『寄り道したい本屋たち』第二回 東京(都立大学) ニジノ絵本屋
こんにちは。
忙しくなるとついつい食べ過ぎてしまう、編集のブチコです。
皆さんは最近「絵本」を読んでいますか?
子供の時は触れる機会の多かった絵本ですが、
大人になるとなかなか手に取る機会が減ってきてしまうように思います。
しかし、ここ最近は絵本が置いてあるカフェなども増え、
絵本を大人が楽しむ場面も多くなってきました。
今回は、
子供はもちろん、大人も気軽に絵本を楽しむことができる本屋、
都立大学にある「ニジノ絵本屋」さんをご紹介します。
東京(都立大学)
ニジノ絵本屋
スーパーやお菓子屋さんなどでにぎわう都立大学駅。
駅から伸びる坂道を上っていくと、ちいさくて可愛らしいお店が見えてくる。
看板に書かれている「ニジノ絵本屋」という文字と窓からのぞく温かい雰囲気に誘われて、思わずお店のドアを開く。
ドールハウスのような木製扉の内側は7坪ほどの広さの店内。
色鮮やかな絵本から少しシックな雰囲気の絵本まで様々な種類の絵本がこちらを向いている。
まるで絵画を眺めているようで、見ているだけでとても楽しい。
この小さな美術館のような絵本専門店、
ニジノ絵本屋は、11年前に店主のいしいあやさんが立ち上げた。
「実は、開店当初はここではない、今よりも小さいスペースのお店だったんです」
スタートは今よりも小さい1.5坪のお店から始まったのだそう。
そんな小さな空間で絵本屋をはじめようと思ったきっかけは何だったのだろう。
「実はわたし、『絵本屋さんをやるのが夢でした!』って気持ちで絵本屋を始めたわけではないんです。
色々なご縁があって、雑居ビルの小さなスペースでなにか始めないか?とお話をいただいたときはまだ何も決まってませんでした。ただ、そのビルには小児科や子供向けの英会話教室などが入っていて。お子さんに縁がある場所だったんですよね。 だから、絵本がいいんじゃないかと思いたったのがきっかけなんです」
いしいさんの直感で始まったニジノ絵本屋。
当時は本屋について何も知識をもっていない状態だったといういしいさん。
一番最初に立ちはだかった壁は「仕入れ」だった。
通常本屋では、新刊の本を売るために出版社から直接本を仕入れるか、取次と呼ばれる、いわゆる本屋の問屋を介して仕入れることが多い。
現在は、本を仕入れるルートの多様化は進んではいるものの、いしいさんが本屋を立ち上げた当初は、ニジノ絵本屋のような個人で営業しているお店が本を仕入れるのは、難しいのが現実だった。
「個人でやっているような小さなお店向けの仕入れは、この10年ですごく状況が変わったなと感じています。わたしが絵本屋を始めた当時は、ツテもなにもなかったので、本当に本を仕入れることが難しくて。直接取引していただける出版社さんもあまりなかったんですよね」
立ちはだかった壁がむしろチャンスに?
だから絵本屋は続けられない……とならないのがいしいさん。
むしろ、そこからニジノ絵本屋が「存在することの意味」がいしいさんからも見えてきたのだという。
「本屋を始める前に、私の幼なじみが絵本を出していたんですよね。それを聞いたときすごく嬉しくて、発売日に街の本屋さんに行ったんです。そうしたら店内のどこを探しても売ってなくて。小さな出版社さんから出ていた本だったので、取り扱いが限られていたんです。それだったら、わたしが身近な人の作品を取り扱える本屋さんを開いたらいいんじゃないかなとその時にふと思い立ったんです」
そこからは、直接仕入れられる出版社や作家さんを通して地道に仕入れを増やしていった。
「妹が教育系の大学の美術学科だったこともあり、妹の同級生や先生の絵本を取り扱ったりもしていました。たまたま、絵本を作っている人が周りにいる環境だったので、地道に取り扱う絵本が増えていきました。そうしたら店内に並んでいる絵本のほとんどが、作り手さんの顔が見えるものになっていきました」
“作り手の顔が見える”というとなんだか食品を連想させる。
スーパーに並んでいる野菜や果物のパッケージに印刷されている農家さんの写真が思い浮かぶ。
「確かに“信頼感”という意味では、近いかもしれないですね(笑)。やっぱり私は『私達だから』紹介することに意味があるものを取り扱っていきたいと思ったんですよね。
この10年 でいろいろな方と知り合ったので、いろんな絵本を扱っていますが、オープン当初から私達とずっと繋がっている作家さんは多いです」
とにもかくにもやってみよう!でここまできた
ニジノ絵本屋のモットーに
「読み手と作り手の架け橋になる」という言葉がある。
それは、このニジノ絵本屋という場所だけでなく、絵本自体を出版するということも含まれている。2012年に絵本を作り始めてからこの10年で約30冊の絵本をつくってきた。
現在、店頭に並んでいる本も
「ニジノ絵本屋レーベル」として出版されているものが多く並んでいる。
「出版はニジノ絵本屋を開いて1年後に始めました。それこそ、自家製パンを作るようなノリで、自分たちで絵本を作ってみたら利益がちょっとでも出るんじゃないかと思って始めました(笑)。立ち上げの時もそうですが、いろいろと考える前に、とにかくやってみよう!と思ってなんでも取り組むので、それなりに失敗や反省もあります。だけど、これを続けてきたから今のようなニジノ絵本屋ができてきたのかなと思っています」
"生粋の絵本好き”ではないからこそ届けられるものがある
ニジノ絵本屋の店内を見回してみると、
すべての絵本が表紙を向けて並べられていることがわかる。
様々な表情をした絵本の数々をみると、思わず手にとってみたくなる。
「開店当初から、表紙が見えるように面だしで並べることは意識してきました。やっぱり表紙って、一番の主役なので」
「私自身、ものすごく読書をするタイプの人間じゃなくて。でも絵本って、読まずに飾ってるだけでもいいというのが魅力ですよね。それってだれでも楽しめるものだと思っているんです。だからたとえ、絵本に対象年齢が書かれていて、自分がそのターゲットじゃなくても別によくて。雑貨感覚で気軽に絵本を楽しんでほしいですね」
“元々絵本に特別な思いをいただいていなかった”いしいさんだからこその絵本の魅力を伝える棚なのだ。
そしてそこには、大人にも絵本を楽しんでほしいといういしいさんの思いが隠されている。
「やっぱりもっといろんな人に絵本の良さを知ってもらいたいですね。大人で絵本好きな人って、例えばご自身に子供ができたりだとか、仕事で子供と接する機会があったりだとかで、改めて絵本に出会ってこんなに素敵だったんだ、と“子供きっかけ”ではまってる人が多くて…」
「でも私の周りには子供が身近にいない人もたくさんいるんです。そういう人たちは、絵本と出会うきっかけがあまりないんですよね。なのでニジノ絵本屋では、子供が身近でない人たちにももっと絵本の楽しさや魅力を届けていけるような活動をしていければいいなと思っています」
大人になると、ついつい日々の家事や仕事、細々したことに忙殺されてしまう。
けれども、子供のころのように絵本を楽しんで、ゆったりとした時間を過ごすことも、また一方で必要なことなのではないだろうか。
少し頑張りすぎたなと思う日には、
都立大学のニジノ絵本屋で絵本を眺めてみてはいかがだろう。
明日からまた頑張ろう、と思えるような絵本との出会いがあるかもしれない。
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