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書物の帝国(購書日記2020.10.30)

ブックオフで購入した本
八木澤高明『にっぽんフクシマ原発劇場』(現代書館)
斎藤貴男『勇気を失うな 心に太陽を持て』(同時代社)
森功『日本の暗黒事件』(新潮新書)
・d小坂貴志『失敗から学ぶ基礎英語』(ちくま新書)
原田泰『デフレはなぜ怖いのか』(文春新書)

小生にとってブックオフはセレンディピティの場である。ジャンルにざっくり並んでいる膨大な本の中で、ふと気になる本を見つけて買う。新刊書店と違うのは、絶版本などもあるので新旧交えて本を選択できるのでありがたい。

dは、ダブり本(帯の状態が良いので買った)。状態が悪い本だと時折古書店でよい状態であれば買うこともある。八木澤高明さんの本はジャケ買いだったのだが、これは当たり。2011年から2014年まで、福島の津島地区に足しげく通った著者の渾身のルポ。これを読むと、原発再稼働とかいう話が出るのが頭がおかしいのではないかと思わざるを得ない。

新刊書店
ネルヴァル『火の娘たち』(岩波文庫)
田中芳樹監修『銀河英雄伝説列伝1』(創元SF文庫)
堀越正雄『江戸・東京水道史』(講談社学術文庫)
ウイリアム・リンゼイ・グレシャム『ナイトメア・アリー』(扶桑社ミステリー文庫)
三浦英之『白い土地』(集英社)

読了本

八木澤高明『にっぽんフクシマ原発劇場』(現代書館)

表紙に魅せられて購入。放射能で汚染されてしまった福島で、実際に現地で住んでいる人たちの姿を通じて、現実を報告した本。途中に挿入されるモノクロ写真もまた、福島の現実を知るのに役立つ。写真からわかるのは、人の営みがあった場所が、2、3年もすれば簡単に自然に戻っていくということ。緑萌ゆる福島の自然の裏には、浄化までに長い時間がかかる放射能が腐海のごとく広がっている。汚染された地となってしまった浪江町津島の取材を通じて、福島第一原発の事故がもたらした本質とは何かと考えさせられた。

著者は風俗などのルポを多く手掛けているライター。現場の声が聞こえてきそうな写真に、生々しい文章に、現地に居住している人たちの生活や思いを垣間見ることができる。内容は、2011年~2014年、福島第一原発の事故により、放射能に汚染されてしまった浪江町津島を中心に取材したもの。福島に住む人たちの払った犠牲がいかに大きいものか、原発事故によって改めて再認識する。中には自分が死ぬ思いで育ててきた乳牛を放棄せずを得ず、自殺をしてしまう人、泣く泣く牛を手放す人たち。自然環境が厳しい津島で、自分たちの仕事に誇りをもって取り組む朴訥な人たちが、あの事故によってさまざまなものを放棄せざるを得ない状況になる。津島地区は、「白い土地」として放棄され、あとは自然に還っていくだけの場所になっていく。人の営みがあったのは事実だが、それはチェルノブイリと同様に、土へと還るのだ。

酪農を営む三瓶恵子さんの台詞が重い。

「事故で、故郷さ追われて、賠償金もらって、車買って、家買って、中には良かったと思う人もいるかもしんねぇ、そりゃ人それぞれだからさ、仕事しなくたって毎月金入るだから、仕事すんのが馬鹿らしくてパチンコばっかやっている人もいるわさ。うちらは。仕事してないと気持ち悪いのよ。なんか金だけもらってっと、国に首根っこ掴まれているみたいで。だから大変だけど酪農をずっとやってんのさ。(中略)国ってもんは正直で嘘をつかないと思って、いつも自民党に票を入れて、生活してたけど、事故が起きて、原発のことで国って嘘はつくし、国民のことなんて守ってくんねぇんだって。(略)」(p.253)

いまや国は嘘ばかりつくようになってしまった。やはりこの国の形は福島に象徴されるように壊れてしまったのかもしれない。


・石戸諭『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)

『永遠の0』などのベストセラーで知られる作家・百田尚樹について、なぜその作品が売れて、世間に支持されるのかを本人、右派論壇へのインタビューを通じて分析した本。百田尚樹は、天才的なエンターテナーであって、特に思想信条を持たないが、読者の目を意識しながら小説を書く「普通の人」という点を明らかにしたことが、この本の収穫である。百田尚樹は、読者ファーストであって、思想信条については確固たるものを持たないが、状況に応じて市井の人が喜びそうなものを執筆できるエンターテナーであることが、関係者の取材によって重層的に浮かび上がってくる。

そう、百田尚樹を支持する人たちは基本的には普通の人である。中韓が嫌いで、日本大好きな様々な年齢層の人たちが、百田の作品を購入して感動する。だからこそ、百田尚樹を支持する人たちの属性や行動原理、言動を分析する必要が出てくる。百田尚樹の過激な言動や歯に衣着せぬSNSでの発言は、むしろファン層には受ける。その意味で特に自分の信条を持たず、場の空気に合わせることができる作家だからこそ、ベストセラーになっていると考えることができる。

今の人々の分断(好きなものは味方、嫌いなものは敵)という状況が進行している中で、自らのポジションを構成し、熱狂的な支持者を獲得している。人々が何に感動するのかを理解した上で、右派論壇を選択するのは、百田にとって当然の帰結かもしれない。インタビューを受けていた右派論壇の人々は、百田の才能を買っている。

本書第二部では、「新しい教科書をつくる会」の取材がメインとなる。つくる会の設立から、運動について、関係者にインタビューを行うことで重層的に「つくる会」の運動を第二部については、つくる会の話がメインになるのだが、百田尚樹と小林よしのりとの違いは情念の部分である。小林たちはコアコンセプトのある情の運動だが、百田尚樹は違う。カオナシのように、相手によって変幻に変えることができる、まさにネット時代の申し子である。

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