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本屋と街の風景
街の風景が一変している。駅前やターミナルに書店が存在しない場所が増えているという。待ち合わせに書店で、ということが難しくなってきているのかもしれない。駅前や商店街にあった本屋さんが知らぬ間になくなっており、書店が昔ほど必要ではなくなってしまった状況に一抹の悲しみを感じる。
書店をとりまく現状についての詳細は、小島俊一さんの『2028年 街から書店が消える日』を読んでもらうと深く知ることができる。書店という形態が薄利多売であり、利益率が低いという現状を知ると、何とか書店の取り分を増やす取り決めをしていかないといけないのだが、業界の構造上難しい点もあるようだ。
読売新聞のこの記事によると、「2003年度に2万880店あった書店は、23年度には1万918店と20年間でほぼ半減した」とある。それに拍車をかけたのは雑誌の売り上げの大幅減であり、書籍の売り上げも減ってはいるものの、雑誌の売り上げが本当に減っているようだ。そのため、コンビニエンスストアでも雑誌販売を休止する動きが加速している。このように配送コストの問題などが、書籍や雑誌離れをさらに進行させている面もあるだろう。また漫画についても、スマホで電子媒体で読むというのがデフォルト化しつつある中、紙によるメリットとは何かを考えて、販売していく戦略を考えないとダメだろう。そもそも書籍とはどのような性質の財なのか、考える必要があるだろう。
独占的競争市場の財
書籍は「独占的競争市場」の財である。つまり、多くの企業が同一ではないが類似の製品を販売する市場である(詳しくはマンキュー経済学などのテキストを参照)。このような市場では、各企業は自社製品を独占しているが、他の企業も同じ顧客を獲得するために似たような商品を製造している。具体的には、Kadokawa,集英社、講談社…、書籍という形態の同じ財を出しているが異なる作家から出ているので違うということである。そのため、作者によってはファンがついたりする(作家ブランドへの忠誠)ので、大きな利益を得ることも可能になる。なので、出版社サイドが新たな才能や売れっ子の作家さんを囲むのは自分たちの利潤を最大化するために必要なことなのである。
となると、twitterなどで作家さんが発言したり、漫画の一部をプロモーションするのは、他との差別化になるので行うのは広告・宣伝効果なので積極的に行っているという現状はよく理解できるだろう。なので当然のことながら、いかにファンをつけていくのかがカギになっている。書店と併設したカフェでファンイベントを行ったり、トークイベントを行う、サイン本の提供など、SNSのおかげで作者と読者の距離が縮まった現在、プロモーション活動が極めて重要になってきているといえよう。
とはいえ、恵まれているのは大都市圏のみ
SNSで作家との距離が近づいたとはいえ、リアルで会うとなるとなかなか難しい。大体トークイベントの類は、大都市圏の大型書店やカフェなどで行われることが多く、地方部に住んでいる人たちは都内までの交通費を支払わない限り、参加できない。著者の雰囲気などを含めて、実際に話を聞いてみたいということは多々あるだろう。またサイン本や限定グッツを入手したいとなると、さらなるコストがかかることになる。
メルカリ等で転売が行われる理由も、都内に出るためのコストの高さがあるだろう。多少高くても、限定品が欲しい。でも交通費等を考えると、日程調整を踏まえると難しい。そうなると転売でもいいから、入手したいという心理もよくわかる。転売自体は転売屋が価格設定をするので、支払用意の高い欲しい人のところに欲しい財が行くので資源配分の効率性の観点からは是認されるところはある。ただ、転売屋によって本来その場で欲しい人が入手できないという点においては、倫理的には許せない面もあるのは付記しておく。
発売日に書籍が入手できない、一部の書店に配本が偏っている問題も深刻である。もちろん売れ筋については、大型書店では売れるのだろう。しかし大都市圏以外にもたくさんの読者がおり、その読者が住んでいる街に本が「発売日」に配本されるかといえば、なかなか難しいことが多い。なのでリアル書店は諦め、アマゾンなどのネット書店で買うというのが地方の本好きさんのリアルだろう。人は現物を見て、納得した上で買いたいという願望があるし、書店で関連書籍や違った出会いもあるので、レコメンドにはない偶然の出会いが得られないのではないかと感じる。
これはtwitterでも地方の本好きの人たちが「書店の内容が料理本などで画一化していて、自分が欲しいと思っている本がない」「注文してもその日に入ってこない」などのコメントがあり、大都市圏、特に都内の書店を利用している人には肌感覚としてあまり感じられないのかもしれない。欲しい本がすぐに入手できない、という状況は、配本の大きな問題でもあるので改善されてほしい。
ではどうするのか。
読書自体について、危機感を抱いた新聞・出版業界から真面目な提言が、講談社×読売新聞から出されている(書店活性化へ向けた共同提言)。キャッシュレス手数料の軽減、ICタグの普及、書店と図書館の連携などインフラ面のコストを軽減することを求めるものや、絵本専門士の利用による幼少期からの読書習慣を身につけさせることなど、読者のすそ野を拡充するための方策についても提言されている。もちろん、地方創生からの観点から書店の減少を食い止めることなども提言されているが、本質的なところは流通コストのところである。さらに追い打ちをかけているのは原材料費の増大による、本の価格の上昇なども挙げられる。
以下のTLを呟いたら、結構な反応を頂いた。
本が奢侈財になってきているのを痛感したのは、芳林堂&書泉さんの復刊プロジェクトの本たちを見ていると、購入をためらう価格帯ギリギリなので、悩むことが増えている。実際本が売れないから、利益を出すために高めに設定し、限定とすることで売るという仕方になりつつある。
— Asylum Piece (@empirestar) February 3, 2025
皆所得があれば、本は普通に買える。でも給料がそこまで昇給していないので本の値上がりが肌感覚よりも大きくなっているのだと思う。
出版社とコラボして売る仕方も大変ありがたい反面、豪華なものが多いため、購入を躊躇してしまうのは自然であろう。クラファンにしろ、2万円前後のものに躊躇いなく出費できるのはある程度の収入がある人たちだけだと思うので、ターゲット層が比較的裕福な中年になっているのかもしれない。つまり、紙の書籍を入手するためのコストや手間暇が大きくなってきており、電子媒体の漫画やユーチューブのような動画等に比較しても安価ではないため、書籍よりも別の愉しみを選択する人が増えているのではないかと考えている。
なので、取次を含めた流通コストの軽減、出版社は直取引の拡充を行い、書店の利益率を上げることなどが重要になってくる。そして書店も本の著者とコラボして、イベントを行うことで、より集客を行うことで、派生需要を積極的に獲得していく方向に転換をどうしていくのかが今後の書店再生への鍵になるだろう。もちろん買う側である我々の給料が上がり、書籍購入に向けお金が上がることがとても大切なのだが、経済環境がそれを許していない。
もう一つ、書店員さんの待遇改善が一番重要である。そもそも本が好きで書店に勤務している人も多い。ここのデータを見ると、年間350~400万円ぐらい。書店員さんもそれなりの役職者でないと、書籍にお金を費やすのは難しいと感じる。いくら社割などがあったとしても、年間の発行点数が増えている状況で、新刊を買うのはなかなか厳しい。なので、ダイレクトに給料に反映したりすることが重要ではないだろうか(これは先の講談社×読売新聞の提言にはない)。
本をもう少し躊躇せずに気楽に買える日はいつになるのか、なんとかならないのかと思う。
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