日々鯨之 (Keino HIBI)

文筆家。心あたたまる小説やエッセイを書きます。🐳の上に🐶が乗ってます。興味分野: クラ…

日々鯨之 (Keino HIBI)

文筆家。心あたたまる小説やエッセイを書きます。🐳の上に🐶が乗ってます。興味分野: クラシック音楽、手帳、映画、美術、読書。創作ユニット@doggyandwhaleの一員です。 https://doggyandwhale.love/

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    化粧はわたしの「戦闘服」。わたしを強くしてくれる。 内気で感受性の強い自分に「武装」してIT企業の技術営業職として働くあや子は、お気に入りのノートと万年筆で日々の出来事や自分の考え・思いを書き出して整理する習慣を仕事や生活に活かしている。 出勤前のおひとり様時間を楽しむカフェでのある女性バリスタとの交流が、あや子の日々と内面とに、最初は小さな、徐々に大きな波紋を起こしていく。 ある日、1杯の特別なコーヒーとそこに込められた様々な思いにより、あや子の人生に決定的な変化が訪れる。 性の多様性を1つのテーマに、真の自分らしさや心の自由を求めて生きるヒロイン達の等身大の物語。

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小説「ある朝の目覚め」第一章

あらすじ化粧はわたしの「戦闘服」。わたしを強くしてくれる。 内気で感受性の強い自分に「武装」してIT企業の技術営業職として働くあや子は、お気に入りのノートと万年筆で日々の出来事や自分の考え・思いを書き出して整理する習慣を仕事や生活に活かしている。 出勤前のおひとり様時間を楽しむカフェでのある女性バリスタとの交流が、あや子の日々と内面とに、少しずつ波紋を起こしていく。 ある日、1杯の特別なコーヒーとそこに込められた様々な思いにより、あや子の人生に決定的な変化が訪れる。

    • 掌編小説『夜明けに咲く花』

      霧に包まれた森の中を歩いていた。木々の間から漏れる月明かりが、銀色の光の筋となって地面を照らしていた。足元には柔らかな苔が広がり、その上を歩くと、まるで雲の上を歩いているかのような感覚に襲われた。 突然、遠くから鐘の音が聞こえてきた。その音は、森全体に響き渡り、木々さえも震わせているようだった。鐘の音に導かれるように歩を進めると、小さな教会が姿を現した。扉は半開きで、中から温かな光が漏れ出ていた。 教会の中に入ると、そこには誰もいなかった。しかし、祭壇の上には一冊の古びた

      • 虹倉きりさんの朗読による、掌編小説「始まりは」

        2024年の3月末に書いた、イエス・キリストの復活を祝うイースターの祝祭をテーマに書いた掌編小説「始まりは」を、虹倉きりさんが朗読してくださいました。 地の文と、各キャラクターごとの語り分けはもちろんのこと、なんと虹倉さんは賛美歌の歌詞の記述を、アカペラで歌ってくださいました! 私の手持ちの掌編小説がこれしか無かったという事情から、虹倉さんにお願いした「始まりは」でしたが、賛美歌のアカペラの歌付きというとても素敵な朗読と相性の良い贈り物になって戻ってきました。虹倉さん本当

        • 読み手とともに作り上げる、小説「嘘つきたちの幸福」

          舞台芸術に造詣が深い、青野晶さんによる、小説「嘘つきたちの幸福」を紹介します。この感想は注意して書いておりますが、それでもネタバレに近づく箇所があります。もし、青野さんの意図した新鮮な驚きを感じたい方は、この記事を読み進めずに、以下のリンクからまずは青野さんの小説をお読みいただき、その後に私の感想記事をお読みください。 あらすじ感想青野晶さんは、プロフィールにジャズダンスやバレエ、そしてミュージカルに興味があることを記載しています。この小説「嘘つきたちの幸福」は、青野さんの

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        小説「ある朝の目覚め」第一章

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          第171回芥川賞(2024年上半期)の候補作の感想

          第171回芥川賞(2024年上半期)の候補作が出揃った。私にとっては、小説家を目指すようになって初めての芥川賞候補作の発表である。全作品を読む機会があったので、感想を残そうと思う。賞の予想は控える。 (以下は、読んだ順番で記載した。ネタバレ有り。著者の敬称は省略する) 松永K三蔵『バリ山行』 私は、以前に少しだけ登山を試みたことがある。伊豆大島の三原山を、山行の先輩と二人で登山道ではなく、裏砂漠というマイナーなルートから登った。整備されていない登山道を地図を見ながら歩き、

          第171回芥川賞(2024年上半期)の候補作の感想

          銭湯を舞台に主人公の再生を描く、小説「弦月湯からこんにちは」

          最近の銭湯事情やスペインへのオマージュ、声楽家ならではのロマンティックなシーン。見どころ満載で、温かい恋心と家族愛に満ちた読了感を味わえる、小暮沙優さんの小説「弦月湯からこんにちは」を紹介します。 あらすじ感想小暮沙優さんは、声楽家の仕事の傍ら、小説も書いている方です。この作品には、小暮さんの人生における様々な経験が小道具や舞台装置として盛り込まれて、素敵な雰囲気を作り出しています。 まず、スペインへのオマージュ。当初の職場はスペイン料理を振る舞うチェーン店。その旗艦店の

          銭湯を舞台に主人公の再生を描く、小説「弦月湯からこんにちは」

          小説「ある朝の目覚め」第七章

          洞窟の中の寝床で女の小人たちは休んでいる。おそらく魔女から様々な労働を要求され疲れ切っているのだろう。どの小人たちも良く眠っているようだ。洞窟の入口から光が差し込んでいる。わたしは入口から外を眺めて空を見る。地平線に近い位置に明るい満月が見えた。その光が洞窟の中に向かっている。ふと気づくと、光は柔らかで温かい光に変化したようだ。光に手を差し伸べるとひときわ強く光が輝き、何かとても心温まる優しい力の元がわたしの胸に染み込んでいった。痛みは感じない。身体全体を何か温かい膜で包みこ

          小説「ある朝の目覚め」第七章

          小説「ある朝の目覚め」第六章

          洞窟の中の寝床で大勢の女の小人たちがまどろんでいる。少し奥をのぞき込むと小部屋があり、魔女が大きな木製の椅子に座り目を閉じていた。わたしは小部屋に近寄る。そこには本棚があり、おどろおどろしい装丁の大きな本が並んでいた。きっと魔法の呪文や触媒の種類などが書かれているのだろう。わたしは魔女を起こさないように本棚に近づく。本棚には置き時計も置いてあった。時計の針は止まっているように見えたが、わたしが近づくとまた動き出したようだ。チクタクチクタク。なぜか針の音が鳴る度にわたしの下腹部

          小説「ある朝の目覚め」第六章

          新川帆立さん×秋谷りんこさんのトークイベントに参加した

          2024年のゴールデン・ウィークの最終日に、note主催の創作大賞2024に関連した、小説家の新川帆立さんと秋谷りんこさんのトークイベントに参加した。 イベントは、11時からオフラインの創作作業をする時間と、16時からのトークイベントの二部構成となっていた。私は、11時から会場入りして、同じ創作を志す方との交流を期待していた。しかし、私が人見知りであることと、会場の雰囲気から、交流するところまでは行かず。事前に示し合わせてお会いした、小暮沙優さんとひたすら会話をしていた。

          新川帆立さん×秋谷りんこさんのトークイベントに参加した

          映画「PERFECT DAYS」から感じるマインドフルネス

          遅ればせながら、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」を、鑑賞してきた。観に行こうと思ったきっかけは、kururiさんの下記の記事を読んだこと。もし、映画の詳細について興味を持った方は、感性豊かなkururiさんの書かれた記事を読むと良いと思う。 鑑賞して1日経ったが、私はまだそれほど、感想を言語化できていない。第一印象として感じたのは、主人公の平山さんは、出家して煩悩を捨てて悟りを得たブッダのようだということ。 裕福な王族だったブッダは

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          ヤーッコ・クーシストによる、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」

          私のアマチュアとしての音楽活動における演奏楽器は、合唱と管弦楽のホルンである。どちらもとても発音(アーティキュレーション)の大切な楽器である。 きれいに発音された音は、はっきりとしつつ雑音の少ない音で始まり、中間部はきれいに伸びて、音の最後は雑音なく自然に消える。 私は、声楽と管楽器のホルンの経験から、口(アンブシュア)を活用した発音については、感覚的にも理論的にもある程度説明できる。しかし、弦楽器や打楽器、そしてそれらを総合して作られた鍵盤楽器の発音の理論については、何

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          ディーナ・ウゴルスカヤの「平均律」

          私は、先日、バッハの作曲した音楽が好きであり、その音楽を紹介する記事を書こうと思うと述べた。 私は、その記事をどういう内容で書こうか、数日考えた。読者をクラシック音楽に馴染みの無い人と想定して、バッハの人となりや各曲の成立の成り立ち、作曲技法などを順番に紹介することも考えた。 しかし、バッハほどの著名な作曲家の音楽についての情報は、Webを検索すればすぐに見つかる。私は、一介の音楽の愛好家でしかない。専門的なことはその道の専門家に譲り、私は私の好みの作品のどこをどのように

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          心震わすバッハの素晴らしい音楽

          私は、音楽を聴くことが好きである。趣味と言っても良いかも知れない。学生の頃は、合唱部や管弦楽部に所属し、演奏会に向けて切磋琢磨していた。楽器の演奏は続けることは難しかったものの、歌うことは楽しみの一環として長く続けた。一人カラオケや気のおけない友人たちとのカラオケは、私のストレス発散や楽しみとして長い間続いた。 しかし私はある時を境に、様々な理由をきっかけに精神的・身体的な病を発症した。その中には、自律神経失調症や感覚過敏症、そして突発性難聴というものがあった。これらは、聴

          心震わすバッハの素晴らしい音楽

          小説「ある朝の目覚め」第五章

          暗闇の中で沢山の女の小人たちが薪の火を囲んでいる。もう大鍋の熱は冷めている。食事は終わったようだ。魔女が戻ってきた。不思議な胴体の形をした弦楽器を手に持っている。魔女はそれを顎に当てて、弓を弦に当てて弾き始める。なんとも形容のし難い音色が発せられる。魔女が低音を響かせるとわたしの下腹部にずんずんと痛みが伝わり、高音を高らかに奏でると、下腹部の奥に刺すような痛みが鋭く伝わる。わたしは魔女の演奏を止めさせようと近寄ったところで、目が覚めた。 火曜の朝。生理四日目。わたしにとって

          小説「ある朝の目覚め」第五章

          掌編小説「始まりは」

          始まりは、ほんの少しの音と音の重なりのずれだった。私は、心の中で少しだけ動揺する。音楽ホールの大多数の聴衆は、この程度のミスに気づくことは無い。しかし、その聴衆の最前列に陣取っている審査員たちは、きっと気づいただろう。減点方式で評価するタイプの審査員にとっては、悪い印象を与えたに違いない。 私はピアノの演奏の最中に他のことを考え出した自分に気づき、更に動揺する。私は、いま演奏に集中していない。そのことを意識しだした途端に、手と足の連携がうまく行かなくなる。ペダルを操作するタ

          掌編小説「始まりは」

          小説「ある朝の目覚め」第四章

          夕暮れの広場で沢山の女の小人と魔女がパーティーをしている。魔女が小人に命じて、大きな鍋に不思議な食べ物を加えるとそこからボコボコと泡が立ち上る。その泡が弾ける度にわたしの下腹部に鈍く長く続く痛みが伝わってきた。魔女が大きくうなずくと、数人の小人が協力して大きな食べ物を鍋に放り込もうとした。わたしは怖くなり「もう止めて!」と声に出したところで目が覚めた。 月曜の朝。生理三日目。昨日か今日で痛みのピークを越えるはずだ。そう思ったところで目覚まし時計のアラームが鳴った。わたしは目

          小説「ある朝の目覚め」第四章