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僕の墓石はサウナストーン〜売れてない芸人が足掻いた10年間〜【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】箸休めサトシ 著




はじめに



「みなさん、こんにちは。本日のアウフグースを担当します、箸休めサトシです。よろしくお願いします。

アウフグースとはドイツ発祥のプログラムで、フィンランドではロウリュウと呼ばれたりもしています。

今から、こちらにある、熱したサウナストーンにアロマ水をかけ、発生した蒸気をタオルで仰ぐことによって、皆様の体感温度を高め、発汗作用を促していきます。

本日のアロマはペパーミントです。リラックス効果があり、脳の働きを活性化させると言われております。それでは、はじめていきたいと思います」

こんな感じで、サウナ室の中で一通り説明を終えたら、桶に準備していたアロマ水をサウナストーンにかけていきます。タオルで仰ぐと、熱を持った蒸気とアロマの香りで、サウナ室が満たされていきます。

僕のやっている「アウフギーサー」というお仕事です。

10年間。僕は芸人として活動する傍ら、この仕事をやってきました。

今は横浜にある「スカイスパYOKOHAMA」というところで働いています。

サウナが好きで、さらに人前に立つことが好きな僕にとって、アウフギーサーはとても楽しくやらせてもらっている仕事です。

みんなが座ってこっちを見ており、タオルを仰ぐ僕に注目が集まります。一通りプログラムを終え、挨拶をすると、拍手をもらえたりします。

火傷をするくらい手が熱くなったりもするけれど、自分が仰いだ風でお客さんが気持ちよさそうにしているのがうれしいです。

お客さんの前でパフォーマンスをして楽しませる――。アウフギーサーも芸人と似通っている部分があります。ほら、サウナ室って、造りが劇場に似ていますよね。

「もしかしたら、サウナで何か面白いことができるかもしれない」

お客さんに風を送りながら、そんなことをずっと考えていました。

そんな中。ここ最近のサウナブームが到来しました。たくさんの人がサウナに興味を持ってくれるようになりました。

おじさんの、おじさんによる、おじさんのためのもの――だったサウナのイメージが少しずつ変わってきて、今では若い人から女性の方まで、老若男女、幅広く見かけるようになりました。

僕がサウナで働いてきて、初めての、大きな風が吹いています。テレビでサウナが紹介されたり、雑誌でサウナ特集が掲載されたり。

みなさんのまわりにも「最近サウナにハマってさ〜」なんて言う友達が、増えてきているのではないでしょうか。

大好きなサウナが、仕事にしてきたサウナが、少しずつ注目されてきている。こんな状況に僕の中の「芸人」の血が騒がないわけありません。

僕の中で温めてきた“思い”が、ちょっとずつ形になりはじめました。

たとえば、僕がやっている取り組みとして「アウフグースショー」というものがあります。サウナで行うアウフグースに、曲やアロマ、タオル捌きの演出を加え、ショーとしてお客様に楽しんでもらおう、というものです。

僕は宇宙服を身にまとい、サウナ室に登場します。

「ようこそ、みなさん。私はキャプテン・サトシ。この宇宙船の船長だ!」

そう叫ぶ僕の後ろには、『スター・ウォーズ』のBGM。

「私がこの大いなる宇宙、“ととのいの銀河の旅”へお連れいたしましょう! さぁ行こう! うりゃぁああ!」

そんな気が狂った口上からはじまるのが、アウフグースショーの演目の1つ「サウナ・スターツアーズ」。ちなみに、冒頭で書いたような「アウフグースとは……」なんて説明は、宇宙の彼方へ消し去ります。

勢いでやってみたこのパフォーマンスが、思いのほか、たくさんの人から好評をいただきました。新ネタも増え、最近では僕が勤めているスカイスパだけではなく、他の施設でもパフォーマンスをさせてもらっています。

ありがたいことに僕の予約制のアウフグースも、かなり早い段階で完売するようになってきました。

「僕にしかできないことが、あるんじゃないか」

その思いが少しずつ芽生えるようになりました。

「サウナ ✕ エンターテインメント」

僕が個人的に、テーマにしていることです。

芸人として活動していたからこそ、サウナの中に「楽しい」を持ち込んでみました。すると、サウナだけではなく「箸休めサトシのアウフグースを受けたい」という目的で、お客さんが来てくれるようになったんです。

この先、僕に限らず「この人に会いたい」「この人のアウフグースを受けてみたい」という目的で、サウナに来てくれる人がいるかもしれない。そう考えるようになりました。

そこで僕は、アウフギーサー達に声をかけ、2020年に「Aufguss Professional Team(アウフグースプロフェッショナルチーム)」というものをつくりました。

この活動でアウフギーサーを応援してもらえるようにすることが目的です。精鋭達が揃っていますので、見かけた際はぜひアウフグースを受けてみてください。

まだまだサウナの可能性を広げたい。

サウナで、できることはまだまだある。日本のサウナ界が変わってきている中、僕がサウナ界を盛り上げたい。

ざっと書きましたが、そんな活動をしているのが、今の僕。箸休めサトシです。自己紹介になりましたでしょうか。

こうして、改めて書いてみると「今、自分はこんなことをしているんだな」と不思議な気持ちになります。

じつは、今このように“サウナ芸人”として活動するまでに、サラリーマンをやっていた時期があったり、1人でビラを配って300回以上続くお笑いライブを主催してきたりと、いろんなことがありました。

そして、ちょうど僕のやってきたことが組み合わさって、1つの形になろうとしている。

そんなタイミングで、この本のお話をいただきました。自伝を書くにはあまりにも「売れてない芸人」だけど、あっちこっちぶつかって、もがいている姿なら結構見せられるかもしれません。

今こそ時代の風に乗ろうと燃えている僕の、ここまでのお話と、この先のお話を。よかったら覗いていってください。

それでは、はじまり、はじまり。

箸休めサトシ



1章
 サラリーマンから芸人へ



IT企業で営業マン

改めまして、箸休めサトシです。

本名は加藤聡。神奈川県出身です。よろしくお願いします。

サウナ室の中で「サウナは宇宙だ」とか言いながらタオルを振ったり、サウナイベントに呼ばれては「サウナは冒険だ」とか言いながらアロマ水をかけたり。

今ではすっかり、変な活動をしていますが、これでもきちんと「お笑い養成所に入って芸人になる」という、然るべき手順を踏んできました。いつかダウンタウンになりたいです。

僕が芸人になったのは、28歳の時でした。

ここで「あれ?」と思う方もいるかもしれません。そうです、はじめたのが遅いんです。

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