【日本建築写真家協会会員】建築写真家のキホン
執筆日:2023年11月13日(月)
更新日:2023年11月30日(木)
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建築写真 VS ジオラマ写真
構図全体にピントを合わせる建築写真と構図内の特定部分にピントを合わせるジオラマ写真は、真逆な撮影方法と言える。リアルな雰囲気をつくる建築写真とノーリアルな雰囲気をつくるジオラマ写真とも言える。建築写真は、ジオラマ写真にならないように撮影・現像することとも言える。
ジオラマ写真の基本原理
人間が小さいものに目を近づけたときの見え方を再現することであり、焦点をあわせた場所以外を強くぼかし、鮮やかな色彩にすることである。
現実と虚構の合間を覗き込むようなジオラマ写真の歴史
1954年生まれのイタリア出身の写真家オリボ・バルビエリ(Olivo Barbieri)、ドイツ出身のマーク・レイダー(Marc Rader)、1974年生まれのミクロス・ガール(Miklos Gaal)によってジオラマ写真の歴史が始まったと言える。日本では2006年に本城直季が木村伊兵衛写真賞を受賞した頃から注目が集まる。彼らは、フォトショップによるデジタル処理ではなく、大判カメラなどの逆ティルト撮影という技法で、現実社会の都市風景をジオラマ(ミニチュア)写真のように表現した。それ以降、手軽にジオラマ写真加工ができるオンラインサービス「TiltShift Maker」、同加工のアプリ「TiltShift Generator」からジオラマ動画、ジオラマフィルター、フォトショップ加工などが可能となった。
オリボ・バルビエリ(Olivo Barbieri)
1954年生まれ、イタリア出身の写真家。ヴェネチア・ビエンナーレに何度も参加するなど、映像と写真の分野で国際的に知られている。都市や自然環境の両方に対する人類の関係について、わたしたちの理解を不安定にする写真作品を制作。2004年から始まったサイト・スペシフィック(site specific)シリーズは、ローマ、ラスベガス、上海、ニューヨークなどの大都市をヘリコプターからティルト・シフトレンズを備えた大判カメラを使用して撮影し、広大な大都市を単なる模型(ジオラマ)にしている。そして、視覚の曖昧さを強調し、リアリティー(reality)とリプレゼンテーション(representation)の関係を考える作品を制作している。主な写真集に『site specific_0313』(Aperture)、『Dolomites Project 2010』(Damiani Editore)などがある。
本城直季(HONJO Naoki)
1978年、東京生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。4×5判カメラを使用して人物や風景などをミニチュアのように撮影する独特のスタイルを確立する。写真集『small planet』で第32回木村伊兵衛賞を受賞。作品はメトロポリタン美術館やヒューストン美術館にコレクションされている。作品集に『ここからはじまるまち Scripted Las Vegas』(superstore Inc.)、『TREASURE BOX』(講談社)がある。
ティルト・シフトメーカー(TiltShift maker)
【実例】ボケが大きい=被写界深度が浅い
Canon TS-Eレンズ90mm 絞り値(F値)2.8
【被写界深度】
被写界深度とは、ピントを合わせた部分の前後のピントが合っているように見える範囲のことであり、絞り値(F値)、レンズの焦点距離、撮影距離(被写体とカメラの間の距離)で決まる。
・絞り値が小さくなるほど、被写界深度は浅くなり、ボケが大きくなる。
・焦点距離が長くなるほど、被写界深度は浅くなり、ボケが大きくなる。
・撮影距離が短くなるほど被写界深度は浅くなり、ボケが大きくなる。
建築写真の大原則
「水平・垂直」の撮影方法
建築写真撮影で必須と言える撮影機材(レンズ)が「ティルト・シフトレンズ」(別名:アオリレンズ)である。「ティルト・シフトレンズ」は、蛇腹の大判カメラで行われたティルトやシフトなどのアオリ撮影を可能とする非常に特殊なレンズである。このレンズを取り扱っている主なメーカーは、 Canonの「TS-E」シリーズやNikonの「PC」シリーズが有名である。ただし、Canonの方がシフトレンズのラインナップが多い。
Canonの「ティルト・シフトレンズ」には、建築写真家のニーズに応える、超低歪曲かつ画面周辺までの高画質化を実現した「TS-E17mm F4L」「TS-E24mm F3.5L II」。マクロ撮影を可能にし画面の周辺部まで高画質化、歪曲収差を極限まで抑制した「TS-E50mm F2.8L マクロ」、最大撮影倍率が0.5倍に向上、画質・操作性とも大きく進化した「TS-E90mm F2.8L」、商品撮影からスタジオポートレートまで幅広く活用できる「TS-E135mm F4L マクロ」のラインナップがある。数多くの建築写真家が「TS-E17mm F4L」を使用している。
ティルト・シフトレンズとは
TS-Eレンズとは、遠近感とピントの合う範囲をコントロールできる、アオリ機構を搭載したマニュアルフォーカスレンズ。目的に合わせてティルト(レンズを斜めに傾けピントの合う範囲を調整)とシフト(レンズを水平・垂直方向にずらして歪みを矯正)を使い分けることができます。Lレンズならではの高画質と優れた操作性が特長です。 (キヤノンWEBサイト TS-Eレンズについてより抜粋 )とあるが、主に、次の2つの機能と言える。① カメラセンサーと並行になるようにレンズを傾けてピント面が合う範囲を調整できる「ティルト機能」、② 撮影できる画角を上下左右にずらすことができる「シフト機能」
普通に撮影した場合
建築物の最高高さが高い被写体の全体像を構図内に収めるように撮影すると、カメラを斜め上方向に向けて建築物を見上げるような撮影方法となる。そのようにして撮影されたのが写真『A』である。この写真は建築物のすべてが構図内に収まっているため良いような気もするが、商業用の建築写真としてはNGである。写真『A』は、全体の水平が取れているものの、消失点が構図中央上部になることににより、構図中央上部に向かってパースが発生し、建物の上部が小さくすぼまっている。そこで、パースの消失点が構図中央にもってくることが必要であり、「水平垂直を合わせて撮影」したのが、次の『B』である。
水平垂直を調整して撮影した場合
建築写真の大原則通りに水平垂直を合わせて建築物にレンズを向けて撮影したものが写真『B』である。消失点は構図中央になり、正対撮影における正しいパースになるが、建造物の上部は構図から外れてしまい、その分構図内の下側に余分なものがたくさん写ってしまうことがわかる。そこで、撮像素子やフィルムに対して精密に「中心」と「垂直」が保たれている光軸の中心を大きく移動して撮影できる、シフト機能をもつシフトレンズで撮影することが求められる。そこで、ティルト・シフトレンズのシフト機能をもちいて、撮影したのが次の写真『C』である。
ティルト・シフトレンズのシフト機能で調整して撮影した場合
写真『C』は、写真『B』で見切れていた建築物の上部が、建築物の水平垂直が確保されつつ、構図内に収まっているのがわかる。超広角のティルト・シフトレンズは、狭い場所を撮影する際や、外観撮影のときに後ろに退けないときなどに便利である。
ソフトウェアによる変形処理
近年は、「Adobe Photoshop」や「Adobe Lightroom Classic」やアプリなどの画像処理を使用して、ティルト・シフトレンズを使わずともデジタル補正で擬似的にシフト撮影に近い効果をつくりだすことが可能となった。次の写真は、先程のカメラを斜め上方向に向けて建築物を見上げるような形で撮影した写真『A』を「Lightroom Classic」で、水平垂直を補正したものである。
ソフトウェアの変形補正のデメリット
デメリットは、画像変形補正のプロセスで元写真のイメージが欠損し、下部部分や左右のトリミングが必要となる。それは、写真の構図範囲が狭くなり、画素数の低下につながる。また、撮影現場にて正確な構図を確認できないため、頭の中で水平垂直補正後の構図を想像しながらの撮影となる。もちろん経験によって仕上がりの構図を想像しながらの撮影も可能であるし、テザー撮影してその場でデジタル補正することもできるが、仕上がりの確認はどうしても撮影からワンテンポ以上遅くなってしまう。何よりも、キャノンのティルト・シフトレンズ「TS-E17mm F4L」は、超低歪曲かつ画面周辺までの高画質化を実現していることもあり、描写が美しく撮れるレンズであることも、建築写真で必須な機材と言える。
【番外編】シフト撮影+合成
レンズを水平垂直方向にずらしたシフト撮影を上下左右で撮影したものをパノラマ合成して、構図範囲を広げることができる。17mmの超広角レンズでも建築物がワンカットで撮影できない場合、ティルト・シフトレンズのシフト機能を使用した撮影方法である。上下にレンズをシフトすることで、消失点を変えないで3枚の写真を撮影することができる。画像処理のソフトウェアを使用し、3枚のカットを1枚に簡単に合成できる。このことにより、水平垂直を保持した状態で、17mmの超広角レンズを超える範囲の撮影が可能である。
参考文献:教会建築家の推薦書籍
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