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【ちょい怖】古本の話

僕は古本が好きで、古本屋巡りなどをするのだけど、特に好きなのが店先のワゴンに無造作に置かれた100円セールなどの本たちだ。

たまたま会社の近くには古本屋の多くて、帰りにワゴンを覗いて帰る。

ワゴンの中には訳あり品がたくさんあって、部数が出て値崩れしたものや、日焼けや破れなどがあるのもなど様々である。

中でも僕が好きなのは、書き込みのある本だ。

書き込みにはその人の個性があふれていて面白い。そんな本を気づかずに買取してしまったお店は落胆することだろう。もちろん、書き込みのある古本を買ってしまった一般客はなおさらのことだ。

しかし、僕は書き込みがある本を読むのが好きなのである。

書き込みは人それぞれで、線を引いてある場所というのは、その人が重要と思ったり感銘を受けた部分であることが多い。

本の3分の1ぐらいのページに線が引いてあったときは、この人は線を引かないと本が読めないのではなかろうかと思った。

英語の辞書でamに赤線が引いてあったりして、それは辞書を使うレベルに達してないだろうと、心の中でツッコミながら読むのである。

落書きやメモもなかなか味がある。哲学書に突然、たまごを買うなどと書かれていると、腹は減っては哲学はできんなぁと思ったりする。

パラパラ漫画の力作なんかも楽しいし、偉人への落書きは定番だ。

ひとしきり楽しんだら、その本は捨ててしまう。買取もされないだろうし、本の内容自体にはあまり興味はない。取っておくと際限なく増えるし、古本独特の匂いが部屋に充満してしまうのた。

あるお店のワゴンの中にとても気になる本があった。文庫本らいしのだが、カバーがないのはもちろんのこと、茶色い表紙がさらに日に焼けすぎて、もはや書名も著者もわからない。

流石に状態が酷すぎて、手に取る気もならないのだが、ずっとワゴンの中にあるのだ。

いつからあるのかは定かではないが、少なくとも僕が気づいてから1年はワゴンの中にある。

こんな本が売れるわけないので、捨てればいいものを、何故だかずっとワゴンにあるのだ。多分、1年経って残っているのはこの本だけなのだ。

その日は何気なくその本を手に取ってみたくなった。パラパラとめくると中も紙魚が食ったように穴もある上に、インクがずいぶんと掠れている。

しかし、所々に赤ボールペンか何かで書き込みはがあった。何か面白そうだったので、買うことにしてレジに持って行くと店主が

「あれ?そんなのあったっけ?状態が酷いんでタダで持っていって良いよ」と、タダで持って帰ることができた。

うちに帰ると早速本を開いた。

…が……であるからして、その由縁は……しからむ。

結構古い感じの言い回しの上に、状態が悪すぎてほとんど内容は読めない。

読み進め行くと赤ボールペンのような物で

「必ず見ているぞ」

と、いう文言とともに人の目のような落書きがあった。

街中でよく防犯の意味で張られているステッカーのようなやつだ。

本は古そうだが、落書きは比較的新しいのかもしれない。

パラパラめくると、また

「必ず見ているぞ」

の文言と、目のような落書きがあった。

もっと面白い落書きがあるかと思っていたのだが、同じ落書きばかりで期待外れだった。

半分くらいみたところで読むのをやめてしまった。

がっかりである。

もともとタダで貰えた本だし、うちに帰るまでの時間は期待で楽しめたので、良かったとしようと、本を閉じて床についた。

あくる日、この前は期待外れの本だったので、今日は掘り出し物を見つけたいと、古本屋に向かった。

ワゴンを漁っていると、足元に何か光るものがあるのに気づいた。100円玉が落ちていた。100円均一の本を買おうと、100円玉を用意してうっかり落としてしまったのだろう。

周りに誰もいなかったので、ラッキーとばかりに100円玉を拾ってポケットに入れた。近くの100円均一の格安自販機で缶コーヒーを買って帰った。

掘り出し物も見つからず、うちに帰ると手持ち無沙汰に昨日買った、判別不能の古本をパラパラめくった。

「見ているぞ」のほかの文字が書かれているページがあったので、めくる手を止めた。

「盗んだな。必ず見ているぞ」

思わず自分のことを言われた気がしたどきりとした。

なんだか気味が悪くなったので、本を持って家を出ると、ゴミ捨て場に置いてきた。古紙回収の曜日ではないし、夜中ではあったが一刻も早く捨てたかったのだ。

そんなことがあって趣味の古書店巡りをしばらくやめていた。

あの本を買ったお店の前を通りかかり、ふと、ワゴンに目をやると、日に焼けた書名もわからぬ本があった。

あの本とよく似ている。

僕はたしかに捨てたはずだ。まさかそんなことがあるわけないだろうと、ワゴンを覗いてみると、まさにあの本なのだ。

そんなバカなと、本を手に取る。少しめくると、文字の判別のできない虫食いと、あの特徴的な目の落書きが目に入った。

「ひっ」と声を出して、本を投げ出してしまった。

本に確かにこう落書きされていたのだ。

「夜中に本を捨てたな。必ず見ているぞ」




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