[実体験を小説チックに] 旧友と彼女
「生きてる?」
生存確認から始まる、友2人の何ヶ月ぶりかの会話。
音信不通の旧友の身を案じる彼女の表情が、張り詰めた糸のように強張る。
小刻みに震える人差し指がタイピングをいたずらに妨害し、彼女の瞳には憂いと苛立ちが入り混じっていた。
残暑厳しい中、街路樹の蝉は既に己の役目を果たしきったと言わんばかりに意気消沈し、死に遅れた数匹がマンションの階段でのたうち回っている。 無様な彼らには目もくれず、古びた自転車にまたがり古びた図書館まで疾走する、そんな代わり映えしない毎日。自分は本当に大学生になれるのか。浪人中の旧友は答えの出ない問いをひたすら反芻していた。
日々机に向かい精進する旧友と相反して、勉学に励むべき大学生期間というモラトリアムをのうのうと浪費していく毎日に彼女は後ろめたく思いつつも未だ脱せずにいた。背伸びをした服と顔に身を任せ、新歓でナンパしてきた彼氏と待ち合わせる煌びやかな街に繰り出す彼女。かと思えば、課題もろくに出さず、冷え切った部屋に1人、ポテトチップスをむさぼり、尻をぼりぼり、興味もないアニメを流し見する彼女。まだ1年生だから大丈夫と己に言い聞かせながら。
旧友にとってそれは、ネット上とはいえ、久しぶりの外界人間との会話であった。懐かしき友からの安否確認は、少しばかりの面映ゆさを心に抱かせる。
しかしながら、旧友は薄々気がついていた。
結局のところ彼女は、旧友の近況なんぞに興味はなく、旧友と約束している春先のスノーボード旅行が無事開催されるかどうかのみを懸念していることに。
生と死の狭間で、か弱い心身そして崩れ落ちる自信とを携えて、旧友は、ただひたむきに、存在すら不確かな結末を追い求める。
懐かしさと心の燻り。
いつにも増して緩む涙腺が大概いやになったところで、三百二十四円を握りしめ、コンビニに涙腺コルクを買いに行く。
悩める子羊どもなんぞお構いなしに、日々は続く。
ふと、毎日欠かさず昇る朝日が愛おしくなった。
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