志乃ちゃんは自分の名前が言えない 生きづらさを抱えた少女たちの青春 その1
あらすじ
高校1年生の大島志乃(南沙良)は、上手く言葉を話すことができず、周囲と馴染めないでいた。
そんな時、ひょんなことから校舎裏で出会った同級生の岡崎加代(蒔田彩珠)と一緒に過ごすようになる。
人と距離を置き、卑屈になりがちな志乃だったが、加代からバンドを組まないかと誘われたことをきっかけに、少しずつ変わり始める。2人で過ごす夏休み。
平穏に過ぎると思っていた志乃だが、自分をからかった同級生の男子、菊地が強引に参加することになり、志乃と加代の関係がギクシャクしたまま、文化祭の日を迎えてしまう。
押見修造の青春漫画を映画化。
感想
ストーリーは原作漫画に忠実だが、言葉を上手く発することが出来ず周囲と馴染めず苦しむ志乃と表面上はクールで無愛想だが音楽が大好きだけど音痴というコンプレックスを持つ加代が、似たり寄ったりの上手く自分を表現出来ないコンプレックスを持つ者同士が、お互いを知り不器用に心通わせていく過程を、吃音と音痴というお互いのコンプレックスを知り音楽を通して心許し通わせ合って路上ライブで自分を表現する喜びに目覚めて少しずつ自信がついてお互いがお互いの居場所になっていく心情の変化を、入学当初の自己紹介や放課後のカラオケや路上ライブでの志乃と加代の表情や会話の変化の中で丁寧に描かれている。特に、志乃が加代にカラオケで自分の歌を聞かせるシーン、志乃と加代が緊張しながら初路上ライブをやるシーン、志乃と加代が歌の練習したりふたりで自転車に乗ったり遊ぶシーンなど、志乃と加代ふたりのシーンの中でふたりの心情の変化や葛藤が、丁寧に描かれている。
しんどさが伝わりにくい吃音の苦しみが、志乃が校舎裏で一生懸命雑談の練習するシーンや志乃が授業で上手く答えられないシーンや先生が志乃に「上手く喋るためには人に積極的に話しかけなければ」と言われてクラスメートに話しかけようとしても上手くいかないシーンで丁寧に描かれている。
志乃と加代と菊地が小さいけど大きな一歩踏み出すクライマックスの文化祭ライブのシーンは、「自分のコンプレックスから逃げるのではなく、良い面も悪い面も自分を受け入れ自分を生きることから始めることしか前に進めない」という原作漫画のメッセージがより伝わる名シーンになっていた。
「あの素晴らしい愛をもう一度」、ミッシェルガンエレファントの「世界の終わり」、ブルーハーツの「青空」を瑞々しく歌い上げる志乃と加代の路上ライブのシーンは、歌が志乃と加代の心情を雄弁に表現していてエモい。
南紗良、蒔田彩珠の思春期そのもののリアルな演技は、ブルーリボン賞など新人賞授賞も納得。
近年の日本映画では、「ミスミソウ」「少女邂逅」と並ぶガール・ミーツ・ガール映画であり青春映画の傑作。
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