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N市のTRNラジオについて考察する(1)

さて、ネタバレの地雷を踏まないよう、気をつけながら考察をすすめましょうか。

何より、村山仁志さんの『午前0時のラジオ局』シリーズ(現在3巻、プラス、スピンオフ1巻)に登場する、ラジオマニアの心をくすぐる謎のラジオ局『TRNラジオ』に対する考察が第一です。

まず、この局は『N県』のラジオ・テレビ兼営です(つまり、ある程度の経営規模がある)が、ラジオの制作拠点を山の上の、繁華でないエリアの、古い洋館に置き、テレビの制作とはっきり体制をわけています。これは、2巻に登場する鴨川アナの同期のテレビディレクターの動きをみればわかる通りで、ラジオとテレビの両方の体制にまたがる人がほとんどいないことになります。

この『TRN』という会社については、3つの可能性が考えられます。

・ラジオN(仮称)が先に開局し、テレビ放送をあとから始め、そのとき『TRN(テレビラジオN)』になった。

・テレビ放送局(例えばテレビN)が先に開局し、あとからラジオ放送を始めた。

・もともとあったラジオ局とテレビ局が合併してTRNになった。

日本や世界には実際にそんな例があります。

まず、ラジオ先行で開局した兼営局はたくさんあります。どれもラジオ時代の経営実績を基盤に開局した、地元で力を持つリーダーカンパニーである事が多いです。

テレビ先行で開局した例は、北海道のSTVです。もともと札幌テレビ放送として開局し、その経営実績を基盤としてSTVラジオが開局しました。現在は分社化されましたが、同じSTVというブランドを持っています。

合併については、三つ特殊な例があります。一つは、完全な合併形態ではないのですが、名古屋の東海ラジオが開局する前に、同じ経営母体が東海テレビを開局させました。そもそも東海ラジオは三重と岐阜のローカル局が合併して名古屋に進出した特殊な成り立ちで、たまたまテレビが先に実現したということです。ただ、企業としては別で、それなのに、局所はお隣どうしだったりします。なんだか仮面夫婦を見るようです。

もう一つは、現在のRKB毎日放送です。もともとはラジオ先行で開局したRKB(ラジオ九州)という放送局が福岡市にあり、それとは別に、小倉に『西部毎日テレビジョン』という、関門地区を対象としたテレビ局が設立されました。しかし、郵政省の勧告もあり、ラ関門地区のテレビ事業を始める前にRKBと西部毎日テレビジョンが合併して『アールケービー毎日放送』という長い名前の会社になりました。

三つ目は、日本で最初に開局した民間テレビ放送局『日本テレビ放送網』です。もともと、アメリカの極東防衛のためのレーダーネットワークを活用した、テレビ・ラジオ・ファクシミリ新聞・出版などの兼営メディアを設立することを前提に設立されましたが、結局はテレビだけでスタート。長らくラジオに進出していませんでした。

しかし、のちに、経営難に陥った横浜のラジオ局『ラジオ関東』の経営に参加し『ラジオ日本』と名前を変え、現在は日テレグループのラジオ局になりました。ほんとは『日テレラジオ』と名乗りたいようですが、規模が違いすぎて、ほとんど事業的な接点はありません。

TRNについて考えるとき、まず頭におかなければならないのは『テレビ部門と本社機能は繁華なエリアの近代的な局舎におかれ、ラジオ部門は山の上の戦前に建設された古い洋館におかれている』ということです。

第3巻を読むと、ラジオ局には古いラジオマスターがあり、ここがかなり古くから使われていることがわかります。

ただ、最初にここでラジオ事業を始めたとした場合、あとからテレビ事業用に新局舎を建てたとき、普通はそこにラジオ部門も置き、集約化します。これは、経営的に最も理にかなったやり方です。しかしTRNは新しい局舎にラジオ用の制作拠点を設けませんでした。ここが、この謎の放送局を解く鍵になりそうです。

テレビ事業が先行して、あとからラジオ事業を始めるときにわざわざ洋館に置いたという可能性もありますが、それは個人オーナーのいる放送局(例・ラジオ関西)ならありえない話ではないでしょうが、わざわざ外に建物を借りることは考えられません。個人オーナーの放送局なら、オーナーの資産を活用する可能性はありますが。

やはり、合併説が有力だと思います。もしかしたら、ラジオはオーナー経営の放送局として開局し、テレビはオーナーが地元財界に呼びかけて開局したのかもしれません。もしこれが合併してなければ、ラジオ大阪(前田久吉がオーナーになって開局した)と、関西テレビ(前田久吉や小林一三が組んで共同で開局した)みたいな関係になります。

とりあえず、N市には、美学性の強い経営物がいて、ラジオとテレビの設立に関わったと考えられます。その経営者一族にとっては、このラジオ局は宝物のような存在であり、『午前1時開始のネットワーク番組をとらず』に、ローカルの深夜番組が実現しているわけです。そんな骨っぽいところが、昼間のあおいアナの番組にも反映されているのかもしれません。

まとめると、TRNは、同じ設立発起人を持つ、性格の違うラジオ局とテレビ局が、合併でとりあえず同じ社名を使っている、ということなんだと思います。もしかしたら、琉球放送のラジオ部門『RBCiRadio』みたいに、社内カンパニー制を敷いているかもしれませんね。

妄想は、まだまだ続きます。

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