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性と生殖の自己決定と教育①-「なぜ学校で性教育ができなくなったのか 七生養護学校事件と今」

家族の在り方やその多様性と変動について考える「比較家族論」において、性と生殖の自己決定に関連して性教育について学んだ。その際に紹介された書籍が、「なぜ学校で性教育ができなくなったのか 七生養護学校事件と今」包括的性教育推進法の制定をめざすネットワーク 編 / 浅井春夫、日暮かをる 監修 である。 
本記事では、取材テーマとして「包括的性教育」を扱うきっかけとなったこの書籍を紹介する。

「なぜ学校で性教育ができなくなったのか 七生養護学校事件と今」
包括的性教育推進法の制定をめざすネットワーク 編 / 浅井春夫、日暮かをる 監修


日本の学校において性教育がほとんど行われなくなったきっかけとされるのが「七生養護学校事件」である。

七生養護学校は知的障がいの子どものための学校であり、性的衝動や性被害、心の問題に対応するために、「こころとからだの学習」という性教育を実施していた。「こころとからだの学習」とは生と性について教えることで、性や身体について理解し、心の安定や自己肯定感、信頼関係の構築を目指すものである。例えば、性器模型を用いることで体の変化への不安を解消する、家族人形を用いて家族への接し方を学ぶ、ハッピータイムという時間
を設けて教員と好きなことを楽しむことで安心できる場を設けることだ。

このような教育は「包括的性教育」と呼ばれ、
①性的発達の全ての局面に対応出来る力
②日常生活で生じる様々な場面と人間関係に賢明な選択と対応ができる力
③様々な共生を実現できる力
を身に付けるための、広い意味での性教育である。

しかし、2003年7月4日、七生養護学校事件が起こった。
東京都議や産経新聞の記者、都教育委員会が七生養護学校を「視察」に訪れた。学校側の性教育の説明に対して、性教育を否定し、「お前たちは命令を受ける立場だ」など乱暴な言葉を投げ掛けた。一方的に不適切だと判断された性教育の教材やファイルが没収された。
産経新聞では、「過激性教育」「まるでアダルトショップのよう」といった言葉を用い、意図的に性教育や教材の一部を切り取った報道がされた。
その後も、都教育委員会の毎日の来校や学校経営アドバイザーの設置による監視、教職員の強制的な異動により、七生養護学校で性教育を実施させない体制が構築された。

「視察」は、個人的な信条に基づき、学校教育に介入する不当な支配であると裁判で判断されている。特定の宗教やイデオロギー、政治的立場に基づく家父長制を土台とする家族観、つまり性教育に反対する考えに基づいて、学校に対して不当に権力を行使し、教育を妨げた。



私はこの本を読んで、
①包括的性教育が「自己決定」や「人間関係」「共生」に影響を与えること②社会構造や特定のイデオロギーが「性教育」や「性や生殖に関する自己決定」に特定の価値観を押し付けようとしていること
が印象に残った。
そのため、この2つの軸に基づいて、性教育の取材を進めようと考える。

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