林 和広

日本聖公会(キリスト教)の牧師 関心のあるテーマに関する本(洋書)を訳していきたいと思います。

林 和広

日本聖公会(キリスト教)の牧師 関心のあるテーマに関する本(洋書)を訳していきたいと思います。

マガジン

  • トマス・クランマーの生涯

    聖公会における重要な人物、トマス・クランマーカンタベリー大主教の伝記を著したDimamaid MacCulloch著「Thomas Cranmer - A Life -」を試訳していきたいと思います。原文では註釈がありますが、ここでは割愛しております。

最近の記事

第1章 簡素な従者(1489-1503)

ノッティンガムシャー州のアスロックトンは、最も有名な子供を記念するために、世俗的および神聖的な面において最善を尽くしている。小さな村の中心にある二つのパブのうちの一つに「クランマー・アームズ」と名づけられたパブがあり、看板には一族の紋章が誇らしげに掲げられている。宗教改革から約300年後、ヴィクトリア朝がここに新しい教区の教会を建てたとき、クランマーが知っていた礼拝堂が処分されることになったが、その建物が「聖トマス」という名に対する敬意のうちに献げられることになった。これは英

    • クランマーの生涯 はじめに(6)

      (5)の続き  過去の不協和音な声を意識して、私はトマス・クランマーを英雄にも敵役にも仕立て上げようとは思わない。私たちのほとんどがそうであるように、彼もまたその両方である可能性がある(クランマーの成熟した福音主義神学においては、人は聖人にも罪人にもなり得るということに激しく反対したであろうが。つまり、神によって救われるまでは皆、罪人である)。しかし、クランマーの行動は、対照的な仕方でしばしば正当且つ明瞭に評価されている。だが、読者は彼が20年以上にわたって大主教を務め、私

      • トマス・クランマーの生涯 はじめに(5)

        (4)の続き  同様に、トマス・モア卿、ジョン・フィッシャー主教、そして1540年代後半までの英国民の大半が奉じた宗教を’保守的’あるいは’伝統主義的’と評したことに異議を唱える読者もいるかもしれない。これらの表現はホイッグ的な響きがあり、1500年代、1510年代のエラスムスの人文主義から見ると理解し難いものであることは十分承知している。これらは、クランマーおよび改革志向にあった彼の同僚たちが、モアやフィッシャー、エラスムスの宗教心より先進的あるいは近代的であることを意味

        • トマス・クランマーの生涯 はじめに(4)

          (3)の続き  本文の中でしつこく繰り返されるある用語の使い方は、一部の読者には奇妙に感じるかもしれない。‘プロテスタント'や‘ルター派’のような、イングランド宗教改革の初期段階で問題となる用語を除いて、私は今日の多くのチューダー朝研究者と同様、1520年代から1530年代にかけて、イングランドで展開された宗教改革主義を‘福音主義(evangelical)という言葉で表現している。‘プロテスタント'という用語がイングランドで定着したのは、1553年以降のメアリー1世の治世に

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        • トマス・クランマーの生涯
          7本

        記事

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(3)

          はじめに(2)からの続き  その友人たちはこのようなクランマーの隠された素性を暴露することはなく、クランマーの私的の顔はほとんどわからないままである。彼の公私の区別を示す例としてあげられるのは、300通以上残っている彼の手紙の中で、教会での自らのキャリアを危険に晒すことになった2番目の妻と子供に関してただ一度だけ言及されているものだけである。この沈黙は、エドワード6世の時代に彼が自分の家族を誇りとし、喜びとして公然と示した時でさえも貫かれている。ただ一度だけ言及されたその一

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(3)

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(2)

          はじめに(1)からの続き  クランマー自身の寡黙さが、彼の自身の物語をより大きな公的な問題と同一視することへと促している。彼は非常に物静かな人物で、感情を隠すのが常であったと彼を敬愛する執事であった初期の伝記作家ラルフ・モリスは語っている。 「彼はどんな繁栄や逆境でさえも彼の習慣的な状態を変えたりすることができないほど、熱量の高い、否、むしろ自らの感情を抑える人だった。というのも、政治、社会の動揺がこれほど醜悪であったことはなく、また、当時の経済的な豊かさがこれほど愉しく

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(2)

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(1)

           少しずつですが、Diarmaid MacCullochの『Thomas Cranmer - A Life』の試訳を投稿していきたいと思います。  トマス・クランマーは16世紀の宗教改革の時代に、イングランドの教会がローマ・カトリック教会から分離し、独立した時のカンタベリー大主教でした。聖公会の特徴の一つに祈祷書を用いるという伝統がありますが、クランマーはイングランドにおける聖公会祈祷書のパイオニアとして憶えられています。私は2003年に聖公会の神学館の門を叩きましたが、入

          トマス・クランマーの生涯 はじめに(1)