『チャンプ本にこだわる理由』〜ビブリオバトルとラジオ
7月21日14時から横浜市戸塚の東急プラザ戸塚1階上りエスカレーター前で行われる『ビブリオバトルin 有隣堂』に出場するのですが、連戦連勝のワタクシとしては今回も負けるわけにはいきません。
とはいえ、ビブリオバトルは、一冊の本と、それに騎乗するジョッキーのチームワークで勝敗が決まるものなので、私のコンディション以上に本のコンディション調整が大変です。
『五分間で人を惹きつける』
これはまさにラジオ放送の原点とも言える領域で、実際、アメリカで世界最初の公式な商業放送がスタートしたときのビジネスモデルと類似します。
1920年当時、アメリカのピッツバーグでKDKAがはじめて商業放送の本免許を取得。以後、あっという間にアメリカじゅうに町単位の放送局が誕生しました。
このとき、放送でかけるレコードの大半は、地元のレコード屋さんから試聴盤(販売用のものと同一内容)を借りていましたが、レコード屋さんとしては、放送でレコードがかかり、そのレコードをアナウンサーが紹介することで、お店に人々が買いに来る、というモデルを想定していて、それは大成功。世界中でそれが導入されました。
この時の、レコードと紹介者の関係が馬に例えられ『ディスク・ジョッキー』という概念が誕生しました。やがて戦後、日本放送協会でレコードの合間に雑談(台本はある)をするラジオバラエティが人気を博し、これが日本でのディスク・ジョッキーの主流となりました。この時は元新京放送局のトップアナウンサーであった森繁久弥さんが担当しました。
一方、アメリカを筆頭とする商業放送の発達した国では、レコード屋さんの代わりに、レコード会社が試聴盤を配給して売り上げの呼び水にしました。
ディスク・ジョッキーは、日本ではパーソナリティ志向の評価が中心ですが、アメリカでは、どれだけレコードやスポンサーの商品を売り、どれだけ経済を動かしたか、で評価されてきました。まさにアメリカ式のテレビショッピングの原流はここにあるといえます。
このとき、バイヤーでもあるディスク・ジョッキーは、自分のアピールと商品やレコードのアピールのバランスで苦心します。語り手が突出すると商品の印象が薄くなり、しかし、商品を推しすぎると(どんな優れた商品でも)自然と人々に抵抗感がわいてきます。ここをどううまく調整するかがラジオショッピングのポイントでもあるのですが、この感覚はビブリオバトルにもそのまま当てはまります。もちろん『勝ちに行く』という目的の場合は、であって『少しでも紹介できればそれで満足』という方はもっと自由なやり方があるとは思います(案外、それがウケたりもする)。
しかし、私としては(職業柄もあって)自分が騎乗する本を勝たせて、かつ、その勝利によってその本が少しでも売れるようにしたい、という想いがあります。だから『勝ち』にこだわりたい。
前回の横浜でのビブリオバトルでは、村山仁志アナウンサーの人気小説『午前0時のラジオ局』を取り上げ、この、ソフトなエンタテインメント小説を『深夜の投稿番組の本質論』に読み替えて、当日のテーマであった『メディア』に真正面からぶつけました。勝負のキーワードは『情報とは、幽霊だ』。たった五分の中で、ラジオ放送の本質だけでなく、情報とは何か、とか、ネット上に流布する拡散情報の問題、デマゴーグとその対処の考えかた、情報という幽霊をマスメディアが成仏させることの重要性…などを一気に語り込みました。
この手法を取ったのには大きな事情がありました。それはこの作品が小説であるため、ネタバレに気を使わなければならないという事です。どこまで紹介していいのか、です。
かなり悩んでいたのですが、6月の頭に著者の村山アナウンサーがTBSラジオの爆笑問題の番組に出演した際、太田光さんの問いに答える形で『幽霊のディレクターがいるラジオ局の話で、生きてる人と幽霊の両方がリスナーなんです』と答えたのが扉を開く鍵となりました。つまり、ここまでは語ってよい、というわけです。
実は、この一言がこの本をチャンプに導きました。『生きてる人と幽霊の両方がリスナー』というのは、ラジオの投稿番組でいえばラジオネーム論と重なります。そして、ハガキ時代からの投稿番組の歴史にストレートに繋がりました。そこから『情報とは幽霊ではないか?』という仮説が生まれ、そこに、私が数年前から提唱しているジャーナリズムの考えかた『事実は真実ではない』という話とも結びつきました。これが結びついた時の瞬間はよく覚えています。お風呂の中でした(笑)
さあ、問題は、これだけの重厚長大な情報の塊を、どう、押し付けがましくならずにサラッと伝えるか。ここからは話術の領域になりますが、私はあえてその手段をとらず、聴き手の問題意識や、聴き手が持っている最近の時事問題の知識を受け皿に指定して、必要最小限のキーワードを投げかけました。すると、聴き手の皆さんは、こちらが省略した部分を自分で補正してくださるのです。猛烈なスピードと量でありながら、この本が聴き手の皆さんの共感を呼び起こしてくれたのには、聴き手の皆さんの問題意識や知識力、教養力によるところも大きいとおもいます。やはり、ビブリオバトルは、隅から隅まで『交流』が主体なんですなあ。
というわけで、七月に向けて準備をしているわけですが、テーマは『こわい本』。私としては今回も『村山仁志牧場』のお馬さんに勝たせたいと思っておりまして、以前から注目していた牝馬を選びました。美しい芦毛の馬です。ドウドウ。そして、今朝ほど『アルフレッド・ヒッチコック』という勝利のキーワードが降りてまいりました。
ぜひ、戸塚の有隣堂競馬場(笑)までお越しください!
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