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小説-DAWN OF AKARI-奏撃の い・ろ・は

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以前クラウドファンディングでアニメ化を試みて未達に終わった「ABC of Akari」の企画をベースに、新たにストーリーを作り直した独自ビルド版の小説です。よろしければ読んでくだ…
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#SFファンタジー

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(01)

-DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は 「汝の意志することを行え 」(do that which you want) フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル』より プロローグ 〔――今世紀最後の秘宝大公開!――〕  通販の誇大広告のような、仰々しい煽り文句が目を引く巨大なポスターが、空港ロビーの至る所に貼ってある。  ここは、ロンドン・ヒースロー空港のクイーンズターミナル(T2)。待合ロビーの其処此処に設置されたフライトインフォメー

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(09)

9 アリィ・パリィの愛称で知られるアレクサンドラ・パレスは、ロンドンの北東部にあるビクトリア朝様式の宮殿だ。『市民の宮殿(The People’s Palace)』として1837年に開業したその施設は、2度の火災の憂き目に会いながらもその都度再建され、現在もロンドン市民の憩いの場として利用されている。  アレクサンドラ・パレスまでは、地下鉄ピカデリーラインのウッド・グリーン駅で降り、そこからアレクサンドラ・パレスまでのバスが6分置きに出ている。  駅から徒歩でだと20分ぐらい

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(11)

11  若くして斬首刑に処せられた古代ローマの聖人の名前を冠したドーバー海峡トンネルを走る国際列車の発着駅がセント・パンクラス駅だ。  人工の三分の一が外国生まれの多民族国家イギリスでは多くの外国人達がこの駅を通じて往き来している。  駅構内にあるショッピング・コンコースの中央から二階へと伸びる階段の下には“Play me, I'm yours”(自由に弾いてください、あなたのものです)というメッセージとともに、一台のストリートピアノが置いてある。  旅人達はピアノの前に自由

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(12)

12  ロンドン郊外の南西部で、中心部をテムズ川が流れる風光明媚なリッチモンド。其所はかつて英国王室の宮殿があった歴史的に重要な地域だ。ヒースロー空港とロンドン中心部の大凡中間地点に位置し、そのリッチモンドという名が示すように住民は富裕層も多く、比較的に治安の安定した高級住宅地としても知られている。最近は世界的に有名なインターネット関連企業のPayPalやeBayなどが英国における支社をここリッチモンドに拠点を移した事で、より多くのICT産業がこの地区に集積し始めているのも

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(13)

13  ピーターシャム・ホテルのトイレの前は割と広めな空間で、白地に鮮やかなブルーの花柄をあしらったモノトーンの壁に囲まれ、お洒落なドレッサーとソファが設えである。其所はまるで宮殿のプリンセスのお部屋みたいな場所だ。  そんな場所でビーチサンダル履きの巨漢の男が深々とソファに座り、目の前の花柄の壁を真剣に見つめながら電話をしていた。端から見るとそれはなかなか奇妙な光景だった。  電話中の男はBSCの技術開発セクション主任技師のトッド・マクガイヤーことビックマック、そして電話

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(14)

14  自宅の納屋を改造したガレージで自動車を組み立てる小規模生産の自動車メーカーが多かった英国では親しみを込めてバックヤードビルダーという呼び名が生まれた。  スコットランド南東部イースト・ロージアンのとある古城に、そんなバックヤードビルダーの雰囲気を現代に踏襲するようなファクトリーベースがある。  表向きは警備保障会社『ブラック・サイン・コーポレーション(BSC)』傘下の車両整備工場で、歴史と伝統を感じさせる古城の外観とは打って変わって内部には最新のハイテク設備が整って