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「芸人食わねど高コーヒー」【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】ヤーレンズ出井 著




はじめに



手に取って下さった殊勝な皆様、ありがとうございます。お読みの電子機器の充電は満タンでしょうか?

出井隼之介と申します。『売れてない芸人(金の卵)シリーズ』のその名の通り、売れてない芸人です。

これを書いている今も、絶好調で金欠です。

給料日までまだしばらくありますが、財布には残り3000円くらいといったところでしょうか。こんな時、あなたならどうしますか?(こんな時はあまり無いでしょうが)

なんでこんな事になったのかと自責の念に駆られ、途方に暮れるでしょうか?

もしくは残金と給料日を照らし合わせて、1日当たりの使える額を計算するでしょうか?

はたまた、残金握り締めてギャンブルに行くとか……? まあ、人それぞれ考えがあるでしょう。

ちなみに僕はこの後、行きつけのカフェに行って、100g1200円のコーヒー豆を買う予定です。

タイトルは、まさしくそういう事です。(は?)

僕はヤーレンズという漫才コンビをやっている、34歳の売れない芸人です。今年で芸歴は14年になります。「夢を追っている」と胸を張って言える年齢・キャリアではありません。少し身をかがめて「恥ずかしながら今も夢を追わせて頂いている」と言わねばなりません。

収入を見れば、僕の人生は決して明るいとは言えません。「でも、好きなことを仕事に出来ているんだから楽しくていいでしょう?」と人からよく言われます。

正直な所、楽しい事と辛い事なら、辛い事の方が多いです。

「じゃあなんで辞めないの?」

そう思う方が少なくないはずです。僕もそう思います。その問いに対する僕なりの答えが、ここには書いてあります。

『売れてない芸人シリーズ』と聞くと、現状の辛さへの嘆きや、愚痴が書いてあるような印象を持つ方もいるかもしれませんが、そんな事がつらつらと書いているわけではありません。あまりそういうのは好きじゃないですし、なによりこれは誰に言われたでもなく、手前で選んだ道なので、泣き言は言いたくありません。

常に我慢の日々です。生活はつらいけども、なるべく表には出さずに日々舞台で漫才をしています。

そんなやせ我慢の生活を表すために、この『芸人食わねど高コーヒー』というタイトルを付けました。

僕は無類のコーヒー好きで、毎日色々なコーヒーを飲んでいます。その中で、コピ・ルアックという、ジャコウネコの糞からとる世界一高価なコーヒー(高級ホテルのレストランで一杯8000円くらいする代物)も飲んだ事があるので断言出来ますが、コーヒーは値段が高けりゃいいってもんじゃないです。

なのでタイトルも本当は「高コーヒー」よりも「良いコーヒー」としたい所だったのですが、それでは元の「武士は食わねど高楊枝」と随分、語感が離れてしまうので、コーヒーだけに苦渋の選択で「高コーヒー」にしました。

さて、売れない芸人がやせ我慢しながらもなぜ活動を続け、如何に己を保ち、気持ちを切らさずに生きているのか。

いくら稼いでいなくても、打ち合わせの時に出されるインスタントコーヒーには口をつけずに、一丁前に良いコーヒーを飲む男の半生を通して、売れない芸人のメンタリティの一端が伝えられたらと思います。

しばらくお付き合い下さい。思い出話も多くなるかもしれません。

『苦い』話ばっかりになったら、すみません。

ゴーヤだけに。

ヤーレンズ出井




出身地の話



出身地を聞かれるのが面倒臭い。

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