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ジョン・ウー 仁義ある男たちの英雄譚を描き続けるバイオレンス映画のマエストロ

「男たちの挽歌」で香港ノワールというジャンルを作り、どんな逆境に追い込まれ虐げられても家族や親友を守るために自らの命を懸けて尊厳のために戦う男たちの生きざまをアクションノワールのスタイルで描き続けてきたジョン・ウーは、映画同様に逆境に立ち向かう人生を生きてきた。
「家の前で人が殺されるのは日常茶飯事だった。地獄のようなところに住んでいたよ」とジョン・ウー自身が語るように最悪の環境のスラムに育ち、父親は学者だったけど病に倒れ、母親が懸命に働いていたが、ジョン・ウーは学校にも行けない貧困に苦しんでいた。
そんなジョン・ウーの一家を救ってくれたのはキリスト教会で、少年期のジョン・ウーは神父になりたいと思うほどキリスト教に帰依しキリスト教的価値観は多大な影響を与えた。
青年期のジョン・ウーは映画に夢中になり、映画監督になりたいと志を立てた。
父親はジョン・ウーに、「好きなように生きていいが、威厳を持って正しい人生を歩みなさい」と言い残して世を去った。この遺言は、ジョン・ウーの生きざまの基盤になっている。
20代前半にジョン・ウーは、ショウ・ブラザーズのエース監督チャン・ツェの下で助監督として師事し、チャン・ツェの武俠映画の鮮烈なバイオレンス描写や誇り高い男性ヒーローの英雄的な生きざまは後のジョン・ウーの映画に登場するヒーロー像に多大な影響を与えた。
ジョン・ウーはゴールデンハーベスト社と契約し、長年熱望していたカンフー映画で監督デビューする。それが、「カラテ愚連隊」。だが最初の逆境が、ジョン・ウーに訪れる。折しもカンフー映画が下火になっていた時期であり、内容の過激さからお蔵入りしてしまった。
監督第2作そして第3作「少林門」もそれほどヒットせず、チャン・ツェの武俠映画にオマージュを捧げた「豪俠」(未だに日本でDVD化されていない幻の映画で、キングレコードやユニバーサルさんなんとかDVD化してください!)もヒットせず、ゴールデンハーベスト社からジョン・ウーは意に沿わないコメディ映画ばかり作らされた。戦争映画「ソルジャー・ドックス」ではバイオレンスの過激さが問題になり、お蔵入りになった。台湾の映画会社では、下働きのような扱いをされていたジョン・ウーに、香港時代から交流のあるツイハークが一本の企画を持ち込んだ。
それが、「男たちの挽歌」だった。
ジョン・ウーの台湾時代の燻っていた気持ちやなんとか巻き返したい気持ちを、仲間の裏切りにあいなんとか巻き返そうとするマークやホーに込めた入魂作は大ヒットし、香港ノワールというジャンルを作り出した。
だが会社に依頼された「男たちの挽歌2」のプロットに悩み、制作企画中だった「男たちの挽歌3」の若い頃のマークやホーの要素や自伝的な要素を取り入れた入魂作「ワイルドブリット」が大コケするなどの逆境があったものの、ジョン・ウー映画のトレードマークであるスローモーションやモンタージュを多用した華麗なガンアクションと誇り高いチョウ・ユンファなどの男性ヒーローの英雄的生きざまのかっこよさはハリウッドからも注目され、ジョン・ウーのスタイルを確立した「狼・男たちの挽歌最終章」はアメリカでカルト的ヒットとなった。
満を持してハリウッド進出したジョン・ウーだが、「ハードターゲット」ではスタジオに編集権を奪われ、「ブロークン・アロー」では脚本の練り込み不足を指摘されるなどハリウッドのシステムにぶつかる。
だが、ついにジョン・ウーの集大成と言える一大傑作を作り出した。それが、「フェイス・オフ」だ。複雑な因縁をはらんだFBI捜査官とテロリストのお互いの顔面を交換しながらの対決という奇想天外なストーリーを、善の中にある悪そして悪の中にある善というジョン・ウーの「善と悪は紙一重」というテーマに基づいた善と悪の宿命の対決にまで昇華したジョン・ウーは、ハリウッドでもナンバー1の監督となった。
その後「ミッションインポッシブル2」「ウィンドトーカーズ」と自らのスタイルを発展したジョン・ウーは中国に拠点を移し、念願の「赤壁の戦い」を映画化した「レッド・クリフ」を大ヒットしたものの、長澤まさみ主演の歴史大作「大平輪」が大コケした。
闘病後久しぶりに現代アクションに復帰した「マンハント」は、ジョン・ウー節が炸裂した快作になっているとのこと。
ジョン・ウーは、チャン・ツェ監督のスタイルの他に高倉健主演の任侠映画や日活アクション映画からも多大な影響を受けており、警察官とヤクザや殺し屋の対立と友情が描かれている高倉健主演の「ならず者」やヤクザ社会で仁義を通せない葛藤を描いたヤクザ映画などのストーリーがお気に入りなだけに、家族愛や兄弟愛や友情が仇となって窮地に陥り「男たちの挽歌」でリンチに遭うマークや「狼・男たちの挽歌最終章」でリンチに遭うジェフリーの親友シドニーのように虐げられても自分の命より大事な親友や兄弟や家族を守るために己の流儀を貫き戦う男たちの生きざまや戦いをスローモーションやモンタージュを巧みに組み合わせた華麗なガンアクションで描くアクションノワールを一貫して、ジョン・ウーは作り続けている。ハリウッド進出後は、「ブロークンアロー」のサマンサ・マシスや「フェイス・オフ」でのジーナ・ガーションやジョアン・アレンや「ミッションインポッシブル2」のサンディ・ニュートンのように女性キャラクターも男性ヒーローの相棒として協力して戦うまで地位が向上して、多民族同士の友情や家族愛の要素が加わりテーマ性が発展した。
ジョン・ウーの映画の男性ヒーローの生きざまが多くの映画ファンに憧れの的になっている以上、マンネリと言われようがジョン・ウーには己の流儀を貫き通して欲しい。そんなジョン・ウーの映画を、まだまだ憧れ追いかけていきたい。

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