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【空想会議レポート 後編】 マガザン代表・岩崎達也「やりたいことをやるためのシンプルな方法」


「毎日に気づきの種を」

そんな言葉を掲げて、DAYが月に1度開催している『空想会議』。
外部ディレクター・宮下拓己さん(LURRA°共同代表・ひがしやま企画代表)と共にスタートした、新たな未来のためのこのトークイベントでは、毎回さまざまな領域で活躍している方に「過去・現在・未来」について話していただきます。

今回の登壇者は、コミュニティの力で文化的プロジェクトを生み出す株式会社マガザンの岩崎達也さん。「泊まれる雑誌」がコンセプトの宿 “マガザンキョウト” や、ミックスジュース専門店 “CORNER MIX” といったコミュニティプレイスを運営しながら、プロジェクトエディット事業、コラボレーション事業という3つの軸で活動されています。

前編では、岩崎さんの「過去・現在・未来」について。
そしてこの後編では、DAYの皆さんとの質疑応答をレポートします。


岩崎達也(いわさき・たつや)
1985年生、兵庫県三木市出身、山田錦農家の長男。京都市在住。京都精華大学非常勤講師。
2016年株式会社マガザンを創業。複合施設マガザンキョウトにて、雑誌の特集のようにシーズン毎に空間で様々な企画を展開。2022年食の循環プラットフォームCORNER MIX を開業。2024年11月には三木市にある実家にて、農、酒、風土を次世代へとつないでいく農業プロジェクトの拠点「Social Rice Farm 心拍(しんぱく)」をスタート。ローカルカルチャーの体験価値を拡張する挑戦を続けている。
京都起業家大賞優秀賞等を受賞。同賞審査員。京都発脱炭素ライフスタイル2050メンバー。




人が成長する『Will・Can・Must』メソッド

岩崎さんの「過去・現在・未来」のお話を聞いたあとは、DAYの皆さんから岩崎さんへの質問タイム。まずは司会の宮下さんと代表の渡部さんからの質問です。

宮下「マガザンさんでは、皆さん割とバラバラな職種に就かれていますよね。岩崎さんはどのようにチームをマネジメントされているんですか?」


「僕のマネジメント方法は、新卒で入ったリクルートのメソッドを踏襲しているんです。リクルートでは『Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(求められること)』という3つの要素を使ったフレームワークを活用しているのですが、マガザンでもそれを使っています。スタッフとは定期的に1on1をして、互いの『Will・Can・Must』を理解した上でともに成長しましょうと話しているんです。

例えばデザイナーのスタッフの『Will』が『世界中どこにいても仕事ができるようになりたい』であれば、言語の修得が必要ですよね。また『Can』が『グラフィックとウェブを統合したデザインができる』であれば、多様なツールの理解を深めていくとより質が上がります。『Must』が『実績を多くの人に知ってもらうこと』であれば、ウェブサイト等でちゃんと紹介することが必要です。そういう風に一緒に考えながら仕事に落とし込んでいくと、日々の中で『あれ、自分は本当は何がしたいんだっけ?』が置き去りにならないですみます。

そんなことを、ひたすら個人面談をしながら頑張っていますね。多分、人が育っていくのを見るのが好きなんだと思います」

渡部「DAYもまさにそういうフェーズなので、ぜひ今度教えてください。僕からも質問なんですけど、岩崎さんは定期的に事業領域や興味関心が移り変わっていっていますよね。一度成功したことって、もっと続けて伸ばしたくなるものではないかなと思うんですけど、そういう欲はないんでしょうか?」

「それができたら楽だったと思うんですけど……(笑)、僕の場合、一度うまくいくと『じゃあ、こっちもできるやん!』って、斜め上の違うものをしたくなっちゃうんですよね。マガザンを作ったあとにも『こっちでもホテル作ってください』と複数依頼をいただいたんですが、『これ、別に僕じゃなくてもいいよな』って思ってしまって。『好きなことをする』って最初に決めちゃったんで、ビジネススケールができなかったんですよ。できたらその部分は誰かに任せたいですね」


意志が弱くても行動できるコツ

渡部「岩崎さんの場合、『自分じゃないとできない』ことが新規事業に結びついているのかもしれないですね。新しく作られる『心拍』でも、酒造りのために修行に行かれたりしていますが、実際に経験することにかなり時間をかけられているなと感じます。そういう思いきった行動の第一歩って、どう踏み出されているんですか?」


「行動を起こすコツは、シンプルに『予定を入れる』ことですね。会いたい人がいたら『この日に行きます』って言ったり、行きたい場所があったら予約したり。予定を入れたら人間、それを遂行しようとしてしまうものなんですよね。例えば、もしパリに行きたかったら、フライトの予約を入れちゃう。一回予約すると今度はキャンセルが面倒になって、意外と行けちゃうものなので。

あと、決めたことを人に言ったり、そうせざるを得ない環境に自分を置くのもいいですね。例えば僕は英語を身につけないといけないってなった時に、英語が公用語の企業に転職しましたが、それは意志が弱いからなんですよ。意志が弱くても、環境を作ってしまえばできるようになるものだから」


渡部「意志が強くなくても行動できる方法がある、っていいですね」


「僕の場合、今はそれが習慣化されて普通のことになっています。やっぱり、見聞きするのと経験するのとでは得られる情報の量と質が何百倍も違うので。皆さんも行きたいところやしたいことがあったら、ぜひすぐにでも実行してほしいなと思いますね」



宮下「岩崎さんって本当に好奇心が強いですよね。それはどこから来るのでしょうか?」


「なんなんでしょうね。本能的なものなのかな。見たことがないもの、経験したことがないものを見ると、脳内で『おもしろい』に変換されるんです。それが『不安だ』『怖い』に変換される人もいると思うんだけど、自分の場合は好奇心スイッチが入るんですよね。

それはやっぱり、野球を失って一度フラットになった時期があったからかもしれません。高校で空っぽになって、大学でいろんなことを詰め込んで、結果おもしろいものにいっぱい出会えた。あの成功体験があるからでしょうね」


宮下「空想会議をしていて思うのは、皆さんわりと、最初にぶち当たった壁のお話をされるなってことなんです。強い原体験なんでしょうね」


「そうなんだと思います。『壷の中には大きい石から入れなさい』って例え話がありますけど、一度大きな経験をしたら、それ以上の記憶が入らないようにできているのかもしれないですね。その後もいっぱい失敗しましたけど、『野球を失った頃よりはマシやな』っていう感じなんです。だから、人生で辛い経験をしても、その前向きな活かし方ってあるんだと思います」


今の自分が地元に立ったら何ができるだろう

ここからは、DAYのスタッフからの質問へ。まずは、故郷に対する向き合い方についての質問が複数集まりました。

―「田舎に帰りたい」と思った明確なきっかけは何だったのでしょうか?

 
「僕は今まで生きてきた中で成功しているって感覚はそんなにないんですけど、自分のやってきたことに対しての納得感や満足感はかなり強くあるんです。さっきの『Will・Can・Must』で言うと『Will』は満たされた。そんな中で実家の相続という大きな『Must』が出てきたわけなんですが、これと今向き合ったら、またやりたいことやできることと繋げられるかもしれないなと、新しいテーマをもらった感じでした。

今は若い頃の自分ではできなかったことができるようになって、一緒にやってくれる仲間もいる。そんな自分がもう1度地元に立ったら、何ができるだろうと。同じ景色なんだけど違うように見えたのが、実家を継ごうと決めた時でしたね」


ー三木の1番の魅力は何ですか?


「鋭い質問ですね……これはめっちゃ難しいです(笑)。三木って絶景が豊富なわけでもないし、明快な特長が少ないんですよ。でもこういうのどかな田舎の風景って、日本のいろんなところにあると思うんですよね。ここでうまくいったら、他地域に展開しやすいとも言える。

じゃあそれをどう捉えようかと考えた時に、やっぱり一番に頭に浮かんだのは『山田錦』でした。最高級の日本酒米を育てている場所を特A地区と呼ぶのですが、三木はまさにそこにあるのに、業界外には知られていない。これをリブランディングするしかないなと。となると、山田錦から産まれる酒文化、日本の風土といったものを、ここで提示していけるのではないかと考えました。なので、今まさに身を置きながら三木の魅力を紐解いていっている最中ですね」


周りの人とは未来の話ばかりしている

ー岩崎さんの周りにはいろいろな大人がいると思うのですが、どんな人が多いですか?


「うーん。これはあまり考えたことないかも。土門さんとは長い付き合いなので聞いてみましょうか。僕の周りってどんな人が多いです?」


土門「岩崎くんとはもう10年くらいの付き合いで、ずっとお仕事させてもらっているんですが、実は私に最初にライティングの仕事をくれたのは岩崎くんなんですよ。当時の私はまだ文章を仕事にしていなかったのに、『文章がいいね』って見出してくれたんです。
つまり岩崎くんって、先入観なく周りの人のいいところを見つけるのがめっちゃうまい人なんですよね。有名だろうが無名だろうが、実績があろうがなかろうが関係なく、『この人おもしろいな』と思うとスッと友達になる。だからそんな岩崎くんの周りには、いつもおもしろい人がたくさんいるなって思います」


「ありがとうございます。確かに、おもしろい人ばかりなのは間違いないですね。あと、『べき論』で生きてる人があんまりいないかも。自分がそうだからだと思うんですけど『こうすべき』とか『これが当たり前でしょ』で留まるのではなく、『どうすればもっと楽しくなるか』『もっと良くなるか』と考える人が多いですね。だから、周りの人とは未来の話ばかりしてる気がします」

ー岩崎さんは田舎出身とおっしゃっていましたが、20代からすでにマンションのリノベーションや雑貨の買い付けなどをして、センスフルに活動されているなと感じます。そういうセンスはどんなふうに身につけてきましたか?


「これも今の話に繋がりますけど、センスのある友達に恵まれたからだと思います。高校までは、絶望的なセンスだったんですよ。小5のときに母親が買ってきてくれた服を見たら、けろけろけろっぴがど真ん中に描いてある、みたいな環境だったんで(笑)。

でも、大学に入るとおしゃれな人がいっぱいいたので、いろいろ教えてもらいました。単純に自分もおしゃれになりたかったので、素直に吸収しましたね。周りの人のおかげでセンスがいくらか身についたのかなと思います」


失敗を失敗と捉えていない

ー先ほど人材育成やマネジメントについて話されていましたが、人と関わるときに気を付けていること、心がけていることはありますか?


「特に気をつけていることは、まず聞くことですかね。みんな多分、言いたいことがあると思うんですよ。それをとりあえず全部聞くっていうのは気をつけているかもしれません。聞いてもらうだけで、半分くらいスッキリするものだと思うんです。ちゃんと聞いてもらえた、っていう満足感や安心感が実は大事で。残りの半分で、合理的な解決方法を考えるようにしています」


ーいろんな企画をされていますが、スベったことはありましたか?


「あったと思います。でも、僕あんまり失敗を覚えてないんですよね。これがあかんかったら次こうしようって、すぐなっちゃう。失敗して凹むっていうよりも、なんで失敗したのか、どうしたらよかったのかを考えて、次に繋げようと頭を切り替えがちです。だから、失敗を失敗って捉えていないのかもしれませんね」


ー一番アドレナリンが出るタイミングはいつですか?


「『できる!』って思った瞬間ですかね。やりたいことに対して、どうしたらできるんだろうと考えて、こうやったらできるってわかった瞬間。その後は、誰かにやってほしいな、くらいになるんですけど(笑)。自分が手を動かしたい欲求があんまりないタイプなんで、『これを誰がやりたいと思ってくれるだろう』『その人に何を返せるだろう』という脳になりがちです。でも、だからこそ一緒にやってくれる人がいるんでしょうね」

その他にもさまざまな質問が飛び交い、DAYスタッフも目をキラキラさせながら岩崎さんのお話に聞き入っていました。

やりたいことはやってみる。行きたい場所には行ってみる。会いたい人には会ってみる。
そんな岩崎さんのシンプルな行動原理こそが、好奇心やアイデアを生み出し続けているのでしょう。私もお話を聞きながら、さっそく行きたい場所に予約を入れてみようと思いました。

次回の空想会議のゲストは、地域を編集するコミュニティホテル “SETRE” を運営する、ホロニック代表の長田一郎さんです。どうぞお楽しみに!


取材・文 土門蘭
写真 辻本しんこ


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