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『午前0時のラジオ局』のTRNラジオを推理する(3) N県N市の立地とその特殊性

さて。(ここで紅茶を啜る)
『午前0時のラジオ局』シリーズの舞台であるN県N市について推理してみよう。

まず『事件記者星乃さやか』にはN県が『九州』にあると書かれている。そして、N県内山間部の夏の植生や生物について、具体的な描写がある。これは必ず購入して資料に加えて頂かなければならない。

そうなのだ。このシリーズを読み解くには、全巻揃えなければならないのだ。もちろん、単独でも楽しめるようにはなっているのだが、この世界観をより五感を交えて楽しむには全巻あったほうが絶対に楽しいのだ。

また『九州』にある、と書いてあるからといってN県が実在するNで始まる県と同一とは限らない。それはBBC Radio4で70年近く続いている連続ラジオドラマの舞台と同じで、ある地方の特性を帯びた架空のパラレル世界を舞台としたほうがいい場合もあるのだ(最新刊で村山さんが実名を出したら話は別だ。村山さんが法律なのだから)。

さて、作品に出てくるいくつかの地名を洗う前に、放送行政上の視点から、N県N市の特異性について読み出しておきたい。


通常、日本ではラテ兼営局はひとつの県域、あるいは共通の圏域(首都圏、中京圏、京阪神圏)をラジオとテレビの両方が共有してサービスしている。
しかし、日本では例外が二社ある。

・長崎放送の場合、ラジオは長崎・佐賀の2県だが、テレビは長崎県内のみをターゲットとしており、佐賀県の県域テレビはサガテレビの仕事である。

・京都放送の場合、滋賀県にKBSラジオ滋賀放送局があるが、テレビ放送局はない、滋賀県の県域テレビはびわ湖放送のサービス範囲である。

TRN放送会社の場合、テレビは一般的な県域テレビ局の規模のようだが、ラジオはそれに釣り合わない『小ささ』で、こんなケースは日本テレビグループに吸収されたRFラジオ日本以外に見当たらない。

ただ、これはあくまで日本テレビが、ラジオというメディアがほしくて(ジャイアン戦のラジオ配給権などが獲得できるのだ)買収したものだから、TRNを読み解くためのヒントにはならないだろう。

TRN放送会社を擁するN県の立地については、第1巻 ページで、ラジオ番組の多くが『ローカルタレント』の担当で放送されている事が述べられており、これが重大なヒントとなる。

ローカルタレントが存在するには、収入源となる仕事の場が充分なければならない。小さな町の場合、多くは地元の店の経営者や名物店員であることがよくあるが、ひとつのラジオ局の番組枠を満たすほどの人数はいないし、いたとしても、それほどの仕事はない。

ここで考えられることとして、N県が、大きな都市を擁する県に隣接している可能性だ。それならば、タレントは大都市とN県の両方で活動できる。大都市には大きな放送会社もあるはずだ。

この『大きな放送局』が、TRNにいびつな形を与えている理由かもしれない。

この地方には、まずこの『大きな放送局』のラジオが開局し、まもなくテレビも開局しただろう。

ラジオは都市の規模に合わせて、早くから10kWが与えられただろう。1950年代、民間放送に与えられた最大の出力だ。その電波は周辺の県までカバーしただろう。当然N県もサービスエリアに含まれていたかもしれない。

しかし、このN市は、海に面した、大きな山を背に配した地域にあり、『大きな放送局』のラジオの受信状態はよくなかったに違いない。そこで、きっと『大きな放送局』は、この町に中継放送局を設けようとしただろう。これは妥当な推理である。

しかし、結果として中継放送局ではなく、TRNラジオが開局したのだろうか。

そこで考えられるのが、地域の有力者の『制空権』意識である。つまり、自らの地元の空が、他の商圏や県の放送局の電波で占められることに対する危機意識だ。実際、その力を反動として放送局設立が進んだのが、河北新報をバックに東北全土にネットワークを作ろうとしていたラジオ仙台の進出を阻むために秋田魁新聞がバックについた秋田放送の前身・RTCラジオ東北である。

郵政省の指導などもあり、ごく小さな出力で免許されたのがTRNラジオだろう。

一方、テレビはVHFを使用するため、大きな放送局といえども中継局なしに他県に進出はできない。

県内の半分のリスナーを隣の大きな放送局に奪われた弱小ラジオ局と、県内最初の人気民間テレビ局。非常にアンバランスなセットのできあがりだ。

しかし、そうまでしてラジオ局を守ったのはいかなる思惑か。

推理としてはちょっと踏み込み過ぎた感もあるが、楽しくてしょうがないのだ。いったん休憩して、角度を変えて見よう。地理とか。

紅茶のおかわりを。ニルギリがいいな。

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