萌芽
萌芽
箱根湯本ホテルに泊まる。二十八歳になって初めての旅行である。今日は記念すべき出発の日だ。小説の材料を数多く吸収した。外国の旅行客に箱根山と梅酒を薦めた。英語で話すのも久しぶりだがとっさに言葉が出た。万国共通の情熱を数十秒間のうちに感じた。蕎麦懐石も美味だった。谷崎潤一郎や太宰治、芥川龍之介、川端康成のようになりたいという気持ちが爆増した。
文学の道成就するには前途多難なり、夏目漱石のやうな国民作家になろうとせん志、——十五歳の時分から感じている感じている将来の夢——このホテルに泊まったから現実になるわけではないが日本を代表する文豪になりたいというテーマ、挫折するまで続ける覚悟のあるやなしや我が身に問わんと欲す。今という時無職あてどなしされど文豪の道で花咲かせん。父母知らず我が内奥の真念、社会再興せん心意気、何も思い浮かばぬ愚鈍な魂、私に国家百年の計は立てられぬのであらうか、血税の糧で手に入れた此の旅行。何かのきっかけになれば嬉しやな。我が身文学に捨て去る決意此処に記す。
令和五年四月十日
木下雄飛
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