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お金の苦労 学生の拠り所は①ー給付奨学金受給生の困難を知る

「奨学金が減額された」。

立命館大学3回生の学生Aさんは、入学当初から独立行政法人日本学生支援機構(以下JASSO)の給付奨学金を受給していたが、2024年10月に減額が決定したと通知が届いた。それまで月5万円の給付があった奨学金は、減額後、その半額の2万2300円となる。
学校生活やサークル活動に熱中したい思いとは裏腹に、自分の力ではどうしようもできないお金の問題に悩まされ、日々の生活を成り立たせることでさえ必死な学生がいる。今回、お金の問題に悩まされる学生に着目した。

昨年10月、Aさんの家に、JASSOから、給付奨学金受給者としての区分が「第Ⅱ区分」から「第Ⅲ区分」に引き下げられる通知が届いた。Aさんは一人暮らしをしているが、実家からの仕送りはなく、週4回以上のアルバイトによって生計を立てる。

表① Aさんの収入比較

全国大学生活協同組合連合会が2023年に実施した「学生生活実態調査」によると、大学生一人当たりの生活費は約12万円である。単純に捉えると、Aさんの収入は大学生の平均には達していない。

「ガス代が払えなくて、たまに止まる」。月によっては、余裕がなく必要な支払いができない時もあると話す。

表② 大学生一人当たりの収入 (学生生活実態調査より作成)


図① 下宿生の1カ月の生活費の割合(学生生活実態調査より作成) 

また、表②と図①は下宿生の平均収入の内訳である。着目したいのは「仕送り」で、7万円以上あり、収入の半分以上を占めていることがわかる。Aさんにはこの仕送り分が平均より少ない。

Aさんは、大学生活では授業の他にもサークル活動の代表もしており、毎日すべての活動を精一杯こなしてきた。サークル活動は代替わりとなり、引退したものの、その分アルバイトの時間を増やした。それに加えて、3回生になると就職活動が始まる。「今まで時間を割けてきた部分が就活によって、ますます両立が難しくなる」と話す。

このような状況に対して、成績基準も悩みの1つとなる。「学力基準を満たし続けないと、奨学金はもらえない」。学校生活と自分の生活の両立にも困難を抱える。

独立行政法人 日本学生支援機構
(Japan Student Service Organization 略称:JASSO
)
2004年4月1日に設立された組織。それまでに別組織(日本育英会や財団法人日本国債教育協会など)が実施していた、国内学生に対する奨学金事業や学生支援事業、留学生関連事業などを整理・統合した。
独立行政法人日本学生支援機構法では、その目的を、「我が国の大学等において学ぶ学生等に対する適切な修学の環境を整備し、もって次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資するとともに、国際相互理解の増進に寄与すること」としている。具体的には、①奨学金事業②留学生支援事業③学生生活支援事業の3つの事業を中心に行っている。各大学には奨学金について専門の窓口が設置されており、学生はその窓口を通して手続きを行う。(立命館大学では、「学生オフィス」がその窓口を担う。)

独立行政法人 日本学生支援機構 

今回着目するのは奨学金事業である。奨学金事業には、貸与奨学金と給付奨学金の2つがある。貸与奨学金は「お金を借りている」ことになり返済の義務が生じるが、給付奨学金は返済不要だ。

Aさんは後者の給付奨学金を受給している。住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯の学生が対象となる枠組みだ。この支援を受けるには、決められた学力基準と家計基準を満たしている必要がある。

家計基準の中には①収入基準②資産基準の2つがあり、どちらも該当することが求められる。①収入基準では、世帯年収によって第Ⅰ区分〜第Ⅳ区分に分けられ、それにより給付額が決まる。


表③ 家計基準(JASSO資料より作成)

毎年秋になると、JASSOでは奨学生の審査が行われる。適格認定といい、年に2回実施され、マイナンバーカードの情報によって、その学生が奨学金を受給するにふさわしいかどうかの判断を行う。秋の審査の基準になっているのは世帯収入である。つまり、Aさんの給付奨学金が減額されたのは、Aさんの保護者の収入が入学当初と比べて増え、第Ⅱ区分の基準を上回ってしまったことが原因であると推察ができる。

立命館大学において、奨学金を担当しているのは「学生オフィス」。専門の職員が駐在する。Aさんは、自身の給付奨学金減額について相談するために学生オフィスに行った。しかし、JASSOの判断については直接学生オフィスが問い合わせをすることができないという。当時Aさんの相談に対応した職員は、Aさんにプリントを渡しただけだった。

Aさんはその後、自身の家庭状況の情報を集め、収入基準の確認をするための「支給額算定基準額・貸与額算定基準額判定ツール」の使用を試みた。本ツールはJASSOと同様の手順で計算ができるという。これを実行したが、区分が下がることになった原因を確認することができなかった。この一連の流れを踏まえ、JASSOに問い合わせをしたものの、返ってきたのは結果は変わらないという旨の内容のみだった。審査がどのように行われたのかは詳しく開示されていない。

Aさんは区分が下がったことに納得がいかないまま過ごしている。支給額算定基準額・貸与額算定基準額判定ツールの結果はあくまで目安ではあるが、それを実行するための資料収集は「複雑でとても面倒だったし、分かりづらかった。そもそもその計算が合っているかも分からない」と話す。

お金を扱う組織であることから、審査は厳正に行われなければならない。必要な学生に、平等に割り振られるべきだ。区分の変更はある意味、その組織がきちんと動いていることの証明だとも捉えられる。しかしながら、Aさんのように自身の生活状況と制度的な判断にギャップが伺える場合がある。そして、Aさんに関してはその制度的な判断に対して納得をしていない。受給者各自が納得するには、少なくとも判定ツールは誰にとってもわかりやすくする必要があるだろう。また、JASSOがどのような判断基準でAさんの区分を変更するに至ったのか、納得のできる説明も求められるのではないか

学生の個々人の生活状況に目を向け、それぞれに寄り添うことは難しいことだ。しかし、それを補えるようにする姿勢がみえるだけでも、状況はよりよくなるのではないか。

(西澤あかり、吉江あかね)

参考
第59回学生生活実態調査 概要報告
JASSO概要 2024 令和6年

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