自分図書館をつくるということ
先のエントリーでも書いたように、この度は縁があって書庫を作ることになり、これまで蒐集してきたり、読んできた本を集約できるチャンスを得た。基本的に本の処分はハードカバー→文庫のような状況にならない限りはあまり処分しない派なので、基本的には長い年月をかけて蒐集してきた書籍が一つの生態系を形成して、自分の興味を形成している。書庫にある本は自分の趣味である海外文学やSF小説、幻想文学などが集約されている棚で、地道に見つけたり、基本的には新刊でお迎えしてきた書籍である。
これまでは仕事の書籍と趣味の書籍がうまく分離できず、まさに「ごちゃ混ぜ」の状況になり、混淆していたのだが、今回の書庫によってジャンルをうまく分類することができるようになった。大雑把な括りではあるけれど、やはりレーベルを中心に本をまとめることができたのは、自分の脳内整理にもつながった。
図書館を建てる、図書館で暮らす
何と魅力的なタイトルの書籍だろうか、と手に取ったときに思った。
書庫の完成時まもなくしてから、山本貴光&橋本麻里『図書館を建てる、図書館で暮らす』(新潮社)が出版された。この本は著者二人がどのようなポリシーと経緯で本を入手し、蓄積し、図書館をつくるに至ったのかが記憶として記されている。書庫の規模は当然まったく違うものの、電子にはない物質としての本という形態が生み出す空間の効用について、とても分かりやすく言語化されている。
本書を読んで、なるほど書籍に対する向き合い方について自分の方向性は間違えていなかったと勇気づけられた。電子書籍にはない、本という物質が生み出す存在感をコアに添えることにより、自分のための図書館が生み出されていく一大プロジェクトを知ることは、書籍とともに生きる意味を考えるきっかけになった。膨大な書籍とともに、人生を歩むことは一般的には難しい。特に日本の場合、本を持続的に保有するのは、広大な空間が必要だが、新居を建てるためのチャンスも限られつつある。でもそのチャンスがあるのであれば、トライしてみたいと思うのは、人の性である。これまで、なんとかお迎えしてきた書物を、一部処分しながらも保有することができた。引っ越しなどで散逸することはほぼなく、今回書庫にお迎えすることができた。
『図書館を建てる、図書館で暮らす』には、本とともに生きている自分の身の振り方に対するヒントが満載であり、自分ごととして共感することがたくさんあった。
積読、そして外部記憶としての本
齢を重ねると、仕事、家族、その他趣味などの状況に応じて、読書への優先順位がどうしても変化してくる。その結果、書店や古書店で入手した本の大半が積読になっていく。世の中的には積読を無駄と考える風潮があるのだが、むしろそうではなくその時々に生まれた自分の興味関心を表す外部記憶のようなもので、ある種の知の体系でもある。本自体の存在が、その当時の記憶を思い出させるきっかけをつくることもある。もしかすると幼少期の記憶が薄まっているのは、物質としての本が処分されてしまったり、貸出だったからかもしれない、と個人的には思うところがある。
ある作品を読んでいて、作家の全作品を読みたくなる、ジャンルに興味が出てくる、レーベルに興味が出てくるなどの脳内で効用を得ている状況は、知的好奇心の発動であるので、可能であるならどんどんジャンルを横断していくのは悪くないことである(だからこそ乱読は、意外な出会いにつながるので若いうちにやっておくべきことなのかもしれない)。積読をコスパだけで見る風潮には抵抗があるのは、余剰という形で備える姿勢の対極にあるからだと個人的には感じている(定期的にSNSでこの話は蒸し返され、炎上する)。
実際、文庫でも新書でもハードカバーでも、シリーズやレーベルを集めてみたくなるというのも、そのレーベルにあるマクロコスモスを俯瞰し、自分が興味関心に応じて外部記憶を獲得していく過程なのかもしれない。積読していて読めていない状況でも、その存在があるということだけで、外部記憶につながり、知のネットワークが構築されていく。膨大な書籍コレクションを見てある種のインスパイアや畏怖感が生まれてくるのは、自然と過去と現在、未来を書籍という形状で往復しているからかもしれない。
ボルヘスの無限の図書館のような場は、有限の存在である我々にとってはある種の神の領域であるので、生み出されてきた知的創造物を自分の人生の歩みとともに培ってきた知性のもとで部分空間として切り出して、それを書庫という形で閉じることによって、自分なりの知の体系による生態系を生み出す行為と個人的には認識している。
書庫の現在
少し整いつつあるが、まだまだ未整理棚ばかりである。未整理の棚は世界的デザイナーのカール・ラガーフェルト氏のオフィスのような横積みになっている。
まずは正面。ユートピア旅行記叢書が入ったり、朝日ソノラマ海外文庫(揃い)を置いたりなど、重厚な本が多い。3段目にあった画集ほかは、書庫手前の読書スペースの本棚の方に移動している。
書庫から見た入り口側の両側の棚は未整理のサンリオSF文庫やハヤカワ文庫SFなどで埋まっている。このあたりをどう整理していくのかが今後の課題である。立てて綺麗に入れられる日はいつのことだろうか…。