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【未来対談 vol.2】「学び」ってなんだろう?渡部明彦(DAY)×宮下拓己(LURRA°/ひがしやま企画)

DAY代表の渡部明彦と、DAYの外部ディレクター・宮下拓己さん(LURRA°共同代表・ひがしやま企画代表)が、さまざまな切り口から未来について話し合う連載『未来対談』。

もともと、顔を合わすたびに未来について話すことが多かった二人。
先行きが見えない正解のない時代でも、わからないことに対して現在進行形で向き合い続けることが大切だと考え、さまざまな切り口から未来について話し合える場所を作りました。

第2回のテーマは「学ぶ」。二人にとって「学ぶ」とは何か、普段どんな風に学んでいるか、これからどう学んでいけばいいのかを語り合います。ぜひ、あなたの考えも聞かせてください。


プロフィール
渡部明彦(わたなべ・あきひこ) 写真右
1988年4月28日生まれ。大学卒業後に建築士として個人で活動した後、ハードだけではなく運営などのソフトも含めた場所づくりを行いたいという思いから、2019年にDAYinc.を設立。現在までに自社事業として、飲食店4店舗と宿1軒の企画・開発から運営までを行っている。お酒が大好き。

宮下拓己(みやした・たくみ) 写真左
1991年12月3日生まれ、東京都出身。食が唯一”五感が使えるアート”だと感じ、高校卒業後【辻調理師専門学校】、上級のフランス校へ。首席で卒業し【ミシェル・ブラス】で研修。帰国後、大阪の三ツ星レストランに。そこでサービスを経験し食の背景を伝える大切さを知る。東京のレストランでソムリエの資格を取り、オーストラリアへ。ソムリエの知識を深め、NZの【Clooney】のヘッドソムリエに。2019年【LURRA°】をオープン。株式会社ひがしやま企画代表。DAYの外部ディレクターも務める。




二人それぞれの本の読み方

渡部:今回のテーマは「学ぶ」ですけど、宮下さんは最近学んでますか?

宮下:僕の場合、仕事と学びが近いところにあるので、ずっと学んでいる感じですね。

渡部:僕もそうなんですよね。日々の仕事の中で課題にぶち当たってばかりなので、それを解決するために本を読んだり人に聞いたりし続けています。それが自分にとっての学びなような気がしますね。ちなみに宮下さんは、最近の学びのテーマって何ですか?

宮下:今は人の生活についての本を読むことが多いかな。ちょうど街の中に複合施設を作っている最中なので、どんな生活があるといいかなとよく考えているんですよ。

僕は本屋さんに行ってランダムに本を選ぶのが好きなんですが、そういう時に気になっているテーマが反映されますね。今は『スロー・イズ・ビューティフル 遅さとしての文化』という本を買って読んでいますがおもしろいです。それ以外にもいろいろ並行して読んでいて、今一緒にカバンに入っているのは『マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり』とか……。

渡部:同時にいろいろ読む派なんですね。

宮下:はい、違うジャンルの本を3,4冊同時に読んでいく癖があるんですよ。一見関係のないテーマの本でも、読み進めるうちなんらかの接点が見つかる時ってないですか? それが学びに繋がる瞬間ってあるなと思っていて。

渡部:そういうのありますよね。

宮下:料理人って、基本的に料理以外の本を読まないことが多いんです。それもありだとは思うけど、それだけだと自分が進む方向性の中の、誰かの道のトレースのような気がして。でも違うジャンルの本を読むと、それをどう自分ごとに持っていくかを考えないといけないから、道が広がる気がするんです。

渡部:わかる気がします。

宮下:あと本ってお守り感があって、何か仕事でアイデアを考えないといけない時なんかに、いつもパッと開いて見ています。インターネットだと広大な海すぎて逆に何も見つからないけど、本だときっかけが探しやすいんですよ。

だから僕、本は開いているけど読んでいない時があって。例えば今適当にページを開いたら「生きられる時間と物理的な時間が違う」って言葉が書いてありますけど、これってどういうことなのかな?って考えるのが好きなんです。読み進めるとわかることを、あえて一旦自分で考えてみる。それから答え合わせのように読んでいます。

渡部:遊びのある読書ですね。わざと自分の仮説が入る余白を作るというか。そういう読書体験は記憶に残りそうですね。

宮下:だからごちゃごちゃですよ、頭の中(笑)。でも、渡部さんは頭の中での整理整頓が得意そうですよね。

渡部:僕はかなり整理したがる方ですね。本棚もここは「チーム作り系」とか、ここは「チーム作りに属するけど、人間の本質にも属しているもの」とか、細かく分類しています。積読するときもジャンルごとに積読して、「今の俺はここが課題やから、ここから読んでいこう」って簡単なものから読み進めていく。掘りやすいところから順番に、その領域を掘り下げる感じです。それで、本質的だなと感じるところをノートにまとめて取っておいて、会社のメンバーに伝えるときに使ったりとか。

宮下:すごい。自分の中で体系立てていくんですね。僕とはだいぶ違うな。僕は何でもかんでも一緒に入れちゃうので、部屋も思考も全部ぐちゃぐちゃですね。ただ、ファイルやルールごとに知識が分かれていない分、ジャンルの異なるテーマで話す時も、接続点を探し出すことができるのは強みかもしれないです。知識が緩やかにつながっている感じというか。


読書習慣には筋トレが必要

渡部:でも、本を読む習慣って放っておくとすぐなくなりますよね。

宮下:そう。読書って習慣化しにくいですよね。TikTokとかYouTubeとかゲームなんかは、中毒的になって「まだやめたくない!」ってなるじゃないですか。でも本だとそれがなくて、むしろちょっとしんどい思いをしながら読む方が多い気がしてて。

渡部本は刺激が少ない分、能動的にならないといけないですよね。音声や映像があると、脳がその処理に追われて余白がなくなって受動的になるけれど、 本は文字情報だけだから、そこから自分で音声や映像を再生しないといけない。逆に言えば、自分のペースで読んでいったり、自分で組み立てられるってことでもあるんですけど。

宮下:見たこともない主人公の顔や風景まで想像できたりね。読書には余白があるから、そこに自分の想像力が生まれていくのかも。だからこそ、読書って筋肉がいるんですよね。筋トレをサボると、急にキツくなる。

渡部:そうそう。僕はここ1年サボっていて最近また読み出したんですけど、やっぱりむっちゃしんどいです。最初の10ページがなかなか進まないとか。でも能動的であることが、学びに必要な要素だとは思います。


学びは「自分ごと化」で加速する

宮下:この間、実家に帰ったら高校の教科書が出てきたんですけど、今改めて読むとおもしろかったですね。僕は当時物理が苦手だったけど、大人になってから読み返すと、テスト勉強のためではない、生活に根付いた見方ができるというか。今渡部さんが「能動的であることが必要」って言ったように、本質的な学びって「自分ごと化する」ことで得られるものなんじゃないかなと思います。

渡部:学びというと、学習方法などハウツーで語られることが多いですけど、まずは能動性、つまり好奇心と欲求が大事だと思います。専門用語では「内発的動機」と呼ぶそうですが、必要だから知りたくなるし、そこで調べてわかったことや実行したことは一生忘れない。そのサイクル自体が学びなのかなと。

宮下:「疑問を持つ」とか「問いに気づく」ことは、学びの大事なポイントなのに、誰も教えてくれないですよね。これは仕事でも一緒で、日々の中で「これってどうなんだろう」「こうしたらいいんだ」って自分で気づけると学びになるけど、ミーティングで人が話していることをただ聞くだけだと成長につながりにくい。

渡部:後者のように受け身になってしまうことは、結構多いですよね。僕はそれをどう変えていけるだろうと考え続けているんですけど、やっぱり外側からは変えられないなっていうのが最近の学びではあります。

僕は、みんな「もっと成長したい」「もっと学びたい」と思っているはずだと考えていたんですよ。もし学び方がわからないのであれば、僕が少しでも補助できたらいいなと、機会を与え続けようとしていたんです。でも、相手が望んでいないのにそんなことしても、学びって全然加速しないじゃないですか。単なるお節介になってしまう。

宮下:はい、はい。

渡部:だけど、相手の興味が開く瞬間に、目の前に機会があったら学びやすいですよね。それを周りに置いておくことが大事で、相手に投げつけるのは違うなって。相手の周りに、学びの種をいっぱい植えておくイメージですね。


「見えている人からしか見えていない」

宮下:ちなみに、渡部さんが今学んでいるテーマは何なんですか?

渡部:僕は今に限らず、ずっと「人」について学び続けていますね。今は特に、「なぜ人の認識はズレるのか」「なぜ伝わりにくいのか」に興味があります。

例えば「僕はAについてこう思っている」と言う時って、相手との間に「A」の前提条件がないとだめじゃないですか。でも、人によって環境や考え方が違うから、お互いの中の「A」にどうしてもズレが生じてしまう。そこを対話によって、共通の「抽象的なA」にした上で話をすると、ちゃんとわかり合えるのかなと思うんです。

ただ最近コミュニケーションの中で思うのは、その「抽象的なA」を持てない人も多いのかも、ということです。それぞれが「私のA」で話し続けるから、話が永遠に噛み合わない。そうなってしまう理由は、見えている人からしか見えていないからなんじゃないかなと思うんです。

宮下:「見えている人からしか見えていない」?

渡部:つまり、メタ認知ができているかどうかですね。自分が今見ているのは全体の一部分でしかないとわかっている人には、「おそらく自分には見えていない世界があるのだろう」と、自分に見えていない領域まで想像することができて、結果うすぼんやりとでも見ることができる。でも、自分が見ている世界以外が見えていない人は、「自分には見えていない世界」との断絶があるので、その領域が見えないんです。だから話が伝わらない。

だけど学ぶことによって、「自分には見えていない世界」が少しずつ見えるようになるんじゃないかなと思います。

宮下見えない部分を見ようとするのが、学びなのかもしれないですね

渡部:そうですね。そのきっかけっていろいろあると思うんですよ。例えば誰かの言葉に出会って視点が変わったり、想像力が活発化したり。そういうものと出会う機会を与えられたらいいなと思います。


大人になったらどうして学ばなくなるんだろう?

宮下:哲学でも数学でも物理でも、見えないものを見ようとする作業ですよね。みんな「世界はどうなっているんだろう」っていう問いに向かって、いろんなアプローチで探っていっている。「学び」と言うと勉強っぽくなるけど、本当はワクワクから生まれるものなんじゃないかなと思います。

僕は人生で大切な本の一つに『センス・オブ・ワンダー』があるんですが、あのワクワクの感性ってみんな子供の頃に持っていたはずなんですよ。それを持ち続けている人は、いつまでも問いを立て続けて学びをおもしろがっている。なのに、どうして大半の人は大人になるとワクワクできなくなってしまうのかが、僕が今気になっていることで。 

渡部:「大人になったら学ばなくなる問題」ですね。本当は逆のはずなんですよ。大人になればお金も人脈もあるし、学び方も知っているから、土壌はできているはず。それなのに、どうして学びが止まるのか……。

宮下:何ででしょうね?

渡部:子供の頃って、知らないことがたくさんあるじゃないですか。初めてのことだらけだから、いつもワクワクや問いが生まれている。でも、言葉を覚えて現象を理解していくうちに、「なんとなく」わかったつもりになって常識が身についてしまう。するとそこで止まって、なかなか次に行けなくなってしまうのかもしれないですね。

そこを飛び越えるには、新たな問いを立て続けないといけない。そのために必要なのは多分、言葉の厳密さだと思います。自分の中で言葉をちゃんと使えていないと、問いが研ぎ澄まされていかないんじゃないかな。

宮下:確かに。言葉をしっかり使えるようになるのは、大事かもしれないですね。


ワクワクとピンチが重なる時が一番成長できる

渡部:僕もワクワクから学びが始まることもあるんですけど、どっちかと言うと、モヤモヤから始まることの方が多いんです。「なんでこうなんだろう?」ってモヤモヤすることを、構造分析したい欲求が強くて。でも特に人間関係のモヤモヤなんかは、調べていくと過去の人がとっくに解き明かしているんですけどね。人間は何百年も変わらないんだなってそのたびに思うし、たぶん昔の方が人間関係が死活問題だったから、必死に考えていたんだろうなと思います。

宮下:ピンチの時って、学びのスイッチが入りますもんね。ワクワクとピンチ、その両方が重なっている瞬間が、一番成長できる瞬間なのかもしれません。僕は20代でオーストラリアに行った時がそうでした。当時は英語が話せなかったんですけど、ワインとサービスについては学びたかった。だから、何がなんでもやらないといけない状況で。

渡部:まさにピンチとワクワクですね。生きる力をフル発揮する瞬間だ。

宮下:すごいスピードで英語を覚えましたね。戦場にとりあえず行って、武器はそこで拾う!みたいな。あの瞬間ほど成長したなと思う瞬間はないです。英語を身につければワインが学べるって、プロセスもわかりやすかったですしね。

渡部:今しんどくても頑張ればあそこに辿り着けるぞっていう、ゴールが見えているのは大事ですね。

宮下:だからまずは、 自分が今何をしたいのかを一人ひとりが理解するのが重要なんだと思います。そして社会人として、ただ好きなことを学ぶだけじゃなくて、どう貢献するかも考えられたらいいのかなと。

渡部:「社会のため」「チームのため」というと胡散臭く聞こえるかもしれないけど、 実は他者に喜んでもらうと、自分自身も嬉しくなるホルモンが出るって研究でわかっているらしいんですよ。社会的生き物としての喜びを感じられると、結果的に自分が幸せになるんだとわかれば、そこに対して努力できる気がします。若い頃は自分にベクトルが向きがちだけど、それだけだと飽きが来るし。

宮下:そうですよね。社会につながっていたら、知らないことがいっぱいあるなと思うし、読みたい本も無限に出てくるし。それをしている限り、仕事や自分に飽きることはないと思います。


今後、どんなふうに学びを作っていくか

渡部:宮下さんは、スタッフの学びについてはどんな風に考えているんですか?

宮下:学ぶ材料をあげることは簡単だけど、学び方を教えるのはまだ全然できてないですね。ただ、これまでの飲食業界では「学ぶ」イコール「スキルを覚える」だったので、そこを超えていきたいなと思っています。

そこで今後僕がしたいのは、シェフという肩書きに重きを置かないで、みんなで意見を出し合って料理を作ることです。これまではシェフが作るものをスタッフが再現する作業を繰り返すのが通常だったけど、それだけだとワクワクしないですよね。だからこれからは、みんなで対話をして考えて料理を作りたいなと思っています。

渡部:いいですね。

宮下:正直「一つ星レストランにしましょう」の方が楽なんです。でも、僕がしたいのは「いいダイニングにしましょう」の方で、こっちはめちゃくちゃ難しい。なぜかというと、料理だけの評価ではないからです。そのためには、さっきも話に出たけど、言葉の種類を増やしてより深く広く思考しないといけない。みんなで「いいダイニングとは?」という問いと仮説を持って、対話を続けることが必要なんですよね。

渡部:「いいダイニング」とは何か。そういうことを考えて手を動かすのと、スキルだけでやるのとでは、最終的に出てくるものが本質的に異なるでしょうね。

宮下:そう。スキルだけでいこうとすると「それっぽいもの」で終わっちゃうんです。思考から始まると何が生まれるかわからないけど、今後はそれを見てみたい。それが僕にできる学びの提供かなと思います。

渡部:DAYにおける学びでは、「失敗できるようにすること」が今のテーマですね。これまでは先回りして転ばないようにすることに必死だったけど、やっぱり怪我して学ぶことの方が多いなと思うようになりました。致命傷にならないように土壌を整えることが僕の仕事なんだろうなと。

だから今、「失敗っていいよね」ってみんなに言っているんです。でも、何も準備しないで失敗するのは馬鹿者だよって。考えて、準備する。それで失敗するのは全然いいし、むしろ賞賛されることだよって。

宮下:うんうん。

渡部:そのために、「そもそもなぜこれをやる必要があるのか」の前提条件と、「その先に何があるのか」の未来をセットで伝えています。その間の部分を「みんなどうする?」と考えて実行してもらう。そうして起こった失敗からは、学びが生まれるのではないかなと。

宮下:例え失敗しても、前後の情報が見えているともう一度起き上がろうとするし、単なる失敗で終わらなそうですね。そこから学んだことはずっと忘れないように思います。


【二人のおすすめの本】

宮下『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン (著)
対談の中でも話した『センス・オブ・ワンダー』は僕にとってとても大切な本なのですが、今年数学者の森田真生さんの新訳が出ました。実は僕は森田さんの高校の後輩で、今偶然にもお互い京都に住んでいるので、京都のことを感じながら読むのもよかったですね。何十年も前に出た本なのに、毎回新しく読める本です。ここに書かれていることを、一つでも仕事で表現できたらと思っています。

渡部『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』 ナシーム・ニコラス・タレブ (著)
僕のバイブル的な本は、投資家のナシム・ニコラス・タレブの『ブラック・スワン』です。不確実性について書かれている本でかなり難解なんですけど、大好きな一冊ですね。彼は「そもそもリスクは目に見えた時点でリスクではない。本当のリスクは目に見えないところから来るもので、それがブラック・スワンだ」と言っています。じゃあ、それにどう備えるのか?ということが書かれている、めちゃくちゃおもしろい本なのでぜひ。


取材・文        土門 蘭  
写真   辻本しんこ


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