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【ジャックジャンヌ】織巻寿々ルート感想:苦悩の果てに「主人公」へと磨かれる原石
ジャックジャンヌ初見感想第4弾。今回は主人公と同じ1年生、織巻寿々ルートの感想を書いていこうと思う。以下、ネタバレにご注意を。
今回は織巻寿々ルート
この初見感想も早いものでもう4回目になる。今回、そして次回とあわせて、1年生コンビの感想となるだろう。
わたしがここまで1年生を攻略しなかったのには理由がある。それは希佐の幼馴染で、彼女にとんでもない巨大感情を抱いているであろう男、世長創司郎ルートをできるだけ後半まで取っておきたかったからだ。そして世長ルートをやる直前に織巻ルートをやりたかったので、いかにも王道主人公然としたスズくんをここまでプレイできずにいた。申し訳なさ半分、でもやっぱりスズくんには世長ルートとは並々ならぬ因縁を勝手に感じているので、やっぱり取っておいて正解だったとは思う。
ということで今回は織巻ルートについて語っていく。
王道主人公ルートに漂うナイーブな感情
このジャックジャンヌというゲームにおいて、スズくんはかなり序盤から眩い存在感を放っている。受験時から登場するので、希佐が誰よりも先に出会うことになるクォーツ生でもあるし、新人公演でアルジャンヌに抜擢された希佐の相手となるジャックエースを務めたのもスズくんだからだ。
新人公演の『不眠王』の初々しくも甘酸っぱいストーリーをこれまでの攻略で何度もなぞってきたこともあり、スズくんのルートはさぞかし王道主人公感溢れる、さわやか青春ものっぽい空気感なんだろうな! と思っていたら、意外にもこのルートはずっと根底にすっきりしない迷いと苦しみがある。たしかに、スズくんは夏公演以降、あまり自分に向いた役にも恵まれず(役の幅を広げるための仕組まれた試練ではある)低迷期に入るし、秋公演は怪我をしてしまうし、波瀾万丈になるのは他ルートをプレイしていてもある程度予想できた。
わたしが意外だったのは、彼の内面的な部分の話だ。わたしのなかでスズくんは、もともと「持ってる側」のキャラとしての側面が強いキャラだった。だから希佐に対しても、自分に降りかかってきた試練に対しても、もっとポジティブにグイグイ行くのかと思いきや、希佐があおと遊んでいた時に彼女とのデートだと勘違いしてなんとも言えない複雑な表情をしていたり、役作りがうまくいかない時もわりとひとりで悶々と悩んでいたりと内向的な側面が窺える。
それで気がつけば、スポーツマンシップと活力に溢れる、どこかカラッとしたスズくんの印象が、人の感情の機微に敏感でとても根が優しい、だいぶウェットな印象に塗り変わっていた。これによって、なんとなく自分の中での彼のイメージにいい意味で隙と色気が生まれた。
あと彼はたぶんご両親や周りにいる大人たちから良い教育を受けて育っている(『シシア』のキスシーンでの一幕、親戚のおじさんたちの言葉にグッと来たのはわたしだけじゃないはず)。根地先輩も彼を紳士だと評する。今はその気持ちがとてもよくわかる。そんなスズくんの性格に奥行きを感じることができるルートだった。
まさかこのゲームに〇〇があるとは
上でもすこし仄めかしてしまったが、実はこのルートはキスシーンがある。わたしはこれに結構びっくりした。だって、あんなに糖度が高かった高科ルートや、あんなに際どかった睦実ルートですらキスシーンはなかったから!
とはいえ織巻ルートを通して「キス」はひとつのテーマになっている。寿々くんは序盤から、ジャックエースになるための課題のひとつに「キスシーン」を根地先輩から課されている。最初は気恥ずかしさや、あまりにも見た目が女の子すぎる希佐(まあ本当に女なんだけど…)に遠慮して、とてもじゃないけどキスどころではなかったスズくんが、希佐との関係を構築していくうえでそれを乗り越えていく。キスを通して彼自身の役者としての成長や、希佐とのパートナー関係の変化を感じられてとても良かった。まさか最後にはステージの上でガチチューをかましても平然としているふたりを見られるとは。1年の最終公演でこんな調子じゃ、このコンビが3年生になった時いったいどうなってしまうんだ。。
ともあれこのルートでの「キス」は彼らの恋愛関係を色濃く示唆するものというより、役者として、パートナーとしての成長ぶりを描くために用いられている。こういうさわやかさはとてもジャックジャンヌらしい。なんとなく上記の先輩ルートにキスがあったらすこしばかり艶っぽすぎたかもしれない。
「それから」のエモさに感極まり、泣く
このルートで個人的に1番感動したのは、ベストエンド後の「それから」のシーン。場面はユニヴェールの入学試験。そう、希佐とスズくんは先輩として、未来の後輩たちの前で入試の模範演技をしている…!まさにゲーム序盤の、フミさんとカイさんの登場シーンの再演だ。
ただそれだけといえばそうなんだけど、先輩たちと同じように、後輩たちにとっての憧れの存在になり、花形スターとしての道を歩み始めているふたりには、とても感慨深いものがあった。
ジャックジャンヌという作品において、クォーツに限らず3年の先輩たちというのは本当に偉大な存在だ。1年生の希佐たちにとって彼らの存在は常に圧倒的で、そのすごさは才能だったり人としての視野の広さだったり芸歴で培った洞察力だったりそれぞれだけど、ゲームで描かれる1年間を通してつくづくそのすごさを思い知らされる。そしてやっぱりみんな面倒見が良くて懐が深い、いい人たちばかりなのだ。
ただ、この感想を書いている最中に石田スイ先生の読み切り『PARSLEY』『PUPPET』を読んで過酷なユニヴェール生活の解像度が高まったため、3年生が粒揃いなのは生存者バイアスがかかっているからだという側面も強く再認識した。周りから一目置かれる才能もなく、それでいて周囲を気にかける余裕も持てなかった人たちがどんどん脱落していった結果の…。この作品の現実主義なところもわたしはめちゃくちゃ好きだ。
話が脱線してしまったけれど、そんな雲の上のようだった憧れの人たちに、希佐もスズくんもがむしゃらに努力して少しずつ近づいていってるんだって思うと……やはりどうしても涙腺が緩んでしまうのだった。
好きなスチル
毎度恒例、好きなスチルの話もしたい。
意外に糖度控えめだった2つのスチル
個別ルートの見せ場といえば、安直だがクリスマスにある恒例(?)の女バレイベントと、バレンタインじゃないだろうか。
これまで見たルートでは、クリスマスやバレンタインでは希佐と男の子がハグをするくらいには距離が縮まっているケースが多かったので、織巻ルートのスチルがいずれもスズくん単体のイラストだったのに驚いた。それに、ちょっとばかし糖度は控えめだ。あんなに感情表現が素直なスズくんルートなのに? と思わなくもなかったけれど、スズくんの感情の移ろいにフォーカスしたこれらのスチルはのちにやってくるあのシーンをより楽しむための大切な布石なのだと思う。
あれこれ御託を並べたが、どちらのスチルもいい。夕日を背景に、切なげに希佐の秘密に気づいていることを告白するクリスマススチルは、序盤のスチルのような元気でひょうきんさもある「男友達」感は薄れ、さらに長く尾を引いていた希佐に対する思いからくる葛藤を乗り越え、どこかふっきれた顔をしているのが印象的。
一方、希佐からバレンタインのプレゼントをもらった後に「めっちゃ幸せ…」とベッドのうえで喜びを噛み締めているスチルは、とても苦しげで悩ましげな顔をしている。もう、あからさまに、恋をしている人間の顔だ。恋は人間の表情を満ち足りたものにすると言うより、すこし曇らせるものだと思うから。
アンバー組の接吻
次に印象に残っているのは、アンバーの稽古での、瀧姫(紙屋)とがしゃどくろ(田中右)の接吻だ。
最終公演でキスを交わす希佐とスズくんに対比するような形でアンバー組も接吻(和ものだからあえてこの表現)のシーンが描かれていたのが印象的だ。余談だがこのスチル、クリムトの『接吻』を彷彿とする耽美的なうつくしさがある。希佐たちの物語に並行する形で、田中右くんと紙屋くんのパートナー関係も進展していくのもこのルートの見どころ。田中右くんが自分のアルジャンヌを見出すのは他のルートでは見ない展開だったので新鮮だった。
私はこのゲームをすればするほど、田中右くんのことが好きになっている。そのありあまる才能によって周囲から敬遠されがちだけど、彼は舞台にも人にも真摯に向き合っている誠実な人だと思う。言葉が足りなくて誤解されがちだけど、周囲のこともよく見ているし、良いものはしっかり評価している。いまではユニヴェール公演時に田中右くんがオタク語りをはじめると「オッ」と思うようになってしまった。田中右くんに認められた後の紙屋くんがどうなっていくのか、もっと見ていたい。世長ルートでは百無くんをフィーチャーしてくれるのかな。たのしみ。
ところで、このルートは1年生にスポットが当たっているのもすごく好き。後輩にバトンを渡して晴れ晴れとした顔で先輩たちが卒業していくのを見ると、先輩たちの晴れ姿もっと見たかったなという気持ちもあるけど、なんというか来年以降も大丈夫だな! よかった! と心から思えてちょっとほっとする。
『央國のシシア』のラスト
『シシア』を読むのももう4回目になるけれど、どのキャラが主役になるかで物語の印象がガラリと変わるので、毎回面白く読んでいる。元が同じ脚本なのにここまでキャラクターナイズドでき、読者を飽きさせないなんて、めちゃくちゃすごいことだなと毎回しみじみ思っている。
チャンス(スズくん)ルートでは、いつもはシシアの歌唱の後で息絶えてしまっている恋人役が生きており、シシアと言葉を交わしているのが印象的だ。このシーンが事前に決まっていたのか、それともこれも含めてスズくんのアドリブなのかは気になるところだが、最後までシシアを待ち一緒に逝こうとしたチャンスには、なにがなんでもシシアをひとりにはしないという気概を感じる。これはなんとなく、希佐とスズくんのパートナー関係の形でもあるように思える。
これまでも希佐がいろんなキャラクターとパートナーになっていく姿を見てきた。そしてそれぞれに違ったパートナーの形があり、どれも正解だと強く実感できる説得力があるのが本当にすごい。
スズくんと希佐は、互いに心を許しあい、いつも隣で前を向いて歩いていくパートナーとなるだろう。『シシア』ラストシーンのキスは、これからも隣で歩むパートナーとして、互いのすべてを受け入れあった結果なのだろう。ただの恋心だけではきっとキスはできなかったと思う。でなければスズくんは自身の葛藤を乗り越えられなかったはずだし、希佐も自らキスを請うたりしなかったはずだ。
ところで卒業前のお出かけイベントで根地先輩からさんざん自分達のキス評を聞かされた希佐はどんな顔をしていたんだろう笑。聞いているこっちが恥ずかしかった。
おわりに
初見感想の吐き出し場としてはじめたnoteだが、最近はゲームをプレイしていて、初見の驚きや感動というより点と点がつながって見えてきたものに心を打たれることが増えてきた。
次回は気になる世長ルート。あえてここまで触れなかったが、このルートで見かける創ちゃんはちょっと苦しげで、なおかつこわいと思うような瞬間もあった。スズくんが煌々と光るほど、影が濃くなっていくように(決してどちらが光と影ということが言いたいわけではない)。プレイするのが楽しみ半分、ちょっと緊張している。
ここまで読んでくださった方、ありがとう。