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片眼を失って二年で思うことEssay

片眼を失って、もう二年になる
同じ時に愛犬を失った
愛犬は癌だった
最後の苦しみだけはさせたくないと安楽死を考えていた
その決断は、なかなかできなかった
そして、ついにその日が来た
金曜日の夜中に、苦しみだした

溜め込んでいた痛み止めの薬を飲ませる
いくら呑ませても痛みは止められない
限界を感じた

次の日は土曜日、そして次は日曜日。
動物病院は休みだ

もし、土曜の夜から痛み始めたら止めようがない
苦しみの中で死んでいくしかない
弟の愛犬がそうだった
痛み泣き叫ぶ愛犬を抱きしめて、一晩中泣いたと言った
このことが頭から離れなかった

私も看病に疲れ、体調を崩していた
先週の日曜日に、尿が出なくなって、地獄のような苦しみを味わった
日曜に夜中から苦しみだして、朝を待った
時計を見ながら、病院の開くのをまった
病院さえ開けば、助かる・・・・

病院が開くのを待って、病院に飛び込んだ
そして、カテーテルで尿を出し、救われた
「直ぐに、入院して手術しましょう」

即座に断った
「愛犬を見捨てて、入院するわけにはいかない」
そうして、無事に愛犬のところに戻ることができた

いつでも病院に行けるように、車を用意した
朝、起きて立ち上がろうとしたが、立てない?
無理して立ち上がると、そのまま倒れる?
身体に感覚がない

感覚を取り戻すために、健康器具を使って、身体に刺激を与える
功を奏して、なんとか動けるようになった
愛犬が心配そうに見ている
「大丈夫だよ」と答えて、這うようにして段取りをする
私の頭の中には愛犬を守ることしかなかった

話を戻そう
病気の悪化が日曜日になるという最悪の状態を避けなければならない
そうして、別れの決断をした
ギリギリまで一緒に居たいけど、お前を苦しめることになる
辛いけれど、病院へ行こう

多分、その時の私の意識は半分飛んでいたと思う
ハッキリ覚えていない
病院の先生に頼んで、安楽死をお願いした

処置はあっという間に終わった
これで、苦しませないで済んだと自分を納得させた
しかし、すぐに後悔が始まった
「早まったのではない・・・・・」

この後悔は二年経った今も続いている
「ああ、愛犬に会いたい」

愛犬を火葬するのが嫌で、梅の木の根元に深く埋葬した
体調は最悪で、這うようにして、土をかぶせ、祈った
その時、目に土が入り、それが原因で失明した。
愛犬が別れを怒っているのかと思った

悪いウイルスの浸食は凄まじく早かった
総合病院の眼科に行ったときは限界だった
「麻酔かけて手術する時間はありません。このまま処置します」
そう言って、麻酔無しで処置が行われた

愛犬の苦しみを思えば、たいしたことではないと思った
「お前の苦しみ、一緒に体験してやるよ」

失明を告げられたときも、驚かなかった
愛犬を失った悲しみの方が大きかったのだ
だから、視力の不便さを感じながら、愛犬と話をしている
「片眼ってマンガの本のような二次元の世界だよ」
こうして、愛犬と一緒にいられることを喜んでいる

片眼を失って、多くの事を学んだ
片眼を酷使していると、視力が落ちていく
棟方志功の苦労が良くわかる

時々思う
神様が好き部位と交換してくれると言ったら、何と交換しようか?
片足は・・ちょっと不便だなぁ
片手は・・かなり不便そうだ
口はひとつしかない
鼻の穴は・・蓄膿で長い間苦しんだ。このまま酸素不足で死ぬかと思った。手術で両穴が開いたとき、酸素の美味しさを味わった。もう、あの苦しみはいやだ!
では、耳はどうだろう。多分、音の距離と方向が分からなくなる。聞こえるのは音の大小だけが、頭の真ん中でするかも・・・
社会には様々な音がある。両耳があるから、方向と大きさと種類で判断し、無視していられる。これが頭の真ん中で聞こえたら、音がする度に、周囲を見回し、音の原因を探らなければならない。これは、かなりキツい・・・気が狂うかも

片眼は、一番楽なのかも知れないと思った
そして、人間の素晴らしさを体験できた
部位のひとつがなくなるだけで、機能の80%位は失う
その精密さを知って、震えるほど感動した
片眼は不便だけれど、この体験はそれを遙かに超える

昔、死んだらどうなるんだろうと考えたことがあった
だから、死んで確かめたいとも考えた
戻って来れないから、他の人に話すこともできない
そう考えて、死ぬことは諦めた

片眼の体験は、その欲求を満たしてくれるに近い
体験したものしか判らない、人体の真実

片眼で困るのは、セルフレジでのこと
カードが使えるようになっているのでかなり複雑である
複雑な機械も、普通は表面だけの表示を見ればよい
表面はシンプルにできている
しかし、マンガのような二次元では複雑な線が同じ面にある
複雑すぎて確認できない
大雑把なことでは不便はない
もともとがそんなにハッキリ認識して行動している訳ではないからだ
しかし、細かく確認しなければならないとなると途端に不便になる

しかし、良いこともある
私は片眼が見えないことをわかるように海賊のような黒い革製の眼帯をしている。
これは、自作のオリジナルだ。
理由は、外国人と日本人の骨格が違う
特に目の周りの骨格が違う
外国製の眼帯は使用できないのだ

片眼をアピールする理由は、見えないためマゴマゴする
周囲の人には、もたついて迷惑だなと不愉快な気持ちにしてしまう
眼帯をしていると、動きの悪い事を理解してくれる

そして、みんなが親切になる

この失明体験は感謝に近い


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