連載『寄り道したい本屋たち』第一回 東京(駒沢) SNOW SHOVELING
こんにちは。
仕事終わりのお酒をこよなく愛す、
編集のブチコと申します。
昨年から始まったダ・ヴィンチ編集部公式noteですが…
なんとこの度、noteで連載を始めることとなりました!
連載のタイトルは『寄り道したい本屋たち』。
皆さん、最近本屋に足を運んでいますか?
わたし自身、なるべく本屋で本を買うようにしてはいるものの、
近年はネットショッピングなどで本を買うことも多くなってきているのは事実。
そんな状況のさなかで、年々「あの本屋が閉店した」というニュースが後を絶ちません。
しかし一方で、今ユニークな本屋が続々と増えていて、それぞれの街を支えているとの噂も多く聞くのです。
そこでこの連載では、ダ・ヴィンチ編集部が気になった、
街の“わざわざ寄り道したくなるような”本屋を紹介していきたいと思っています。
東京(駒沢)
SNOW SHOVELING
駒沢大学駅から徒歩で20分ほどの場所にある「SNOW SHOVELING(スノウショベリング)」。
入口らしい入口はなく、駐車場の奥まったところにある階段を上っていくと、お店の看板が立てかけられた緑色のドアがある。
アパートの一室に見えるここは本当に本屋なのだろうか……?
と疑いたい気持ちを抑えつつ、ドアノブを回すと、その内側にはところ狭しと並べられた書棚の風景が広がっていた。
「文化的雪かき」
この言葉を聞いて「おや?」と思う人がいるかもしれない。
村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』で、主人公の「僕」が言う台詞の中にこの言葉は出てくる。
フリーランスのライターを仕事にしている「僕」が、
評価されるわけではないけれど、誰かがやらなければならない仕事のことを“雪かき”として表現した印象的なフレーズ。
「SNOW SHOVELINGという店名の由来はここからきているんです」と店主の中村秀一さんは言う。
中村さんは“村上主義者”であるそうで、もちろんお店の書棚にも村上春樹作品や関連本がずらりと並んでいる。
書棚整理は“盆栽”と一緒…?
「SNOW SHOVELING」で扱われている本は新刊書、古本、ZINE(個人で本を作っている人たちの作品)で構成されている。
特に、新刊書と古本が入り混じった、店内奥一面に広がる書棚は見ごたえが抜群。
棚の下のほうに貼られている文字が書かれたマスキングテープ。
よく見てみると「ことのは」「教科書みたいなもの」「ALL AROUND THE WORLD」……など独特なくくりで本が並べられている。
個人書店における書棚の並びとは、いわばその書店の顔のようなものだ。
ここ「SNOW SHOVELING」では、そのときの時代性を感じ取りながら、書棚の並びも日々変容させているのだそう。
中村さんは、どんなことを考えながら本が並び変えているのだろうか。
「棚の面白さって1冊の本が軸になって、広がっていくところだと思っていて。 1冊入れ替わるだけでも、その棚が持つ意味合いがちょっとずつ変化していく。僕はこれを、“盆栽いじり”に近いなって感じています。こっちを切ったら、別のところが成長する、というようなイメージ。誰かが気づいてくれるかは置いておいて、僕自身はメンテナンス業務みたいだなと、楽しみながら本を並べていますね。」
本と出合うことは、人と出会うこと
「SNOW SHOVELING」には“読書と対話を提供するプログレ書店”というテーマがある。
プログレとは「プログレシブロック」の略語であり、
1960年代、従来のロック音楽に、ジャズやクラシックの要素を取り入れ、シンセサイザーなどの電気的技術を利用したことで、当時“革新的”と呼ばれたロックのジャンルのことを指すのだそうだ。
では、中村さんが理想とする“革新的な本屋”とは何なのだろう。
「僕は、本と出合うことは、人と出会うことに等しいと思っていて。要はその人の思想とか、思っていることが、手にしている本にリンクしているんじゃないかということで。ここにわざわざこういう応接スペースみたいなものを作っているのにも意図があって…」
「例えば電車の中で、目の前の人が読んでいる本って気になるけれど、電車内で声をかけようとすると怪しい行為と思われかねないですよね(笑)。なのでここでは、そういう“対話する”という行為のハードルを下げる空間作りをしたい。お店に来た人同士のコミュニケーションが交差するような本屋であればいいなと思っています」
本屋というと、自分が読みたい本を、静かにじっくり選ぶ空間であるイメージが強い。
しかし、「SNOW SHOVELING」では何よりも、本をきっかけに生まれる“対話”を大事にしているのだ。
本を通してコミュニケーションと思考を深める
お店ではお客さん同士の会話のきっかけとなるようなイベントも多く開催されている。
その中のひとつが、定期的に行われる「ブッククラブ」というイベントだ。1クラス10人弱くらいで集まり、読書会当日までに決められた課題書を読んで、それぞれが感じたことを語り合ったり、意見の交換をしたりする。
「人種差別やフェミニズムなどを取り上げる本を1冊えらんで、読んで来た人たちが集まってセッションをするのですが、結構エキサイティングで面白くて。皆さん、本を読んで各々に感じたことを話してくださるので、ちょっとけんか腰になったりして。でも最後は平和におさまるのでご安心ください(笑)」
昨今、SNSを中心に「顔が見えない者同士」だからこそ、簡単に個人攻撃が行われてしまっている場面を多く目にする。
しかし、こうしてお互いが面と向かって意見交換することで、相手の空気感や態度などを受け取りながら慎重にことばを交わしていく。そういう意味でも「対話をする」ということは大事なことなのかもしれない。
「大げさだと言われるかもしれないですが、僕は本が好きな人たちが、好きな本の話をすることでもっと幸せになれると思ってるんですよ。それだけでなく、学びだってある。ブッククラブのようなイベントで、お互い膝を付け合わせてコミュニケーションを深めていくことは、今の時代だからこそ意味のあることだと思っています」
店内には会話のきっかけになるような工夫がちりばめられている。
この日も、中村さんと雑談するお客さんもちらほら。
私自身、途中取材からそれて中村さんと楽しく対話させていただいた。(良いワインは二日酔いになっても頭が痛くならないですよね……とか)
「SNOW SHOVELING」は本屋という形でありながら、
人々の会話が交差するコミュニティハウスとしても機能していたのだった。
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