置だったかもしれない。しかし、ゲームに新たなコンセプトを導入したときに、それが全体を壊してしまわないように安全装置を用意しておくという手法はここで生まれた。

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