これから「人と会うとき」のデフォルトになるかもしれない「社会的距離」について
今日、ある国から来たAirbnbゲスト(留学生)がチェックアウトしました。
彼の対応があまりにもパーフェクトだったので、もしかしたらこれからしばらくの間、これがAirbnbだけなく「人と会うとき」のデフォルトになるかもしれないと思い、起こった出来事を書いてみます。
大切なポイントをまとめると以下の通りです。
1、 人と会う前に手洗い、街に出るときは距離に注意
2、 基本的に相手と1.82m(6フィート)の距離を置く
3、 ゲストの荷物を持ったりするその前後は手洗い
4、 ゲストと部屋に入るときは換気をしたまま
5、 ゲストと別れた後に手洗い
当たり前のことに感じるかもしれませんが、実際に起こったことは以下の通り。
宿泊の問い合わせ
チェックインは2020年2月の中旬。
まさにこれから世界的なパンデミックになる直前の頃です。
ほとんどの人にとって、2020年1月末の時点では、中国での感染症対策は「他人事」であったかもしれません。
しかし、2月に入りどんどんAirbnbゲストのキャンセルが増えていきます。
2月の中旬にはほとんどのホストから、
「3月の予約が全部消えた」
「稼ぎ時のお花見シーズンの予約がごっそりキャンセル」
などの声が聞こえ始め、ただ事ではなくなっていたときです。
彼はとても丁寧に彼の状況を私に伝えて、予約リクエストをしてきました。
私は4月から留学生として日本の大学に入るTakashi(仮名)と申します。
3月末から大学の寮に入る予定ですが、もしかしたら各国の入国措置、またはロックダウン等により日本に入国できなくなってしまうこと危惧しています。ですので、今回まず日本に事前に入国して、Airbnbでみたアパートに滞在して自宅隔離をして、それから入学できればと思っています。よろしくお願いします。
いろんなゲストがいますが、最初のメッセージによる挨拶もパーフェクトでした。文面から彼の置かれている状況、どうしてこのアパートに滞在したいか、などこちらが欲しい情報はすべて網羅していて、ホスト目線ではすでに満点です(そして、このような「デキる」ゲストは往々にしてお会いしてからも期待を裏切らない素晴らしいゲストであり、ひいては長い友人関係に発展することもあるのをAirbnbホストはこっそり感じています)。
状況を見極める
私はとりあえず、彼のいる国の感染状況を調べてみました。
エピカーブ(流行曲線)はまだほぼ平ら、感染拡大が起きていません。
確定診断された者の数は約50人。彼の国は人口が1000万人に満たず、つまり患者は人口の0.0007%ほどで、被疑患者を加えても大きく数字が増える状況ではありません。
以上から、私は彼をゲストとして受け入れる判断をしました。
もちろん、受け入れない判断もあると思います。ただし、受け入れない場合、Airbnbではそれが差別に当たらないかどうかなど、それなりに受け入れない判断の理由が求められます。もしそれが「ウイルスがある国の人だから」という程度であれば、私個人の考えでは限りなく外国人差別に近い「心情」でしかなく、コミュニティーのルールには接触しているのではないかと思います。
チェックインの方法
そんなこんなで巷ではメディアの煽り、外国人ヘイトなどが反乱している状況です。チェックイン当日は、流石に私もそれなりに緊張しました。
ただし「正しく」緊張、「正しく」恐れる、ということが大事です。
スーツケースなど荷物も多いことから、
また公共の交通機関をなるべく使わないように(混雑した電車を何回も乗り換えたりしないよう)、空港から直通のリムジンバスの降車場まで車で迎えに行きました。(その頃はまだ日本も入国者に対して「公共の交通機関を使わない」「14日間の自主的な隔離措置」などを採用していませんでした)
お互いにマスク(なければ咳エチケット、マフラー、バンダナ、ハンカチ、布製アベノマスク、基本的になんでもよいと思います)をしていました。
マスクは一般の人が使う意義は、基本的に自分が感染していた場合、相手に移さないためのもの、と考えられます。今回の新型コロナウイルスは飛沫感染、エアロゾル感染であり、「3密」、密集して、密着して、密閉されている空間での感染が一番危ない。マスク(口から出る飛沫を飛ばさないようにするすべての行為)はある程度有効と考えました。ただし「マスク警察」や「マスク教」の信者になる必要はありません。
私は彼に会う前にアルコール消毒で手を洗っていました。
バスから降りてきた彼と簡単に挨拶。彼との距離が近すぎないようなかたちで挨拶をします。2mくらいがベスト(国際的な基準では少なくとも1.82mの距離を置くこと)。
とりあえず、スーツケースを運ぶのを手伝おうと思いましたが、思いの外小さかったので、彼自身が運びました。
乗車の方法
車にスーツケースを載せて、彼には斜め後ろの後部座席に座ってもらいました(助手席だと近すぎる、真後ろだとくしゃみした場合それが直撃する、等のリスク回避)。※飛行機では「左右それぞれ2座席以内、前後1列以内に座った乗客は、呼吸器系の感染症にかかるリスクが約80%に上った。しかし、それ以外の人の場合は3%未満」というエビデンスがあります。
ふたりとも車に乗ったところで、もう一度アルコール消毒をします(車にスーツケースを載せるときにスーツケースを触ったため)。そして、彼にもアルコールでの手洗いをしてもらいます(まず彼の手をきれいな状態にしてもらう。指の間や爪の洗い方も伝えました)。もちろんアルコール液を彼の手に垂らす前に、
「アルコールにアレルギーはありませんか?」
と聞くことを忘れずに。彼も苦笑しながらでしたがアレルギーはなく、またベストな心遣いと理解してくれました。アルコール消毒液も品薄な状況です。それならウェットティッシュでも良いかもしれません。リスクは完全なゼロにはなりません。それでもリスクを意識しながら、できるだけリスクを減らすことを自分で考える。これがすごく大切です。
車はもちろん窓を少し開けたまま換気、またエアコンも「換気モード」にして強めで回しています。これで車のなかでも「3密」のうちの密集、密着、密閉を「ある程度」回避できかたどうか。オープンカーだとなおさら良いのかもしれません。とにかく、ゲストに会うときは、ハイリスクと言われる行動や状況は極力避けるのが感染対策だと思います。ただし、よほど大きな車でない限り、最短距離が1.83m以内になってしまうため、車に同乗することのリスクはなかなか難しいですね。
部屋への案内
アパートに着くと、車を降りて部屋に行くまでに私はもう一度アルコールで手を消毒しました。私自身が感染者であると仮定した場合、ハンドルにもウイルスがついているかもしれないからです。それでゲストに感染させては大変です。
アパートに入ると、ふだんは30分くらいゲストと交流するのですが、今回は手短に数分で済ませました。もちろん、部屋の換気扇は回したまま、窓も開けておいて、ゲストに部屋の紹介をしました。相手の彼も「意識高い系」(だからこそ3月4月の「空港封鎖」を恐れて早めに日本に留学に来た)なので、すべて分かってくれています。そのことが、お互いに信頼感を高めた気がします。
彼とお別れをしてから、ポケットに入れておいたアルコール消毒液でもう一度手を洗ってから車に戻りました。自分の家についてからももう一度玄関に追いてある手ピカジェルで手を洗ってから自宅に入りました。上着を脱いで、居間に入ってからも、もう一度水で手を洗うように心がけています。※本来病院や接骨院などでも、一人の患者さんを診察するたびに手を洗います。何かを触るごとに前後で手を洗うことは感染防止に非常に大切だからです。
一次情報を確認し、前向きに伝える
チェックインはそんな感じでした。
それ以降はLINEやメッセンジャーなどで、厚労省などの一次情報などを伝えたり、日本語の勉強になるユーチューバーのサイトや、近所の桜の名所など楽しく過ごせるようなことを紹介したりしました。
しばらくの間は、上記のように、最近欧米で行われている約1.83m(6フィート)距離を保って会話をする。これが世界標準的な社交辞令になるのかもしれません。
〜中略〜
チェックアウトの方法
3月の末日、チェックアウトの日になりました。
せっかくなので近くの大学の寮まで車で送ることにしました。
会う前にもちろん手洗いをしています。※自分が相手に感染させることはあってはならないので。
「お部屋をきれいにしておいて下さい」とお願いしましたが、結果から言うと、トップ3に入るくらいきれいに片付けてくれていました。特に嬉しかったのは台所をかなりきれいにしてくれたことです。
新型のコロナウイルス(SARSなど)は72〜96時間くらい空気中で生き残ることが知られています(『感染予防,そしてコントロールのマニュアル第2版』岩田健太郎、P.370, 2020)。今回の新型コロナウイルス(Sars-Cov-2)の場合、3時間くらいは空気中に漂っていると報道されています。Airbnbには空き家を医療従事者に安価で提供するプロジェクトもありますが、その場合でも必ず部屋を消毒し、前後のゲストとは72時間以上時間を開けることを原則としています。
ですから、もし台所が汚れっぱなし、または掃除をしてもらえないままゲストにチェックアウトされてしまうと、掃除する側の負担は心理的にも肉体的にも大きなものとなります。素晴らしいスーパーゲストであることを直接彼にも伝えました。
チェックアウトのとき、彼の荷物と彼を乗せて、私はまず手を消毒液で洗います。
エンジンをかけ、窓を開け、エアコンを換気モードにして出発しました。
あとになって知ったのですが、彼は毎日体温を測って記録していました。
おそらく大学の要求かもしれませんが、そうした行為も信頼関係をつくるのに役立ちました。
信頼関係の上に宿泊や滞在がある、それこそがAirbnbなのだと改めて感じました。
人に会うときに気をつけること
今回はさまざまな勉強になったホスティングでした。
チェックアウト後の清掃については改めて書きたいと思います。
※ 実はこのゲストを最後に、もっと「社会的距離」を置くことに決めました。タクシーなどでチェックインしてもらう「完全不在型」への運営方針の変更です。改めて別エントリで書きます。
そんなこんなですが、先のまだ見えてこない状況で、
どのように社会的な行動、経済活動、生きるための活動を続けていくべきか。
私はとても希望をもちました。
科学はいわゆる蓋然性(ある程度の確率で正しいのだという感じ)しかなく、私たちはそれに基づいて合理的に判断をしていくしかありません。
その判断基準は少なくとも、
・8割の人は感染を広げない(厚生省見解)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56252770R00C20A3CE0000/
・「3密」(密集、密着、密閉)を避ける(そのための換気など)
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf
・社会的距離をとる(約1.83m離れる)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yukiigarashi/20200329-00170245/
・こまめの手洗い(人やモノに触った前後で)
https://note.com/cozue/n/n4c1861212630
こうしたことを実践することで、感染する確率をかなり下げることができます。
これらを心がけて生活や仕事をしていく。仮に人との最短距離を約2mにしていれば、濃厚接触にカウントされることはありません。これはしばらくの間、社会のスタンダードになるのかもしれません。
確実なエビデンスが見つからなかったのですが、昨年亡くなったペシャワール会の中村哲さんは、今後は「こんな世の中は長続きせず」、なぜなら気候変動による生活の根本的な変更が2040年までに確実に起こるから。と、どこかで言っていた気がします。もちろん彼は希望を語ることも忘れていません。そこから「何か積極的な明るいものが出てくるような気がしています。」
※ エビデンスに関しての参考リンク
●マスクについては今年になるまで、健常者がすることによるウイルスに対する確かなエビデンスはありません。ただし、4月2日の時点でWHOは最新の見地を再検討を始めています。
https://www.bbc.com/japanese/52130818
●人によっては26m離れなければならないなどとも言いますが、くしゃみについての研究は古くからあり、それで6フィート(約1.83m)という数字が出ています。あとは確率論の問題になるので、今後流行が収束に向かう中で現実的な「社会的な距離(Social distance)」は2mくらいで良いのではないかと個人的には思います。
https://www.youtube.com/watch?v=9Mkb4TMT_Cc
●オーストラリア連邦保健省の推奨する距離は1.5m
https://www.au.emb-japan.go.jp/files/100024368.pdf
●社会的距離で感染拡大を遅らせることのできるエビデンス
●Airbnbの創立者ブライアンは、ホスト同居型の民泊の場合、これからどのように運営が可能であるか、専門家などと検討中であることを表明しました。ぜひ、なんらかの形で経営が再開できるといいですね。
https://www.airbnb.jp/d/host-message
●Airbnbは医療従事者、救援活動従事者、救急隊員の方々に無償または宿泊料金を一部補助する形で宿泊施設を提供し、10万人以上の医療従事者の滞在先確保を支援しています。ご登録をご希望の方は、airbnb.com/covid19reliefより、詳細をご確認ください。