言葉から料理を
文学カレー漱石から太宰へ
小説やエッセイに出てくる料理を自分なりにアレンジして再現する「文士料理」を初めてだいぶ経ちます。本の中にしかない、いわば食べることができない料理は大変魅力的に映ったようで、お蔭様で書籍にもなりました。
そこからさらに先に行こうと、文学や作家に影響を受けた「文学料理」を始めたのは去年のこと。芥川龍之介の短編「葱」のタイトルそのままに、葱をごま油で炒め塩コショウでシンプルに味付けした「葱だけの芥川春巻き」や、紫に染まったポテトサラダは江戸川乱歩の名作から「黒蜥蜴ポテサラ」と。たんなるこじつけだろ、というつっこみをいただきながらも、自分なりにその作品の世界観を料理にしてきました。
文学カレー漱石はこの流れでつくりあげたものです。漱石が食べて「美味い」と言ってくれるカレーを目指しました。高校の入学時に「牛肉を腹いっぱい食べたい」と言ったという逸話からメインの具材を牛肉にしました。生涯胃痛や不眠症、神経衰弱に悩まされていたので、その辺をおもんばかり心と身体に寄り添うようにスパイスを配合しました。胃への負担を軽くするために、唐辛子は使わずに、胡椒のみで柔らかい辛さを出し、またとろみも少なくして、野菜は細かく刻んでルーに溶け込むようにしました。
去年の6月にこのカレーを店で出したところ、幸いにも多くのお客さまに喜んでいただきました。遠方の方にもお届け出来るよう、今年の2月9日夏目漱石の誕生日にレトルトカレーとして発売しました。二子玉川の蔦屋家電さんでトークショーをさせていただいたり、その様子を読売新聞が記事にしてくれたりと、様々な媒体でご紹介いただき、好調に発信いたしました。
その矢先に今回の新型コロナウイルスの問題が起きました。取り扱ってくださった書店さんは次々に休業、4月1日からは感染拡大防止のために、当店も店を閉めています。心配してくださる沢山のお客さまがレトルトを購入してくださりました。当店はいまカレーで支えてもらっています。
文学カレー漱石をレトルトにする前から、次の文学カレーは太宰だよね、とカレー担当の斎藤さんやお客さまとも話をし、仲間と企画も進めていました。発売するなら6月19日の太宰治の命日「桜桃忌」と決めていたのです。
こんな状況ですが、むしろこんな状況だからこそ、6月19日の桜桃忌にレトルトにした文学カレー太宰を発売したいと思っています。
このnoteで発売までのあれこれをつづっていきます。残り一か月半、時間はあまりないですが、なんとか頑張っていきます。コロナ時代に当店がどう生き残っていくか、文学カレー太宰に賭けた勝負です。